映画評「シンドラーのリスト」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1993年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

アメリカではスティーヴン・スピルバーグの作品の中で一番評価されている作品である。今回が長い上映時間のせいもあって2回目にすぎないが、やはり見応えたっぷりで画面に釘付け、前半怒りまくり、最後は涙した。お馴染みの作品ながら、簡単にストーリーを書いておく。

1939年ナチス・ドイツはポーランドに侵攻、ユダヤ人が繁栄させていた都市クラクフも占領する。そこへ一旗上げようとナチス党員の実業家オスカー・シンドラー(リーアム・ニースン)がやって来て琺瑯(ほうろう)工場を設立、ユダヤ人を雇用する。人件費が安いというのが主な理由だが、結果的に後日できる収容所へ送られる人々を救うことに貢献する。
 最初に雇ったユダヤ人計理士イザック・シュターン(ベン・キングズリー)が実に優秀で、会社は順調に業績を伸ばしていく。そこへ収容所所長として冷酷なゲート少尉(レイフ・ファインズ)が赴任、政策とは別に無軌道にユダヤ人を殺していくが、シンドラーの一言で短い期間人道的になろうと努めたりもするし、自らの栄達の為にユダヤ人にプラスになることもする。
 その結果、クラクフの収容所がその役目を終えユダヤ人がアウシュヴィッツに送られることになった時、シンドラーがシュターンに作らせた新工場への雇用者リストが効果を発揮して、女性たちが一時期アウシュヴィッツに送られるミスもあるが、最終的に1100人の人が救われる。

きちんと描写された時のホロコーストの凄惨、シンドラーのヒューマニズムという素材自体に感動を喚起する要素が内包されているのは言わずもがなであるが、それでも脚本・演出がダメなら絵に描いた餅に終わってしまう。本作では脚本が実によく整理されているに加え、スピルバーグの語りが非常に正確かつ滑らか。お見事と言うしかない。最近のユダヤ人ものはホロコーストの周辺を描くことが多く大きな義憤に駆られることが少ないのに対し、ここまで直球的に描かれるのを見るのはいかにも辛い。しかし、義憤=感動ではあるのだ。

さて、四半世紀前に観た時は最後に生き残った実際の人物が登場してくるのを見て、映画としてこの部分はない方が良いのではないかと感じ、評価を少し下げた。作られたものは、いかに上手かろうと、実物には敵わないと思ったのだ。実際に生き残った人々が見ること、それ自体に得も言われぬ凄味があるのだ。しかるに、今回は余り気にならなかった上に、生存者とそれを演じていた俳優が一緒にシンドラーの墓参をするのを見てじーんとさせられ、プラスになることこそあれ、マイナスにはならないと感じたくらい。

技術的には現在の実写部分以外全編モノクロの中二か所あるワン・ポイントのカラー映像が強烈な印象を残す。一番は赤い服を着た幼女である。恐らくシンドラーの目に強く入ってきたということを示すもので、最後死体として出て来る時に大いに心を揺さぶられることになる。自由に動き回わっていた(実は逃げ回っていた)天使のような幼女の死。余りに悲しいではないか。
 因みに、映画ファンならお解りであろうが、この扱いはスピルバーグが敬愛する黒澤明監督の「天国と地獄」(1963年)における赤い煙へのオマージュである。あの幼女は岡本喜八監督「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971年)の彷徨う幼女に影響されたものか?
 もう一つは、黄色いロウソクの火。この黄色は希望の光ということだと思う。

本作の目立つ欠点は、最後のイスラエル建国の暗示で、これこそはないほうが良い。ユダヤ人スピルバーグの思いは解るのだが。

Allcinemaにホロコースト捏造説に則る馬鹿げた意見が載っている。一々反論するまでもない。当のドイツ人が反省をしてアンチ・ナチスの政策を取っていることが全てを物語る。どの国もどんな国民もやっていないことを認めて対策を取ることなどあり得ないからだ。ホロコースト捏造論者は南京大虐殺などの捏造説をホロコーストにまで敷衍したのであろうが、自国民を馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたい。彼らが正しいのであれば、ドイツ人はやっていないことも深く反省できるのに日本人はできないということになるではないか。それとも日本に紹介されているドイツはこれまた捏造なのですかな?

この記事へのコメント

浅野佑都
2018年12月05日 19:51
この作品からスピルバーグ組に加わった撮影監督のヤヌス・カミンスキーの手腕が目立ちます。
モノクロフィルムの中、俳優の顔に刻まれる陰影(「ゴッドファーザー」でマーロンブランドの目を映さずに常に暗い影の中で撮影したのを彷彿させる)、シンドラーが、初めてナチス幹部の群れるクラブに入ってゆく場面などワンカットの長回し等、過去のスピルバーグ映画に欠けていた重厚さが加わり、最後のピースがハマった印象でした・・。

 最初にいくつかある笑いのシーン(秘書の採用試験や、収容所送りになりそうだったキングズレーを助けるために取った行動や、ゲットーで盗みを働いた男(すでに死体)を子供が密告するシーンなどは、映画の中の一服の清涼剤のようで唸らされます。
(韓国映画のように変に下卑た笑いでなく、ウィットに富み皮肉が利いているので、重苦しい作品のなかでも不謹慎さがない)

 賛否両論ある、ラストの生存者とその遺族が俳優と石を積むところは僕も同感で、今回のプロフェッサーの評をもって僕の中でも決定版とすべきでしょうね・・。

技術的なところを上げればキリがないですが、それ以上に、映画の力を信じて撮り切った、スピルバーグの心意気まで感じさせる力作でした!(戦争の実相は、当事者自身にも記憶の風化、再構築もあり定かではないと思われます。その意味で、この映画の「感動的な描写」が「ホロコーストが何であったのか」を忘却させてしまうというランズマンなどの批判は当たらない、と僕は考えています)
オカピー
2018年12月05日 22:40
浅野佑都さん、こんにちは。

>スピルバーグ映画に欠けていた重厚さ
モノクロという手法もそれに貢献しましたね。
それにドラマ映画に必要な情味(柔らかみ?)も加わったように思いました。
「カラー・パープル」も「太陽の帝国」も定規を使ったようにきっちりと作られていましたが、どうも情味が欠けていた気がするわけです。本作にも依然定規性はありますが、エモーショナルに見ることができたように感じます。

>子供が密告するシーン
頭が良く同時に勇敢な少年と思わされましたよね。微笑ましい良いエピソードでした。

>韓国映画のように
アイデアは良いものが多いですが、大半の作品が僕の目には泥臭く野暮ったく見えるんですね。それが日本映画に欠けている馬力ともなっていますが、馬力より欠点が目立つというのが僕の今のところの韓国映画全般への評価です。

>僕の中でも決定版とすべき
恐れ入ります。

>ランズマンなどの批判は当たらない
その通りですね。
 今日「涙のメッセンジャー」という作品の映画評でも述べたのですが、一般的な人々にはエモーショナルに見せる必要があると思うわけです。全ての人が高度な思考を持っているわけではない以上、関心を持たせることが重要ではないでしょうか。感動性のない映画を多くの人は求めません。見てもらえなければ、高度な見せ方も意味を成さない。スピルバーグはそれを知っていると思います。

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