映画評「あゝ、荒野 後篇」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・岸善幸
ネタバレあり

前篇の続きからお話を、僕の主観を交え、記してみる。
 建二(ヤン・イクチュン)は、介護施設とジムの土地の若き所有者(川口覚)により、引き抜かれる。作劇上これで建二と新次(菅田将暉)が将来対決する下地が出来る。しかも建二は新次の父親を死に追いやった男・建夫(モロ師岡)の息子だから、新次にとって闘うモチヴェーションになる。対して建二は相手が言わば被害者の息子であるからそういう憎しみが湧き上がり切らない。闘うことを自分を変える手段としている感のある彼であるが、憎しみなしに弟分の新次には勝てない。それが実際の闘いの結果として現れる

新次の恋人・芳子(木下あかり)を含めた三人の人生模様を描くのかと想像していたが、結果的にはそうならず、これは現実的なお話に見せかけた生と死の闘いの物語であった。新次は生、建二は死を表徴する。
 もう少し具体的に言えば、新次は死に抗い、建二は死に巻き込まれる。建二と父親は言わば死に憑かれた人々で、新次の父親は巻き込まれて死ぬことになるが、残された母親(木村多江)と新次は死に引き込まれることはない。

建二は言う、“繋がる為に新次と闘う”と。30歳にして童貞の彼は、自殺抑止研究会出身で死産した恵子(今野杏奈)に“あなたとは繋がれない”とも言う。建二が“繋がる”と言う時そこには死の意味が沈潜しているのではないか、そんな気がするのである。
 実際作者(脚本:港岳彦、岸善幸)は、3.11、イラク派遣(直接死者は出ていないが、自殺者が多い)、経済的徴兵(これは架空ということになっているが、実際にそれに近いことが既に行われていると聞く)という生死を分ける問題を物語の推進手段とし、それが特に如実に、鮮烈なイメージを伴って展開するのが、経済的徴兵制度に反対するデモ隊の脇を自殺防止研究会の若者と建夫が通り抜け、生と死が一戦を交えるリングへと向かう場面である。そしてリングで息絶える息子と共に建夫も息絶える。何とも象徴的ではないか。

現実的な物語として捉えれば、二人の決着の仕方に疑問が湧くが、生と死が闘う寓話と考えれば、逆にこの決着以外はありえない。そして、その意味は、人生と闘う人々、闘うことをテーマにした映画であるということである。そういう視点で映画を観た場合(僕にはそうとしか見られない)、主題提示の布石に推移する前篇より断然後篇が面白い。

建二が相手にヒットされたパンチをカウントアップする。数字はアップするが、彼の心の中でこれは死へのカウントダウンに他ならない。

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