映画評「嘘八百」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・武正晴
ネタバレあり

贋作美術と言えば偶然にも昨日NHK-BSが放映した「おしゃれ泥棒」(1966年)を思い出す。近年ではジョン・トラヴォルタが主演した「THE FORGER 天才贋作画家 最後のミッション」(2014年)という作品があるが凡作だった。本作は日本製のコメディー。

冴えない古美術商の中井貴一が、離婚した妻から押し付けられた娘(と言っても成人)森川葵を連れて、千利休の関わりの深い堺にやって来て、蔵のある家を訪問する。主人の佐々木蔵之介に見せられた古文書から千利休由来の茶碗があると踏んで計百万円で蔵の全てを買い取るが、古文書と箱は本物ながら肝心の茶碗が偽物と気づく。
 佐々木は優れた陶芸家だが、古美術商・芦屋小雁とTVにも出ている有名な鑑定家・近藤正臣に嵌められて落ちぶれた人物で、料理店主・木下ほうからと組んで凝りに凝った偽物づくりに励んでいる。中井は、この二人に嵌められ彼の作った偽物を顧客に売って信用をなくし妻とも別れたという経緯がある。
 事情を知った二人は同病相憐れむ関係になり、千利休由来に見せかけた贋物を鑑定家と古美術商に売りつけようと、精魂を傾ける。

贋物作者と目利き、目利きと目利き同士の騙し合いの面白さが眼目だが、邦画では珍しく情に傾きすぎず遊び心があるのが良い。お話の詰めも思ったより甘くない。例えば、鑑定家を騙しただけで終わりではダメだろうと思っているとエンドロールで鑑定家と古美術商のその後を見せたり、大量の現金を持って出国はできないだろうという疑問にもきちんと応えている。
 二番目の一幕に関連するのが娘・森川葵をめぐる二重のどんでん返しで、この畳みかけも面白く観られるのだが、惜しむらくは呼吸に問題あり。全体的にもっと呼吸が良くかつ洒落っ気があれば佳作以上或いはTV東京の鑑定番組流に“良い仕事してますねぇ”と言いたくなったであろう。

“呼吸”という指針は映画評において一種の逃げだが、映画(のカットやシーンの繋ぎ)には面白く観られるリズムや呼吸というものが確実にあり、特にコン・ゲームの類ではそれが重要と思う。悪しからず、といったところ。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2022年11月29日 06:20
おはようございます。一昨日見ました。目利き同士の騙し合いが面白かったです。佐々木蔵之介が一生懸命贋物作りをする場面も良かったです。しかし、最後の10分がよくわかりませんでした。娘(森川葵)の結婚式で刃物を持った女が現れる場面以降です。エンドロールが終わってネットでいろいろ調べてようやくわかりました。この作品は予算の関係で撮影機関が短かった。それで最後が中途半端になってしまったのかも知れません。

>名曲が生れる瞬間、曲が完成形に近づく過程が見られて、感動しました。

僕が若い頃はあのセッションはあまり好きではなかったです。年食ってから好きになりました。

>田原総一朗が面白いことを言っていました。野党を勝てなくしたのは警察だ、と。

その理由は何でしょう?

>インボイス制度

今調べました。ちょっと見ただけではわかりませんが。
下請け・元請け・消費者の中で一番損をするのは元請けですか?

>三権分立というけれど、日本の裁判所は官邸を怖がり過ぎていますね。

そして国会イコール内閣って感じでしょうか?
オカピー
2022年11月29日 19:24
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>最後の10分がよくわかりませんでした。

4年近く前のことでよく憶えていませんが、余り解らなかったという記憶はないです。ただ、拙速で呼吸がいま一つだったという感じがありました。

>僕が若い頃はあのセッションはあまり好きではなかったです。年食ってから好きになりました。

映画「レット・イット・ビー」は悪い箇所ばかり使用したのでそういう印象を受けた人が多いようですが、今回の「ゲット・バック」でそれを払拭した人も多いようです。ゴタゴタしているのは同様ですけどね。

>>田原総一朗が面白いことを言っていました。野党を勝てなくしたのは警察だ、と。
>その理由は何でしょう?

警察は保守本流の自民党の方が味方をしてくれるので、やりやすい(両者の関係性故に、安倍元首相のいずれの事件も刑事事件化しない)。

プロセスはこんな感じです。
小沢一郎の資金管理の民事訴訟にかこつけて、検察が刑事事件化する。結局は冤罪と判明する。
ところが、事情をよく知らない国民が小沢を悪役と決めつけ、マスコミもそれに乗じて叩き、果ては民主党議員たちもそういう疑惑に苛まれるようになり、小沢は離党。警察の思うつぼというわけです。
その後の選挙の敗北以来、民主党は復活できない。

>下請け・元請け・消費者の中で一番損をするのは元請けですか?

僕もこれはややこしすぎるので検討していません。これによって廃業したり、転職したりする人が出て来そうという影響(社会面的関心)だけにとどまっております。すみません。

>そして国会イコール内閣って感じでしょうか?

そう言っても良いでしょうか。
自民党が野党とまともと対決しない。
マスコミが、野党が弱体とか、反対ばかりしているなどと言い過ぎるのも問題で、碌に勉強しない少なからぬ国民がこれを信じてしまう。反対しているトピックだけをニュースとして取り上げるからそういう印象が醸成される(村上だってホームランだけを打っているわけではありません)。
これが問題と、ずっと僕は思っています。
蟷螂の斧
2022年12月01日 20:39
こんばんは。

>映画「レット・イット・ビー」は悪い箇所ばかり使用した

マイケル・リンゼイ=ホッグ監督がポール中心に撮ったんでしたっけ?リンゴのカットが少なかった。

>小沢は離党。警察の思うつぼというわけです。

警察は正義の味方ではない。「太陽にほえろ」じゃあ、あるまいし。

>そう言っても良いでしょうか。

三権分立ではなく、二権分立?

>碌に勉強しない少なからぬ国民がこれを信じてしまう。

僕もそのうちの一人です。情けない事に・・・(苦笑)。

>国内の新型コロナ死者が5万人超え ペース加速、今年だけで3万人

https://news.yahoo.co.jp/articles/3f48cdc90c5d5fc373251468ec74d09c07882274
そして医療スタッフの皆さんのご苦労もよくわかります。
オカピー
2022年12月02日 18:44
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>マイケル・リンゼイ=ホッグ監督がポール中心に撮ったんでしたっけ?リンゴのカットが少なかった。

ずっと撮り放しなので厳密にはそういうことはないのですが、「レット・イット・ビー」では編集の段階でポールを多くしたのでしょうね。
リンゴが少ない理由については、一昨日アップした「ザ・ビートルズ: Get Back」映画評を読むと少し解るかもしれません。お時間が許したら、どうぞ。

>僕もそのうちの一人です。情けない事に・・・(苦笑)。

そんなことはないでしょう^^
大事なのは人間観察でしょうね。映画やドラマをよく見るのも結構人間の勉強になります。

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