映画評「ダウンサイズ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2017年アメリカ=ノルウェー合作映画 監督アレクサンダー・ペイン
ネタバレあり

アレクサンダー・ペインという監督は飄々とした作風で日本でもなかなか評価が高い。日本人にはコミカルなところもあるけれどコメディーとは言えない、と受け止められていると思う。しかし、それは笑劇(ファース)と喜劇(コメディー)の区分がない日本人ならではの現象で、欧米では彼の作品は紛れもなくコメディーである。尤も、この作品は変なことになっていて、我が邦のAllcinemaでは“コメディー/ドラマ/SF”とあり、Imdbでは"Drama,Sci-Fi"とあって、通常とは逆の現象が起きている。

人口爆発により環境破壊と食糧難が発生した近未来の地球が舞台。ノルウェーの科学者がその対策として人間を1/14(体積ではその三乗)にする技術を発明、次第に広まっていく。収入が希望ほどない理学療法士マット・デーモンも生活を楽にする為に、愛妻クリステン・ウィグと相談の末、小さな人々が暮らすコミュニティーへの移住を決断する。ところが妻が施術前に翻意した為彼は一人暮らしを余儀なくされ、やがて離婚する。
 階上のクリストフ・ヴァルツの部屋にいる時に現れたのが、ベトナム人の掃除婦ホン・チャウ。彼女は元政治活動家で、罰としてダウンサイズされた後、密入国した米国で掃除婦をやっているのだ。今では片足は義足である。デーモンは彼女が理学療法士としての見地から非常に危険な状態にあると気付いたことから接点から出来て、やがて彼らはピンチに陥っているというノルウェーにある世界最初のダウンサイズ・コミュニティーに向かうことになる。
 そこでは人類滅亡の日は近く、住民は地球が復活するまで地下シェルターに逃避すると聞かされる。すっかりその気になったデーモンは、いつの間にか女性として愛情を覚えていたホンが元の世界へ帰ると聞いて当惑する。

というお話で、ペイン作品の例に洩れず一種のロード・ムービーである。旅自体は多くないものの、人生の変転がロード・ムービーしているのである。
 そして、SF的な設定は主題展開の為の仕掛けに過ぎない為、ダウンサイズしたことも周囲が小さい人ばかりなので後半事実上の意味を失う。それ自体に実は主題上の意味があるのだが、とは言え、多くの人が仰るように、設定が奇抜すぎるので娯楽映画として“小さくなること”が機能しないと面白いとは言いにくいのである。この映画に関しては主題に合っていることよりそのマイナス面が目立つので、僕も良い評価ができない。

それではその主題とは何か? 人間が物理的に変わっても世界は何も変わらないということである。世界は自分の意識により変わるのである。その哲学的主題自体を買う人は良い評価になるのであろうが、映画や小説の価値は主題の価値に比例するわけではない。表現が舌足らずになっていると感じる僕は高く評価できないのである。

昨日エホバの証人の訪問を受けたので、例によって進化論と創造論を巡って意見を戦わせた。彼は言う、「ジュラシック・パーク」も楽しめる、と。しかし、それは真実とは言えない。進化論の立場で100%楽しめるように作られた映画だから、創造論の彼の言う“楽しめる”はその半分も行かないであろう。勿論どの映画も作者の狙いのところまで楽しめるなんてことはなかなかないのが実際ではあるが、とは言え、それに近づく努力を放棄しているのも同然であることは作者に対して失礼である。「猿の惑星」についてどう思うか、次回聞いてみることにするか。彼らがいかに強がろうと、ゲノム編集が創造論をいずれ消滅させる。

この記事へのコメント

2019年01月06日 14:16
明けましておめでとうございます。
本年も時々お邪魔させていただきます。

本作私も観賞しました。
デーモンの放つオーラが生かされていたようで
なかなかよかったと感じたものの
ご指摘の、
>、ダウンサイズしたことも周囲が小さい人ばかりなので
後半事実上の意味を失う。

…は同感でした。

異彩を放つヴァルツ氏の起用は
もっと活かされてもよかったような?
スキンヘッドと片眉を剃られた夫人が
夫に翻り電話してくるシーンは笑えました。

一大決心でダウンサイズ化したことで
真実の愛にたどりつけたと集約してしまうのは
短絡的すぎますが映像的な面白味に
やや欠けていたような気がしました。
ノーマル人間さんとの絡みを増やし
その対比シーンを渾身のスキルをもって
存分に見せていただきたかったです。

また時おりお邪魔させていただきます。
本年もよろしくお願いいたします。
オカピー
2019年01月06日 22:35
小枝さん、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

>ダウンサイズ
主題展開上の意味があるのは最終的に分りますが、観客は納得しにくいですね。

>ヴァルツ
序盤の登場に仕方を考えると、意外なほどストレートな役でした。

>ノーマル人間さんとの絡み
SF的にはそういうこなんですよね。しかし、ペインさん、ドラマ系の監督ですからそういうことに興味がなかったようです。

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