映画評「間諜X27」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1931年アメリカ映画 監督ジョセフ・フォン・スタンバーグ
ネタバレあり
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督とマレーネ・ディートリッヒが組んだ作品は見事な作品ばかりで、最初の二本「嘆きの天使」と「モロッコ」は既に取り上げた。
本作を初めて観たのは高校生の時で、NHK教育の“世界名画劇場”でであったと思う。その時はまだそこまで感銘しなかったが、恐らく社会人になってから衛星放送で観た時にはぞっこん惚れ込んだ。その時のインパクトが脳裏にこびりついていたので、今回は案外あっさりしていると感じた一方、映画としての純度の高さに感心、そしてマレーネ・ディートリッヒの魅力に断然参った。多分一番綺麗な彼女が見られるのではないかと思う。グレタ・ガルボの「マタ・ハリ」(1931年)は本作に触発されて作られたと記憶する。
第一次大戦中のウィーン。大雨のある晩娼婦が自殺し、同業のマレーネがそこに現れ、刑事に皮肉を言われる。「生きるも死ぬも怖くない」と言った彼女に注目したのが初老のグスタフ・フォン・セイファーティッツ。彼は情報部の長官で、彼女になぞをかけて、間諜(スパイ)になるよう勧誘する。夫に戦死された彼女は絶望感に苛まれていたので引き受け、間諜X27としてまずオーストリア軍の内通者である大佐ウォーナー・オーランドの正体を暴く役目を見事に果たす。
次に仮面舞踏会で接近したロシア軍大佐ヴィクター・マクラグレンを翻弄するが、後日田舎娘の女中として入り込んだ在ポーランドの営所近くの宿で、愛猫の為にその潜伏が彼に知られてしまう。が、眠り薬で上手くピンチを抜けると、今度は立場を入れ替えてオーストリア軍の捕虜になって処刑される憂き目になった彼と遭遇する。彼女は半ば意図的に彼を逃し、逃亡を助けた反逆罪により処刑される。
というお話で、ガルボの「マタ・ハリ」がロマンスに傾倒していたのに比べると、サスペンス色が強い。「マタ・ハリ」評で僕は“「間諜X27」はサスペンスとロマンスが拮抗している”と書いているが、今回見直してみて、ちょっと表現を変えないといけないと思わされた。ロマンスがサスペンスの中に沈潜している、といった方が正確なのだ。マレーネがいつ彼に恋したか解らないほどそこはかとなく、恐らく仮面舞踏会での接触の時から彼女はマクラグレンに傾いていたのであろう。否、映画の構成上そうでなければならない。
場面としては彼女が処刑の場に立つ幕切れが白眉。何故か彼女と縁のある若き下級将校が目隠し用に差し出した布巾を取って逆に彼の涙を拭ってやり、彼が職務を放棄した混乱の間に口紅を塗りストッキングを直して正面を向く。スタンバーグはラスト・シーンが上手いが、本作も実に素晴らしい。
サイレントからトーキーに変わったばかりなので、物の捉え方や影の扱い方が依然フォトジェニックで、一々印象に残る。
もっと細かい映画技法としては、ディゾルブ(オーヴァーラップ)の使い方が気に入った。特に良いのは、短めのオーヴァーラップで物語の重要ポイントとなるフラッシュバックを効果的に見せた箇所二つ。一つは、売国奴オーランド大佐の正体を暴く鍵であるタバコ。一つは彼女が発見される原因となる猫。小道具とフラッシュバックの組合せを上手く活用したお手本と言うべし。
ヴィクター・マクラグレンは、西部劇の監督として有名なアンドリュー・V・マクラグレンの父親。どちらも知らないって? しようがないねぇ。
1931年アメリカ映画 監督ジョセフ・フォン・スタンバーグ
ネタバレあり
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督とマレーネ・ディートリッヒが組んだ作品は見事な作品ばかりで、最初の二本「嘆きの天使」と「モロッコ」は既に取り上げた。
本作を初めて観たのは高校生の時で、NHK教育の“世界名画劇場”でであったと思う。その時はまだそこまで感銘しなかったが、恐らく社会人になってから衛星放送で観た時にはぞっこん惚れ込んだ。その時のインパクトが脳裏にこびりついていたので、今回は案外あっさりしていると感じた一方、映画としての純度の高さに感心、そしてマレーネ・ディートリッヒの魅力に断然参った。多分一番綺麗な彼女が見られるのではないかと思う。グレタ・ガルボの「マタ・ハリ」(1931年)は本作に触発されて作られたと記憶する。
第一次大戦中のウィーン。大雨のある晩娼婦が自殺し、同業のマレーネがそこに現れ、刑事に皮肉を言われる。「生きるも死ぬも怖くない」と言った彼女に注目したのが初老のグスタフ・フォン・セイファーティッツ。彼は情報部の長官で、彼女になぞをかけて、間諜(スパイ)になるよう勧誘する。夫に戦死された彼女は絶望感に苛まれていたので引き受け、間諜X27としてまずオーストリア軍の内通者である大佐ウォーナー・オーランドの正体を暴く役目を見事に果たす。
次に仮面舞踏会で接近したロシア軍大佐ヴィクター・マクラグレンを翻弄するが、後日田舎娘の女中として入り込んだ在ポーランドの営所近くの宿で、愛猫の為にその潜伏が彼に知られてしまう。が、眠り薬で上手くピンチを抜けると、今度は立場を入れ替えてオーストリア軍の捕虜になって処刑される憂き目になった彼と遭遇する。彼女は半ば意図的に彼を逃し、逃亡を助けた反逆罪により処刑される。
というお話で、ガルボの「マタ・ハリ」がロマンスに傾倒していたのに比べると、サスペンス色が強い。「マタ・ハリ」評で僕は“「間諜X27」はサスペンスとロマンスが拮抗している”と書いているが、今回見直してみて、ちょっと表現を変えないといけないと思わされた。ロマンスがサスペンスの中に沈潜している、といった方が正確なのだ。マレーネがいつ彼に恋したか解らないほどそこはかとなく、恐らく仮面舞踏会での接触の時から彼女はマクラグレンに傾いていたのであろう。否、映画の構成上そうでなければならない。
場面としては彼女が処刑の場に立つ幕切れが白眉。何故か彼女と縁のある若き下級将校が目隠し用に差し出した布巾を取って逆に彼の涙を拭ってやり、彼が職務を放棄した混乱の間に口紅を塗りストッキングを直して正面を向く。スタンバーグはラスト・シーンが上手いが、本作も実に素晴らしい。
サイレントからトーキーに変わったばかりなので、物の捉え方や影の扱い方が依然フォトジェニックで、一々印象に残る。
もっと細かい映画技法としては、ディゾルブ(オーヴァーラップ)の使い方が気に入った。特に良いのは、短めのオーヴァーラップで物語の重要ポイントとなるフラッシュバックを効果的に見せた箇所二つ。一つは、売国奴オーランド大佐の正体を暴く鍵であるタバコ。一つは彼女が発見される原因となる猫。小道具とフラッシュバックの組合せを上手く活用したお手本と言うべし。
ヴィクター・マクラグレンは、西部劇の監督として有名なアンドリュー・V・マクラグレンの父親。どちらも知らないって? しようがないねぇ。
この記事へのコメント
ガルボも「マタ・ハリ」を演ってたんですね。マタハリ、というのが当時の人を引き付けるキャラクターだったんでしょうね。
>名画激情
今のように衛星放送も、ソフトもありませんから、この枠は非常に貴重でしたね。一年に何本も放映しないのが欠点でしたが。
>これがあのマレーネ・ディートリッヒか
僕も映画で彼女を見るのは本作が初めてでした。次に「嘆きの天使」「モロッコ」という順番に観たと思います。仰るように綺麗でしたねえ。
>「マタ・ハリ」
今のように女性が男性並みに活躍する映画なんて殆どありませんから、貴重な素材だったのでしょうね。