映画評「黒い箱のアリス」
☆☆★(5点/10点満点中)
2017年スペイン映画 監督サドラック・ゴンサレス=ペレヨン
ネタバレあり
<未体験ゾーンの映画たち2018>にかかった一本なので、本ブログでは本邦劇場未公開扱い。最近こういうのが多いデス。そういうのを除くと、近年WOWOWが傾注しているせいで日本映画ばかりになってしまう。
SFホラーであるが、映画的センスのない方が見ても面白くないだろう。お話は世間で言われるほど(細部の理解を別にすると)難しいものではない。
プロローグは家の持主らしい中年男性ジュリアン・ニコルスンが何者かに昏倒させられる。続いて、片手を失った娘ロウェナ・マクダネル(役名アリス)が意志により動かせる特殊な義手を医師に嵌めてもらう。彼女は相棒の大型犬をママと呼び、特殊な装置を使って会話する。この辺はSFらしさが満載である。
近くの森で彼女は黒い大きな立方体を発見、何故かそこから自分の文字で“彼らを信用するな”というメモが出て来る。直後に父親が怪我を負った十代の姉弟アイデ・リサンダルとマルク・プッジェネルを救出、暫く家で過ごさせることにする。
ロウェナは立方体の中にいる本人から二人を殺すよう指示されるが、出来ずにその為ママもパパも殺されてしまう。
映画の中でも説明されるようにこの箱は一種のタイムマシンで、彼女が意志により手を動かすように意志により時を超えることができるらしい。本人が本人に会ったりするのはオーソドックスな考えではタイム・パラドックスを起こすとして厳禁なのだが、最近の作品はパラレル・ワールドの概念を交えるためその辺り大変ルーズで、父親が本人を倒す場面(プロローグとそのリピート)まで出て来る。ヒロインがアイデに殺されたりもする。これらについて騒ぐとお話が成立しないので放置するのが一番。
恐らくは幾つもある繰り返し(だから死んでも死んでいない)の中で、遂に姉弟の関係者である男ウィル・ハドスンが登場し、彼の説明により一挙にニコルスンが交通事故を起こし、その結果男の両親、ニコルスンの妻を死なせ、娘の片手を奪ったことが判ってくる。そこで娘はタイムマシンを使って全ての元凶である車の鍵を捨てる冒険を決意する。
時間軸のことなど一々考えるとわけが解らなくなるが、作者の見せたかったことはかくも単純なのである。ミヒャエル・ハネケを思わせるロング・ショット(引き)と固定カメラによる長回しが観客の思考を却って停止させてしまい、退屈させるところがしばしばあるが、終盤までは謎が多いから全体としては興味の尽きない内容であると言うことができる。時間旅行らしさが全くないところが新しい時間旅行ものと言って良いのではないだろうか。
映画芸術的には、やたらに長い家の構造を見せる縦の構図、幾つかの横の構図の画面を執拗に繰り返すところが興味深い。個人的にはここだけでも見る価値がある気がする。
スペイン資本、スペイン人監督によるスペイン映画だが、英米圏の出演者により全編英語で展開する。内容が内容だからまあ良いものの、こういうグローバル化は好かない。
この作品だけで断定するのも何だが、ゴンサレス=ペレヨンという監督はスペインのミヒャエル・ハネケですな。
2017年スペイン映画 監督サドラック・ゴンサレス=ペレヨン
ネタバレあり
<未体験ゾーンの映画たち2018>にかかった一本なので、本ブログでは本邦劇場未公開扱い。最近こういうのが多いデス。そういうのを除くと、近年WOWOWが傾注しているせいで日本映画ばかりになってしまう。
SFホラーであるが、映画的センスのない方が見ても面白くないだろう。お話は世間で言われるほど(細部の理解を別にすると)難しいものではない。
プロローグは家の持主らしい中年男性ジュリアン・ニコルスンが何者かに昏倒させられる。続いて、片手を失った娘ロウェナ・マクダネル(役名アリス)が意志により動かせる特殊な義手を医師に嵌めてもらう。彼女は相棒の大型犬をママと呼び、特殊な装置を使って会話する。この辺はSFらしさが満載である。
近くの森で彼女は黒い大きな立方体を発見、何故かそこから自分の文字で“彼らを信用するな”というメモが出て来る。直後に父親が怪我を負った十代の姉弟アイデ・リサンダルとマルク・プッジェネルを救出、暫く家で過ごさせることにする。
ロウェナは立方体の中にいる本人から二人を殺すよう指示されるが、出来ずにその為ママもパパも殺されてしまう。
映画の中でも説明されるようにこの箱は一種のタイムマシンで、彼女が意志により手を動かすように意志により時を超えることができるらしい。本人が本人に会ったりするのはオーソドックスな考えではタイム・パラドックスを起こすとして厳禁なのだが、最近の作品はパラレル・ワールドの概念を交えるためその辺り大変ルーズで、父親が本人を倒す場面(プロローグとそのリピート)まで出て来る。ヒロインがアイデに殺されたりもする。これらについて騒ぐとお話が成立しないので放置するのが一番。
恐らくは幾つもある繰り返し(だから死んでも死んでいない)の中で、遂に姉弟の関係者である男ウィル・ハドスンが登場し、彼の説明により一挙にニコルスンが交通事故を起こし、その結果男の両親、ニコルスンの妻を死なせ、娘の片手を奪ったことが判ってくる。そこで娘はタイムマシンを使って全ての元凶である車の鍵を捨てる冒険を決意する。
時間軸のことなど一々考えるとわけが解らなくなるが、作者の見せたかったことはかくも単純なのである。ミヒャエル・ハネケを思わせるロング・ショット(引き)と固定カメラによる長回しが観客の思考を却って停止させてしまい、退屈させるところがしばしばあるが、終盤までは謎が多いから全体としては興味の尽きない内容であると言うことができる。時間旅行らしさが全くないところが新しい時間旅行ものと言って良いのではないだろうか。
映画芸術的には、やたらに長い家の構造を見せる縦の構図、幾つかの横の構図の画面を執拗に繰り返すところが興味深い。個人的にはここだけでも見る価値がある気がする。
スペイン資本、スペイン人監督によるスペイン映画だが、英米圏の出演者により全編英語で展開する。内容が内容だからまあ良いものの、こういうグローバル化は好かない。
この作品だけで断定するのも何だが、ゴンサレス=ペレヨンという監督はスペインのミヒャエル・ハネケですな。
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