映画評「空飛ぶタイヤ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・本木克英
ネタバレあり

連休の初めに愚兄がタイヤ交換をしていたのを見て三菱自動車の脱輪事故に話が及んだ。何とそれから何日もしないうちに三菱自動車のリコール隠し事件をモデルにした経済サスペンス映画を観ることになるとは。原作は池井戸潤。話題になったTVドラマ「半沢直樹」は観ていないが、これだけのお話を書けるのであれば面白かったのかもしれない。

小さな運送会社のトラックが脱輪を起こして若い母親(谷村美月)が死亡する。運送会社の若い社長・長瀬智也は保守点検記録を調べてみても自社に問題を発見できない。警察の捜査が入る中、トラックを作った財閥系ホープ自動車の調査結果が“運送会社の整備に問題あり”とある為、取引先からは契約を切られ、銀行の融資も受けられずそれどころか借金返済を迫られ、遺族からは人でなしと罵られ八方塞がり。
 自動車会社の責任追及に躍起となっている週刊誌の記事に期待を寄せるが、出版社が自動車会社と同じ財閥系の銀行と資本提携関係にあるため記事が封印されてしまう。万事休すと思ったところが、同じような問題を抱えた運送会社から譲り受けた国土交通省の資料と、自動車会社の有志による内部告発により、事態は急展開することになる。

1960年代から70年代にかけては実話を基に政治や業界を舞台に展開する告発的な巨悪ものの力作が随分作られたが、最近はスポンサーが力を持つ放送局系列の映画が多いせいか、実業をテーマにしたこの手の社会派サスペンスはとんと見かけなかった。本作は、若者向けが圧倒的に多いメジャー作品の中珍しいと言っても良い大人向けの娯楽的内容で、コンパクトにしかも効果的に観客の感情に訴えるよう相当うまく作られている。

その典型が、自動車会社の責任が明確になりやっと長瀬智也扮する主人公の訪問を受けつけた被害者の夫・浅利陽介に彼が語る内容として円環するところ。現代的でスマートな作劇と言って良い。この手の作り方は今や珍しくも何ともないものの、語り手と聞き手が謂わば加害者(実際には運送会社も被害者だが)と被害者という関係性にあるところが面白いわけである。

どんな組織の中にも正義感のある人はいるという内容につき後味が爽やか。話題作の多い脚本家林民夫の中でも優秀の部類と思う。

コミカルにも思えるタイトルだが、内容は正反対だった。その昔一部で流行った「空飛ぶ鯨」という曲を思い出したなあ。歌ったのはちゃんちゃこで、大瀧詠一の「空飛ぶくじら」とは別の曲。

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  • 空飛ぶタイヤ

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  • 「空飛ぶタイヤ」

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  • 『空飛ぶタイヤ』('18初鑑賞47・劇場)

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