映画評「検察側の罪人」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・原田眞人
ネタバレあり
アガサ・クリスティー「検察側の証人」の題名をもじった雫井修介のミステリーを原田眞人が映画化。
70代の金持ち夫婦が殺される。夫婦が金を貸していた人物たちに容疑者が絞られていく。担当検事は木村拓哉で、新人検事の二宮和也と立会事務官・吉高由里子が補佐を務めるという編成だが、その容疑者の中に23年前の16歳高校生殺人事件の最重要容疑者ながら最終的に放免となった酒向芳がいたので、大学時代に彼女の知人であった木村検事は無念の思いを抱く。
そこで彼は二宮検事を使って時効(その一年後に殺人の時効は撤廃される)となっている23年前の事件について自白を引き出し、そこから今回の事件を有罪化しよう目論む。ところが、モーテル勤務のチンピラ大倉孝二が殺人を吹聴して警察がそちらに注力しようとした為にそれでは少女の無念が晴れないと、大倉逃走を手伝うふりをして殺し、証拠品を発見させて酒向の犯行に見せかけようとする。
しかし、警察は不審がり、二宮検事はそれがでっち上げであると確信して、ルポライターの正体を暴かれて辞任した吉高事務官を追って検事を辞める。さて、事件の行方はどうなるであろうか?
ミステリーと言っても社会派寄りの作品なので、結末まで書いたほうが良いくらいなのだが、とりあえず伏せておきましょう。
木村には「HERO」という検事を主役にしたシリーズがあるが、こちらは事件を自らの考えたストーリーにしようとする余りに道を外していく検事が主人公であるから趣きは大分違う。
純粋に冤罪事件で終わるのであれば、純然たる社会派作品になるのであるが、主人公が文字通りの犯罪を犯した上でそれが社会の為に大事を成す前段としての必要悪である旨を述べる本作は、善悪や正義とは何ぞやというやや哲学的なアングルを持込んでいる。彼の大学時代の親友である自殺する国会議員・平岳大を出して彼の行為に理由付けを図る一方で、あくまで道徳的な正義を遵守しようとする二宮検事により対照を図って命題を明確化する。
その狙いはそれなりに上手く表現されているのだが、原田監督作品の悪い癖で登場人物が何を言っているのか聞き取れないところが多く、理解を大きく阻害する。
WOWOWを録画したレコーダーで観た僕は途中から字幕をオンにしたが、映画館で観た人はそれが出来ない。光学音声時代の黒澤明の作品では声がつぶれて聞き取れないものが多かったが、それとは事情が違い、原田作品に限らず昨今の作品はリアリズムの一環で行われているようなのだ。もそもそと早口で言われて一回で聞き取れるわけがない。リアリズム偏重により理解を阻害するのであれば本末転倒であり、一考を要す。
石川県の友人の家に遊びに行く時にアパ・ホテルを必ず使った。本作で扱われるビジネス・ホテルを経営する議員やその娘が右派全体主義的なのはアパ・グループ経営者の言動から案出されたのかもしれない。僕は個人主義者なので全体主義は右も左も極めて不快であり、次に石川へ行く時は一考を要す余地あり。
2018年日本映画 監督・原田眞人
ネタバレあり
アガサ・クリスティー「検察側の証人」の題名をもじった雫井修介のミステリーを原田眞人が映画化。
70代の金持ち夫婦が殺される。夫婦が金を貸していた人物たちに容疑者が絞られていく。担当検事は木村拓哉で、新人検事の二宮和也と立会事務官・吉高由里子が補佐を務めるという編成だが、その容疑者の中に23年前の16歳高校生殺人事件の最重要容疑者ながら最終的に放免となった酒向芳がいたので、大学時代に彼女の知人であった木村検事は無念の思いを抱く。
そこで彼は二宮検事を使って時効(その一年後に殺人の時効は撤廃される)となっている23年前の事件について自白を引き出し、そこから今回の事件を有罪化しよう目論む。ところが、モーテル勤務のチンピラ大倉孝二が殺人を吹聴して警察がそちらに注力しようとした為にそれでは少女の無念が晴れないと、大倉逃走を手伝うふりをして殺し、証拠品を発見させて酒向の犯行に見せかけようとする。
しかし、警察は不審がり、二宮検事はそれがでっち上げであると確信して、ルポライターの正体を暴かれて辞任した吉高事務官を追って検事を辞める。さて、事件の行方はどうなるであろうか?
ミステリーと言っても社会派寄りの作品なので、結末まで書いたほうが良いくらいなのだが、とりあえず伏せておきましょう。
木村には「HERO」という検事を主役にしたシリーズがあるが、こちらは事件を自らの考えたストーリーにしようとする余りに道を外していく検事が主人公であるから趣きは大分違う。
純粋に冤罪事件で終わるのであれば、純然たる社会派作品になるのであるが、主人公が文字通りの犯罪を犯した上でそれが社会の為に大事を成す前段としての必要悪である旨を述べる本作は、善悪や正義とは何ぞやというやや哲学的なアングルを持込んでいる。彼の大学時代の親友である自殺する国会議員・平岳大を出して彼の行為に理由付けを図る一方で、あくまで道徳的な正義を遵守しようとする二宮検事により対照を図って命題を明確化する。
その狙いはそれなりに上手く表現されているのだが、原田監督作品の悪い癖で登場人物が何を言っているのか聞き取れないところが多く、理解を大きく阻害する。
WOWOWを録画したレコーダーで観た僕は途中から字幕をオンにしたが、映画館で観た人はそれが出来ない。光学音声時代の黒澤明の作品では声がつぶれて聞き取れないものが多かったが、それとは事情が違い、原田作品に限らず昨今の作品はリアリズムの一環で行われているようなのだ。もそもそと早口で言われて一回で聞き取れるわけがない。リアリズム偏重により理解を阻害するのであれば本末転倒であり、一考を要す。
石川県の友人の家に遊びに行く時にアパ・ホテルを必ず使った。本作で扱われるビジネス・ホテルを経営する議員やその娘が右派全体主義的なのはアパ・グループ経営者の言動から案出されたのかもしれない。僕は個人主義者なので全体主義は右も左も極めて不快であり、次に石川へ行く時は一考を要す余地あり。
この記事へのコメント
首ちぎれんばかりに同意しております。
最近、目つきが益々悪くなった木村と
相変わらず小学生に毛が生えたような
二宮を起用すれば客入ると思って
作ったのがすっかりお見通し。
たまには邦画もと殊勝な気持ちで
DVD鑑賞。「何言ってるんだかわからん!」
慌てて字幕にすれども法曹系用語だわ早いわ、
おまけに台詞連ねるのに精一杯で拙い演者の
棒読みとワンパターンの芝居ばかり。
先を見たい気ががっつり失せ30分弱で
鑑賞リタイア。お粗末な演技と
わからない台詞の羅列は拷問にも等しく
お金を払う鑑賞者にはほんと失礼です。
個人的に、話はつまらなくなかったのですよ。
しかし、役者の演技力は別にしても、何を言っているのか解らないのでは作品になりませんよね。まして仰るように法曹用語が多いですから、用語に慣れていない人はつらいかもしれません。
木村、二宮目当てで行ったファンもこれではさすがにがっかりでしょう。
「検察側の証人」は傑作で、抜群に面白かったですけど。特にワイルダーの映画版。
原田眞人監督は、アメリカ映画を咀嚼して自分のものにしてしまっている、その上でリッチなエンタメになる日本映画を作ってくれてるという印象あります。
セリフが早口でぼそぼそ言うかんじが多いのも、近年のアメリカ映画の流儀を持ち込んでるのかな、というのはある。そういうしゃべりかたが自然に近いというのもあるんですが。要所で演劇的になるので、結果めりはりがつくというのはありますよね。
>そういうしゃべりかたが自然に近いというのもあるんですが。
僕も普段、声優の喋り方が格好良すぎると批判しているくらいで、映画での喋り方は我々が実際に話しているようなのが良いと思っていますが、何を言っているのか解らない程なのはさすがに辛い。話そのものが解らなくなりますから。