映画評「ミッドナイト・バス」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・竹下昌男
ネタバレあり
ブルーレイの録画時間を見たら165分もあって今日の鑑賞は止めようかと思った。上映(放映)時間は157分で、特別に長いという程ではないが、最近忙しく映画鑑賞に2時間半も割けないという事情があったのだ。30分の違いが大違い。しかし、結局観たのは正解だった。30分は映画評を書く時間を減らして調整しよう(笑)。
一流大学を出て勤め始めた不動産関係の会社を辞めて新潟市に程近い地元の都市(原作では美越市という架空の都市になっている)に戻り新潟⇔東京の長距離バスの運転手になった原田泰造が主人公。16年前に姑との関係を嫌って出て行った妻・山本未來とは離婚、現在は不動産会社時代の上司の娘で小料理店を営む三十代半ばの美人・小西真奈美と遠距離恋愛をしている。
勤務先の白鳥(しらとり)交通の由来にもなっている白鳥が見たいという彼女を連れて家に帰ると、東京で会社員をしていたはずの息子・七瀬公が戻っている。真奈美嬢は少々気まずい思いをして帰京する。その後アイドル活動をしている娘・葵わかなも実家に戻ってくる。彼女には間もなく結婚する予定もある。
こうした環境が、山本未來が負傷した父親・長塚京三の様子を見る為に新潟に行く際に彼の運転するバスに乗って偶然再会したことから変わってくる。
主人公は、元妻が更年期障害で苦しむこともあり、娘の結婚問題やら色々あり再会することが増え、一方で健気な真奈美嬢への自らの強い思いに耐え切れなくなり別離宣言。元妻は再婚状態にあるから彼女と復縁するというわけではない。しかし、8歳の時に出て行かれた娘は再会した母親を許そうとしない。彼らの様相が複雑化するに反比例して、祖父の家のケアをしたりするうち息子の心境は落ち着いてくる。
といった具体にお話が続くが、一つの家を舞台にしないホームドラマと言っても良い。家族関係の機微が三世代にまたがることで様々に描かれる内容に、主人公とその義父の間くらいにある僕にとっても身に迫るような感慨が覚える。
勿論この作品には親から子への視線もあるわけだが、印象に残るのは子から親への視線である(主人公や元妻の義父の、実の両親への思いもそこはかとなく扱われている)。それを代表するのが、実は、わかなちゃんの恋人の母親・渡辺真起子の存在である。これは未來嬢の姑の関係とダブるものであるが、最後に娘わかなは母親の気持ちを理解、結婚を破談にする。母親の二の舞を踏まず、まずは自らのアイドル業を邁進するという決意である。こうした騒動のうちに心因性の皮膚炎が快癒してきた息子は海外での仕事の就くと宣言する。元妻はやや頑固な老父を東京のマンションに引っ越させるという大事業を終えると元の生活に帰っていく。
こうしてすっかり独りぼっちになった主人公は、女々しくも(笑)いや子供達を見習って自分の心に正直に向かい、自ら捨てた真奈美嬢に会おうと自営を辞めて新たに勤め出したレストランに訪れる。
映画はその後を描かないものの、彼女の愛犬との関係を見れば推して知るべしといったところだろう。
僕も実は本作の娘と似た経験をしたことがある。先方の両親(特に母親)が結婚指輪を巡っていちゃもんをつけてきたから破談にしてやったのだ。娘は古風な女性だったが、その古風さが親離れできていない面でもあったと気付いてがっかりもした。その点や車椅子に乗る老父への思い(2010年から12年にかけて嫌になるほど押した)を含め、どちらか言うと子供の立場で映画を観ていたわけである。
一部に批判もある幕切れは、自分に正直な行動として彼なりの心の変化を表すわけで、良いではないか。何の罪もない真奈美嬢に同情する意見は僕も理解するが、主人公も元妻に図星を突かれて動揺する。これが最終的に彼の背中を押したのだろう。話として筋が通っている。
しかし、僕のこの作品を気に入った最大の理由は作品の佇まいである。内容には先日亡くなった降旗康男監督が扱いそうなところもあるが、些か匠気が出てしまう彼に比べるとぐっと自然に扱われているのが実に良い。緩急で勝負するのではなく安定したリズムが非常に快いのである。竹下昌男という監督は初めて観る(そもそも久しぶりのメガフォン第2作らしい)が、もっと作らせたいタイプの監督だ。
昨日のエクスプレスに続いて今日はバスでした。
2017年日本映画 監督・竹下昌男
ネタバレあり
ブルーレイの録画時間を見たら165分もあって今日の鑑賞は止めようかと思った。上映(放映)時間は157分で、特別に長いという程ではないが、最近忙しく映画鑑賞に2時間半も割けないという事情があったのだ。30分の違いが大違い。しかし、結局観たのは正解だった。30分は映画評を書く時間を減らして調整しよう(笑)。
一流大学を出て勤め始めた不動産関係の会社を辞めて新潟市に程近い地元の都市(原作では美越市という架空の都市になっている)に戻り新潟⇔東京の長距離バスの運転手になった原田泰造が主人公。16年前に姑との関係を嫌って出て行った妻・山本未來とは離婚、現在は不動産会社時代の上司の娘で小料理店を営む三十代半ばの美人・小西真奈美と遠距離恋愛をしている。
勤務先の白鳥(しらとり)交通の由来にもなっている白鳥が見たいという彼女を連れて家に帰ると、東京で会社員をしていたはずの息子・七瀬公が戻っている。真奈美嬢は少々気まずい思いをして帰京する。その後アイドル活動をしている娘・葵わかなも実家に戻ってくる。彼女には間もなく結婚する予定もある。
こうした環境が、山本未來が負傷した父親・長塚京三の様子を見る為に新潟に行く際に彼の運転するバスに乗って偶然再会したことから変わってくる。
主人公は、元妻が更年期障害で苦しむこともあり、娘の結婚問題やら色々あり再会することが増え、一方で健気な真奈美嬢への自らの強い思いに耐え切れなくなり別離宣言。元妻は再婚状態にあるから彼女と復縁するというわけではない。しかし、8歳の時に出て行かれた娘は再会した母親を許そうとしない。彼らの様相が複雑化するに反比例して、祖父の家のケアをしたりするうち息子の心境は落ち着いてくる。
といった具体にお話が続くが、一つの家を舞台にしないホームドラマと言っても良い。家族関係の機微が三世代にまたがることで様々に描かれる内容に、主人公とその義父の間くらいにある僕にとっても身に迫るような感慨が覚える。
勿論この作品には親から子への視線もあるわけだが、印象に残るのは子から親への視線である(主人公や元妻の義父の、実の両親への思いもそこはかとなく扱われている)。それを代表するのが、実は、わかなちゃんの恋人の母親・渡辺真起子の存在である。これは未來嬢の姑の関係とダブるものであるが、最後に娘わかなは母親の気持ちを理解、結婚を破談にする。母親の二の舞を踏まず、まずは自らのアイドル業を邁進するという決意である。こうした騒動のうちに心因性の皮膚炎が快癒してきた息子は海外での仕事の就くと宣言する。元妻はやや頑固な老父を東京のマンションに引っ越させるという大事業を終えると元の生活に帰っていく。
こうしてすっかり独りぼっちになった主人公は、女々しくも(笑)いや子供達を見習って自分の心に正直に向かい、自ら捨てた真奈美嬢に会おうと自営を辞めて新たに勤め出したレストランに訪れる。
映画はその後を描かないものの、彼女の愛犬との関係を見れば推して知るべしといったところだろう。
僕も実は本作の娘と似た経験をしたことがある。先方の両親(特に母親)が結婚指輪を巡っていちゃもんをつけてきたから破談にしてやったのだ。娘は古風な女性だったが、その古風さが親離れできていない面でもあったと気付いてがっかりもした。その点や車椅子に乗る老父への思い(2010年から12年にかけて嫌になるほど押した)を含め、どちらか言うと子供の立場で映画を観ていたわけである。
一部に批判もある幕切れは、自分に正直な行動として彼なりの心の変化を表すわけで、良いではないか。何の罪もない真奈美嬢に同情する意見は僕も理解するが、主人公も元妻に図星を突かれて動揺する。これが最終的に彼の背中を押したのだろう。話として筋が通っている。
しかし、僕のこの作品を気に入った最大の理由は作品の佇まいである。内容には先日亡くなった降旗康男監督が扱いそうなところもあるが、些か匠気が出てしまう彼に比べるとぐっと自然に扱われているのが実に良い。緩急で勝負するのではなく安定したリズムが非常に快いのである。竹下昌男という監督は初めて観る(そもそも久しぶりのメガフォン第2作らしい)が、もっと作らせたいタイプの監督だ。
昨日のエクスプレスに続いて今日はバスでした。
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