映画評「007/黄金銃を持つ男」
☆☆★(5点/10点満点中)
1974年イギリス映画 監督ガイ・ハミルトン
ネタバレあり
シリーズ第9作で、ロジャー・ボンドの第2作。監督は余り上出来とも思えなかった「ダイヤモンドは永遠に」「死ぬのは奴らだ」に続いて3試合連続登板のガイ・ハミルトン。三連投でへたばった中継ぎ投手の如き状態で、前二作以上につまらない。
“つまらない”と言うと語弊があり、色々繰り出して来てそう退屈はさせないのだが、舞台がアジアだけ(ベイルートもアジアですな)なのでどうしても邪劇の印象が強くスマートでないのでござる。退屈しなければ良いというスタンスは僕にはなく、評価は厳しいものになる。四十何年かぶりの再鑑賞。
悪名高き殺し屋“黄金銃を持つ男”ことスカラマンガ(クリストファー・リー)に狙われているとして007ことジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)は一時的に解任されるが、ボンドは個人的にスカラマンガを倒す為に彼の銃により同僚が殺されたと判明したマカオに飛ぶ。
マカオで通りへ出て来た初老紳士がボンドの眼前で殺され、香港警察を名乗る中国人ヒップにボンドは逮捕される。彼もまたMI6の関係者で、M(バーナード・リー)は、ヒップと組んで太陽エネルギーに絡む陰謀を阻止するようにボンドに命じる。陰謀の主は華僑のハイ・ファットで、彼の邸宅があるタイに向う。
ハイ・ファットはスカラマンガを雇っていて、ボンドをわざとおびき出す。スカラマンガはボンドを殺す代わりに雇い主を殺し、ボンドの同僚に当たる美人メアリー(ブリット・エクランド)を拉致してエネルギー基地のある中国領の小島へ去る。ボンドは島に向う。
序盤の調子はまあまあだが、タイが舞台へ移る辺りから様子がおかしくなる。そもそもタイに舞台が変わる時に本格的な環境ショットがないのは上手くない。ハイ・ファットは中国系なので、一応の環境ショットが中国もどきとなり、彼が持つ道場から逃げ出した後いきなりタイの風景が現れるので首を傾げてしまうのである。
彼の屋敷に力士二体の像があるのも、例によって日本・中国・韓国の区別がついていない西洋人のいい加減さを感じる。但し、その力士像が数時間後に本物として襲い掛かるというアイデアは良い(力士だけに締まらない廻しの如く終わるのがご愛敬)。
その道場場面は前年話題になった「燃えよドラゴン」からの拝借で、後で鏡の間のような場面が出て来ることから類推しても意図的。それはともかく、この道場の連中が全く強くなく、ヒップの姪二人にあっさりとやられてしまうのだから情ない。ボンドが殆ど何もしないというのも能がなく、さらに場面として首を傾げるのはボンドがヒップの車に乗れずに置いてきぼりを食らうこと。結局は二人のカンフー少女を出す為だけにあったシークエンスで、文字通りカンフー映画ブームに乗ったということのようだ。
スカラマンガの下男ニック・ナックが小人なのも微妙なところで、完全に否定できない一方で、ちょこまか動くさまがコメディリリーフのようでありすぎて煩いという印象もなくはない。ボンドがユーモラスで憎み切れない彼を殺さないのは後味よろし。
最初に007が解任されてすぐに復任という格好になるのも下手な脚本。それでも、終盤に中国の島だから公的に行けず(?)個人の責任で勝手に行くという風にして帳尻を合わせているのが涙ぐましい(笑)。
一応原作があるが、スカラマンガが出て来る以外は殆ど共通性がない。そのスカラマンガに扮するクリストファー・リーが断然格好良く見もの。もう一人のボンド・ガールとしてモード・アダムズが出演、ヘマばかりやらかすブリット・エクランド(ピーター・セラーズと1960年代に結婚していた)よりそれらしい。
この7年前に「いつも心に太陽を」の主題歌がヒットしたルルの主題歌はパンチがあってなかなか良い。さすがにデビュー曲が「シャウト」だけのことはある。
敵役がスカラマンガという名でも、ここまでマンガにする必要はなかった、なんちゃって。しかし、現代に通じるエネルギー問題を出してきたのは当時としては新鮮か? 化石燃料がそう簡単に枯渇しないことが判って来た今は二酸化炭素の問題のほうが大きい。
1974年イギリス映画 監督ガイ・ハミルトン
ネタバレあり
シリーズ第9作で、ロジャー・ボンドの第2作。監督は余り上出来とも思えなかった「ダイヤモンドは永遠に」「死ぬのは奴らだ」に続いて3試合連続登板のガイ・ハミルトン。三連投でへたばった中継ぎ投手の如き状態で、前二作以上につまらない。
“つまらない”と言うと語弊があり、色々繰り出して来てそう退屈はさせないのだが、舞台がアジアだけ(ベイルートもアジアですな)なのでどうしても邪劇の印象が強くスマートでないのでござる。退屈しなければ良いというスタンスは僕にはなく、評価は厳しいものになる。四十何年かぶりの再鑑賞。
悪名高き殺し屋“黄金銃を持つ男”ことスカラマンガ(クリストファー・リー)に狙われているとして007ことジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)は一時的に解任されるが、ボンドは個人的にスカラマンガを倒す為に彼の銃により同僚が殺されたと判明したマカオに飛ぶ。
マカオで通りへ出て来た初老紳士がボンドの眼前で殺され、香港警察を名乗る中国人ヒップにボンドは逮捕される。彼もまたMI6の関係者で、M(バーナード・リー)は、ヒップと組んで太陽エネルギーに絡む陰謀を阻止するようにボンドに命じる。陰謀の主は華僑のハイ・ファットで、彼の邸宅があるタイに向う。
ハイ・ファットはスカラマンガを雇っていて、ボンドをわざとおびき出す。スカラマンガはボンドを殺す代わりに雇い主を殺し、ボンドの同僚に当たる美人メアリー(ブリット・エクランド)を拉致してエネルギー基地のある中国領の小島へ去る。ボンドは島に向う。
序盤の調子はまあまあだが、タイが舞台へ移る辺りから様子がおかしくなる。そもそもタイに舞台が変わる時に本格的な環境ショットがないのは上手くない。ハイ・ファットは中国系なので、一応の環境ショットが中国もどきとなり、彼が持つ道場から逃げ出した後いきなりタイの風景が現れるので首を傾げてしまうのである。
彼の屋敷に力士二体の像があるのも、例によって日本・中国・韓国の区別がついていない西洋人のいい加減さを感じる。但し、その力士像が数時間後に本物として襲い掛かるというアイデアは良い(力士だけに締まらない廻しの如く終わるのがご愛敬)。
その道場場面は前年話題になった「燃えよドラゴン」からの拝借で、後で鏡の間のような場面が出て来ることから類推しても意図的。それはともかく、この道場の連中が全く強くなく、ヒップの姪二人にあっさりとやられてしまうのだから情ない。ボンドが殆ど何もしないというのも能がなく、さらに場面として首を傾げるのはボンドがヒップの車に乗れずに置いてきぼりを食らうこと。結局は二人のカンフー少女を出す為だけにあったシークエンスで、文字通りカンフー映画ブームに乗ったということのようだ。
スカラマンガの下男ニック・ナックが小人なのも微妙なところで、完全に否定できない一方で、ちょこまか動くさまがコメディリリーフのようでありすぎて煩いという印象もなくはない。ボンドがユーモラスで憎み切れない彼を殺さないのは後味よろし。
最初に007が解任されてすぐに復任という格好になるのも下手な脚本。それでも、終盤に中国の島だから公的に行けず(?)個人の責任で勝手に行くという風にして帳尻を合わせているのが涙ぐましい(笑)。
一応原作があるが、スカラマンガが出て来る以外は殆ど共通性がない。そのスカラマンガに扮するクリストファー・リーが断然格好良く見もの。もう一人のボンド・ガールとしてモード・アダムズが出演、ヘマばかりやらかすブリット・エクランド(ピーター・セラーズと1960年代に結婚していた)よりそれらしい。
この7年前に「いつも心に太陽を」の主題歌がヒットしたルルの主題歌はパンチがあってなかなか良い。さすがにデビュー曲が「シャウト」だけのことはある。
敵役がスカラマンガという名でも、ここまでマンガにする必要はなかった、なんちゃって。しかし、現代に通じるエネルギー問題を出してきたのは当時としては新鮮か? 化石燃料がそう簡単に枯渇しないことが判って来た今は二酸化炭素の問題のほうが大きい。
この記事へのコメント
>事前に申しましたように、ほぼ酷評ですが(笑)。
それがまた嬉しいです(笑)。
>☆☆★(5点/10点満点中)
それもまた正しい評価?さて、どの部分からコメントを書けば良いのでしょう?迷います。
>その道場場面は前年話題になった「燃えよドラゴン」からの拝借
まずはここですね!ショーン・コネリーに比べると運動神経が鈍いロジャー・ムーア。そして、なぜカンフーの勝負をさせるのか?訳がわからない。
まあ、いいじゃないですかー!
>むむっ、あったような気もしますが、忘れているぞ^^;
夫(山崎努)が愛人(高瀬春奈)と・・・!
>「静かな生活」
これも未読です。すみません!
>さて、どの部分からコメントを書けば良いのでしょう?迷います。
どこからでもどうぞ^^
>なぜカンフーの勝負をさせるのか?訳がわからない。
間の抜けた脚本だと思います。これでは、僕でなくても評価は上がらない(笑)
>夫(山崎努)が愛人(高瀬春奈)と・・・!
それとブランコがうまく結びつかない。後でライブラリーで確認してみます。ああ、恥ずかし。
>間の抜けた脚本だと思います。これでは、僕でなくても評価は上がらない(笑)
他にもあります。
>ボンドがヒップの車に乗れずに置いてきぼりを食らうこと。
ここです!
>結局は二人のカンフー少女を出す為だけにあったシークエンス
そして、ボートに乗って逃げる場面に繋げる為。ボートから水に落とされる少年も可哀相・・・。
また、空手の試合でボンドに倒されたまあまあのツワモノもボートまで追いかける時は平気な顔。
>ああ、恥ずかし。
あの場面を見て高瀬春奈のファンになった人も多いそうです(笑)。
>ボートから水に落とされる少年も可哀相・・・。
この作品のボンドは“冷たい”という評価もありますね。例えば、ブリット・エクランド(役名がグッドナイトというおふざけ)に対して紳士らしくない・・・云々。
>高瀬春奈
そう言えば、一時ちょっとしたブームになった記憶があります。
>例えば、ブリット・エクランドに対して紳士らしくない・・・
モード・アダムズに対してもビンタ!腕を捻って白状させる。
ボンドに協力した彼女が殺されても・・・冷たいです。
>スカラマンガの下男ニック・ナック
演じた人は後にピストル自殺。日野康一先生の著作「ロジャー・ムーア」の「黄金銃を持つ男」の出演者が集まった写真で「一人おいて」扱いされたのが悲しかったです。
>クリストファー・リーが断然格好良く見もの
さすが名優です!登場する場面もカッコいい。彼に射殺されるギャング役もよく出る人?
>モード・アダムズに対してもビンタ!腕を捻って白状させる。
適役なのである程度は仕方がないですが、亡くなった時の反応は他のボンドにはない感じ。
>>スカラマンガの下男ニック・ナック
>演じた人は後にピストル自殺。
エルヴェ・ベルシェーズ。
彼もそうですか。結構多いものですね。
>彼に射殺されるギャング役もよく出る人?
マーク・ローレンスでしょうか。彼は「ダイヤモンドは永遠に」にも出ていますよね。
>マーク・ローレンス
「ダイヤモンドは永遠に」ではラナ・ウッドをプールに落とすギャング役ですね。1910年2月17日-2005年11月28日。長生きでした。ウィキ英語版を見ると、たくさんの映画に出てる事がわかります。
>三連投でへたばった中継ぎ投手の如き状態
なるほど。その表現は合ってます(苦笑)。
>その力士像が数時間後に本物として襲い掛かる
そして、スカラマンガとの対決。ボンドの人形かと思ったら実は・・・。
ある程度予想できましたが、でもあの場面好きです(笑)。
その前には拳銃をセット(?)の下に落としてしまうドジなボンド。いいなあ(笑)。
>1910年2月17日-2005年11月28日。長生きでした。
1910年生まれですから、映画のキャリアも長く戦前から出ていますよね。
>そして、スカラマンガとの対決。ボンドの人形かと思ったら実は・・・。
力士の応用縁でした。予想通りでしたけどね(笑)。
>その前には拳銃をセット(?)の下に落としてしまうドジなボンド。
それが余りピンチにならないのも映画として抜けています^^;
>ルルの主題歌
僕が小6の時、中2の兄がこの曲をFM放送から録音して何度も聞いていました。すごい曲だと思いました。勿論気に入りました。
>ボンドがユーモラスで憎み切れない彼を殺さない
ルルの主題歌がちょっと違うヴァージョンで流れる。それがまたいいです。
>化石燃料がそう簡単に枯渇しないことが判って来た
えっ?石油はまだ大丈夫なんですか?またいろいろ教えて下さい。
>>ルルの主題歌
>すごい曲だと思いました。勿論気に入りました。
ルルは3回も主題歌を歌っているシャーリー・バッシーとは違うパンチがありまして良いですね。
彼女のデビュー曲「シャウト」(オリジナルはアイズレー・ブラザーズ)はビートルズもライブで歌っていましたよね。
>えっ?石油はまだ大丈夫なんですか?またいろいろ教えて下さい。
シェールガスも発掘されるようになりましたし、新しい油田も発掘され、この間もOPECが2040年の生産予定を発表しました。人口は増えますが、車は電気や水素に代わり、自然再生エネルギーも増えるわけで、原油の使用料は減っていくでしょうね。
今youtubeで「Lulu at age 15: SHOUT!」を見ました。15歳にして凄い貫禄と歌唱力!
>シェールガスも発掘されるようになりましたし、新しい油田も発掘され
なるほど。ホッとしました。教えて下さってありがとうございます。
>モード・アダムズ
この映画の時は29歳。ブリット・エクランドの方がずっと若いかと思ったら、エクランドは当時32歳で既に子供もいる!驚いた記憶があります。僕もまだ子供だったし。
でも、「オクトパシー」でアダムスは大人の魅力を見せてくれました。アメリカでは1980年代の007シリーズ最大のヒットとなったし。良い女優さんです。
>15歳にして凄い貫禄と歌唱力!
そうでしょう。
「いつも心に太陽を」To Sir with Loveではバラードでの上手さを発揮しています。
「黄金銃を持つ男」は両方を併せ持った感じですね。
>>モード・アダムズ
>「オクトパシー」
ブリット・エクランドはこの時もう10年選手でした。ピーター・セラーズが最初の旦那さんですね。
モード・アダムズはある程度年齢が行っていましたが、まだ新人でした。
現在007シリーズ再鑑賞中で、「ユア・アイズ・オンリー」に続いて「オクトパシー」も近いうちにアップしますのでお楽しみに。
>ユア・アイズ・オンリー
地味だけど良い作品です。
>To Sir with Love
今、聞いています。バラード。いいですねー!
>「黄金銃を持つ男」は両方を併せ持った感じですね。
「♪His eyes maybe」とゆっくり歌う部分も素晴らしいです。
>ピーター・セラーズが最初の旦那さんですね。
暴露本は良くないです。自分の価値も落とします。
ロッド・スチュアートとも付き合ってたんでしたっけ?
さて今からマラソン大会出場です。
>>ユア・アイズ・オンリー
>地味だけど良い作品です。
全くその通りですね。
>暴露本は良くないです。自分の価値も落とします。
多くの方が芸能人の私生活に興味がある。需要があるということですよねえ。僕は映画や音楽の外のことは余り興味がないです。
>さて今からマラソン大会出場です。
思ったような結果が出ましたか?