映画評「ノクターナル・アニマルズ」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督トム・フォード
ネタバレあり
テレビ東京(BSテレ東)で放送している「ファッション通信」を一時期見ていたので、ファッション・デザイナーのトム・フォードの名前は知っている。映画を作っていたことは知らなかったが、本作を観るとなかなか映画作りの才能もある。
前衛芸術を仕切るアート・ディーラーとして成功を収めた中年美人スーザン(エイミー・アダムズ)が、現夫と間に冷たい風の吹いている現在、20年前に別れた文学志願の夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から小説の原稿を受け取る。
それ以降、妻(エイミー二役)と娘とで車の旅に出た中年男性トニー(ギレンホール二役)が不良三人に絡まれた挙句に妻と娘を殺され、末期がんの刑事(マイケル・シャノン)の協力を得て復讐を企むというサスペンス小説の劇中劇と、それを読むスーザンの反応を見せる現在と、その結果回想される20年前の過去という三重構造で進行するのだが、音のそれを含めマッチカット的になかなか巧く繋がれ、ここに非凡なセンスを感じる。
そうして興味を繋いで浮かび上がる、内容におけるキー・ワードは復讐である。
エドワードの小説を読み、スーザンの心に前夫の才能に早めに見切りをつけて現在の夫(アーミー・ハマー)に乗り換え、前夫の子供を堕ろしたことへの後悔が俄かに生まれる。
その小説は、前夫が自身を投影した中年男性が妻と娘の復讐をするという内容だが、その内容とは裏腹にそこに秘められた前夫の思いは小説の中で妻を殺すという形での復讐である。それが彼がレストランで待つスーザンとの約束を反故にする復讐と共鳴し合って、映画は終わる。
しかし、〈裏腹に〉が暗示するように、これは読者たるスーザンの解釈であるから、そうでない可能性もあることを一応は指摘しておきたい。そうでないとすれば、幕切れも復讐とは限らないことになる。
人間やその存在に関して特段の問題を提起するわけではないが、デザイナーらしいファッショナブルな映像から、作者が織り込んだ様々な記号を読み取り、読み解く楽しみがある。インテリ好みの映画と言うべし。
奇しくも明日アップ予定の「デス・ウィッシュ」も三人の暴漢が妻と娘を襲い、夫が復讐するという同工異曲。題名から解るように「狼よさらば」のリメイクだ。
2016年アメリカ映画 監督トム・フォード
ネタバレあり
テレビ東京(BSテレ東)で放送している「ファッション通信」を一時期見ていたので、ファッション・デザイナーのトム・フォードの名前は知っている。映画を作っていたことは知らなかったが、本作を観るとなかなか映画作りの才能もある。
前衛芸術を仕切るアート・ディーラーとして成功を収めた中年美人スーザン(エイミー・アダムズ)が、現夫と間に冷たい風の吹いている現在、20年前に別れた文学志願の夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から小説の原稿を受け取る。
それ以降、妻(エイミー二役)と娘とで車の旅に出た中年男性トニー(ギレンホール二役)が不良三人に絡まれた挙句に妻と娘を殺され、末期がんの刑事(マイケル・シャノン)の協力を得て復讐を企むというサスペンス小説の劇中劇と、それを読むスーザンの反応を見せる現在と、その結果回想される20年前の過去という三重構造で進行するのだが、音のそれを含めマッチカット的になかなか巧く繋がれ、ここに非凡なセンスを感じる。
そうして興味を繋いで浮かび上がる、内容におけるキー・ワードは復讐である。
エドワードの小説を読み、スーザンの心に前夫の才能に早めに見切りをつけて現在の夫(アーミー・ハマー)に乗り換え、前夫の子供を堕ろしたことへの後悔が俄かに生まれる。
その小説は、前夫が自身を投影した中年男性が妻と娘の復讐をするという内容だが、その内容とは裏腹にそこに秘められた前夫の思いは小説の中で妻を殺すという形での復讐である。それが彼がレストランで待つスーザンとの約束を反故にする復讐と共鳴し合って、映画は終わる。
しかし、〈裏腹に〉が暗示するように、これは読者たるスーザンの解釈であるから、そうでない可能性もあることを一応は指摘しておきたい。そうでないとすれば、幕切れも復讐とは限らないことになる。
人間やその存在に関して特段の問題を提起するわけではないが、デザイナーらしいファッショナブルな映像から、作者が織り込んだ様々な記号を読み取り、読み解く楽しみがある。インテリ好みの映画と言うべし。
奇しくも明日アップ予定の「デス・ウィッシュ」も三人の暴漢が妻と娘を襲い、夫が復讐するという同工異曲。題名から解るように「狼よさらば」のリメイクだ。
この記事へのコメント
私もファッション通信は見ていてトム・フォードの名前だけは知っていました。 調べたら「シングル マン」の監督だったんですね。
しかし「シングルマン」はだめでしたね~ 映像はスタイリッシュでしたが、劇場でお金払って観たことを後悔した覚えがあります。
「失礼な質問だったらごめんなさい」なんですが、先生はファッション通信をご覧になってたという事はお洒落さんなんですか?
ちなみにうちはファッション関係の末端の仕事をしているので見ています。
>しかし「シングルマン」はだめでしたね~
世界的な映画サイトIMDbを見ると、投票結果は非常に良いので、記号を読み解くのが好きな人など受ける人には受ける作品なんでしょうね。
本作もモカさんにはダメかな?
僕も☆☆☆ですから絶賛というわけではないですが、記号を読ませる作品としてはそこそこ面白かったです。
>お洒落さんなんですか?
女性のものしか見ませんし、そんなことはないです。
一時期残業が多く、帰ると午後十時ごろになり丁度その時間に番組が始まったという記憶があり、美しいものに触れて疲れを癒すといった理由で観ていたのではないでしょうかねえ。これを見ながら夕食を食べ、落ち着いたら録画した映画を観るという感じだったように思います。
>うちはファッション関係の末端の仕事をしているので見ています。
ほーっ、そうですか。
映画を観る時も、ファッションの観点で見ることが多くなりませんか?
ファッション業界といっても末端ですし、素材作りにかかわっているので、ファッションの視点で映画を観ることはないですね。
たまに、「この人良いの着てるね~」って事はありますが。
最近では久しぶりに観た「卒業」でキャサリン・ロスがUCLAで着ていた茶色のスエードコートに白いパンツ姿が素敵でした。
もう一回二十歳に戻れるならマネしてみたいです。
トム・フォードの前作よりはこちらの方がよさそうですね。
近々観てみます。
>最近では久しぶりに観た「卒業」でキャサリン・ロスがUCLAで着ていた
1960年代から70年代「スクリーン」で、大内順子女史が映画の中で見られるファッションを開設していたのを思い出します。きっと「卒業」も紹介されていたでしょう。
スターチャンネルの吹き替え版で視聴いたしました。
前作より断然面白かったです。
エンドクレジットに20くらいのブランド名が出てきてましね。
警官の制服以外はチンピラ3人組の服までハイブランドの服だったりして (笑)
>前作より断然面白かったです。
それは良かった。
僕は前作が観たくなりました。
>エンドクレジットに20くらいのブランド名が出て
トム・フォードが全部やっているかと思って確認しませんでした。
監督業に専念ということだったのかな。
トム・フォードはファッションデザイナーなんですね。ファッションに超疎い私は知らなかったです。映画の絵作りがぜんたいにきれいなのはそのせいでしょうか。スタンリー・キューブリックもそうですが、静止画のきれいさというか。
スピルバーグの活動写真魂みたいなのとはちょっとちがった良さですね。
エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホールがうまいので、彼らを観ているだけで楽しめました。
オカピーさんがおっしゃっているように、幕切れは余韻を残して、見た人がいろいろ想像できるようにしてましたね。
>60年代末から70年代初期のころのエコーを感じさせる映画でした。
観てからまだ3年も経っていないのに、映画の感じを忘れています。
自分の文章を読んで、内容は大分思い出しましたが。
トム・フォードはNY大で美術史を学んだようで、その辺が映画の絵作りにもでているかもしれません。
>エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホールがうまい
さすがの安定感。
>幕切れは余韻を残して、見た人がいろいろ想像できるようにしてましたね
両義的な作りは下手をすると、作者が何をやりたかったか分からなくなってしまう危険性がありますが、本作はうまくやっていたでしょう(記憶が怪しいので、ぼかします)。