映画評「墓石と決闘」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1967年アメリカ映画 監督ジョン・スタージェス
ネタバレあり
「OK牧場の決闘」(1958年)のジョン・スタージェス監督がその後日談を扱った西部劇の傑作である。
彼の「決闘(決斗)」がタイトルに付く作品の中では一番の出来栄えだが、リアリズム基調で地味に見えるため講談調の「OK牧場」の後塵を拝す感じの評価に留まっている。初めて観たのは1980年代の衛星放送によると思う。
開巻直後タイトルに乗って関係者が集まり、タイトル終了後に起きるのがOK牧場の決闘。息子を殺されたアイク・クラントン(ロバート・ライアン)が裁判を起こすが、結局ワイアット・アープ(ジェームズ・ガーナー)、ドク・ホリデイ(ジェースン・ロバーズ)らは無罪になる。違う町とは言え、個人が保安官を訴えるのだからかの国は面白い。
クラントンは勿論面白くないので、アープやその一味を何とかやっつけようと子分たちに働きかけ、理髪店からアープの弟ヴァージルを夜襲し、保安官選挙の当日には当確となったモーガンを射殺する。ビリヤードの最中の暗殺で、玉突き台に突っ伏すショットが凄い。
向こうがやればこちらもやり返すの図式で、モーガンの葬儀で妻子のいるトゥーソンでアープが追手を逆に仕留める。駅構内の列車を巧く使った面白い場面である。
以降、アープとホリデイは追撃のメンバーに昔の縁故のある人物を二人加えるのだが、実際にはアープが殆ど一人で次々と殺してしまう形。最後に残ったのは諸悪の根源アイク爺さんで、メキシコまでお得意の牛泥棒に出かけている老人をアープが仕留める。肺病が重症で入院したホリデイに最後の挨拶をしてアープは去っていく。
一連の殺害場面は殆ど史実通りらしい。既に紹介したうち、ヴァージルへの夜襲はショットの切り替えが適切無比で実に素晴らしい。OK牧場に向う四人の男たちを捉えた冒頭のショット、或いはアープとクラントン老の決闘のショットなどいずれも美しい。
この作品の第一の殊勲は、ルシアン・バラードを撮影監督に起用して成し得た構図の美しさである。一向に派手なことはやっていないが、本格的にカメラで映画を観る人は100分間唸りっぱなしでしょうなあ。
昔カセットでよく聴いたジェリー・ゴールドスミスの音楽も良い。
ガーナーがいつものコミカルさを全く封じて冷徹なアープを好演、腐れ縁の友人として彼を常に支えるロバーズの味も絶品でござる。ガーナーが保安官という立場や法を盾にして実は復讐の為の殺害を繰り返しているのを友人らしく素直に指摘し続けるところが実に味わい深い。ご贔屓ロバーズの好演により幕切れは涙を禁じ得ず。
“墓石”は誰かの墓というより、地名トゥームストーンを日本語にした洒落だろう。
1967年アメリカ映画 監督ジョン・スタージェス
ネタバレあり
「OK牧場の決闘」(1958年)のジョン・スタージェス監督がその後日談を扱った西部劇の傑作である。
彼の「決闘(決斗)」がタイトルに付く作品の中では一番の出来栄えだが、リアリズム基調で地味に見えるため講談調の「OK牧場」の後塵を拝す感じの評価に留まっている。初めて観たのは1980年代の衛星放送によると思う。
開巻直後タイトルに乗って関係者が集まり、タイトル終了後に起きるのがOK牧場の決闘。息子を殺されたアイク・クラントン(ロバート・ライアン)が裁判を起こすが、結局ワイアット・アープ(ジェームズ・ガーナー)、ドク・ホリデイ(ジェースン・ロバーズ)らは無罪になる。違う町とは言え、個人が保安官を訴えるのだからかの国は面白い。
クラントンは勿論面白くないので、アープやその一味を何とかやっつけようと子分たちに働きかけ、理髪店からアープの弟ヴァージルを夜襲し、保安官選挙の当日には当確となったモーガンを射殺する。ビリヤードの最中の暗殺で、玉突き台に突っ伏すショットが凄い。
向こうがやればこちらもやり返すの図式で、モーガンの葬儀で妻子のいるトゥーソンでアープが追手を逆に仕留める。駅構内の列車を巧く使った面白い場面である。
以降、アープとホリデイは追撃のメンバーに昔の縁故のある人物を二人加えるのだが、実際にはアープが殆ど一人で次々と殺してしまう形。最後に残ったのは諸悪の根源アイク爺さんで、メキシコまでお得意の牛泥棒に出かけている老人をアープが仕留める。肺病が重症で入院したホリデイに最後の挨拶をしてアープは去っていく。
一連の殺害場面は殆ど史実通りらしい。既に紹介したうち、ヴァージルへの夜襲はショットの切り替えが適切無比で実に素晴らしい。OK牧場に向う四人の男たちを捉えた冒頭のショット、或いはアープとクラントン老の決闘のショットなどいずれも美しい。
この作品の第一の殊勲は、ルシアン・バラードを撮影監督に起用して成し得た構図の美しさである。一向に派手なことはやっていないが、本格的にカメラで映画を観る人は100分間唸りっぱなしでしょうなあ。
昔カセットでよく聴いたジェリー・ゴールドスミスの音楽も良い。
ガーナーがいつものコミカルさを全く封じて冷徹なアープを好演、腐れ縁の友人として彼を常に支えるロバーズの味も絶品でござる。ガーナーが保安官という立場や法を盾にして実は復讐の為の殺害を繰り返しているのを友人らしく素直に指摘し続けるところが実に味わい深い。ご贔屓ロバーズの好演により幕切れは涙を禁じ得ず。
“墓石”は誰かの墓というより、地名トゥームストーンを日本語にした洒落だろう。
この記事へのコメント
>ビリヤードの最中の暗殺で、玉突き台に突っ伏すショットが凄い。
ジョン・スタージェス監督、やりますねー!
>一連の殺害場面は殆ど史実通りらしい。
フランク・ペリー監督、ステイシー・キーチ主演の「ドク・ホリデイ」も史実に近い場面があったそうです。
>往年の大監督シュトロハイムがかつて名監督だった召使役で出て来る
見終えた後でそれを知って驚きました!
>僕は感激し、映画館で二度観ました。
素晴らしい映画なんですねー!
>他の監督を馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたい。
他の監督。素晴らしい監督。個人的に好む監督。いろいろあるのです。
>気持ちがブラックになったところで話題転換。
うまい!座布団一枚!
>「人生が二度あれば」
二度ない・・・でも、それで良いのかも知れません。
>フランク・ペリー監督、ステイシー・キーチ主演の「ドク・ホリデイ」も
完全なニュー・シネマ以降の作品で、リアリズムでした。
>素晴らしい映画なんですねー!
「悲愁」は傑作ですよ。後ろに座っていたカップルの男が「解らん」と言っていましたが、非常に解りやすい。必見です(が、観られない)。
>うまい!座布団一枚!
恐れ入ります。
>二度ない・・・でも、それで良いのかも知れません。
陽水も心底ではそう思っていたと思います。しかし、そう叫ばざるを得なかったのでしょうね、若くて素直な彼には。
>完全なニュー・シネマ以降の作品で、リアリズムでした。
「OK牧場の決闘」では無敵と言うイメージのワイアット・アープ。
でも、「ドク・ホリデイ」でのワイアット・アープは殴り合いの喧嘩は然程強くない。まさにリアリズム。
>ご贔屓ロバーズの好演
ジェイソン・ロバーズ。『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』『大統領の陰謀』全く違う役柄。まさに名優です!
>ジェイソン・ロバーズ
僕が最初に感動したのは、映画館で観たということもあって、「ジュリア」のダシェル・ハメット役ですね。有名なハードボイルド小説の作家です。
そして、その後、旧作の本作や「砂漠の流れ者」のような作品で改めて感心したという次第。大のご贔屓です。
>大のご贔屓です。
『トラ・トラ・トラ!』では陸軍中将役でした。
>「砂漠の流れ者」
ペキンパー作品の中で僕が一番好きなものです!
>ジェームズ・ガーナー
この人と言えば『大脱走』そして『ロックフォードの事件メモ』。
名古屋章の吹き替えが合ってます。
>『トラ・トラ・トラ!』では陸軍中将役でした。
元々は舞台俳優らしいですね。起用に上手く演じ分ける。
>ペキンパー作品の中で僕が一番好きなものです!
「砂漠の流れ者」は渋くて良いですよね。
僕は愛着のある「ジュニア・ボナー」をもう一度見たいのですが、手元にソフトが全くない。マックィーン主演の映画では珍しいです。
>この人と言えば『大脱走』そして『ロックフォードの事件メモ』。
「大脱走」は何回も見ていますが、「ロックフォードの事件メモ」は多分大学受験の勉強や他大学と違うハードな予習・復習が重なり余り見た記憶がないのです。
>元々は舞台俳優
舞台俳優は撮り直しが利かない。その場で真剣勝負!20年ぐらい前に僕は名古屋の小劇場によく行きました。
>「砂漠の流れ者」は渋くて良いですよね。
そうでしょう(嬉)。主人公はおよそ教養がない。でも、たくましい。そして憎めない男。ヒロイン(?)も清純ではないけど可愛らしい。
>「ジュニア・ボナー」
是非見たいです!
>多分大学受験の勉強や他大学と違うハードな予習・復習が重なり
やっぱり勉強家で博学ですねー!オカピー教授。
>舞台俳優は撮り直しが利かない。
だから、映画の超長回しも舞台俳優はビクともしない。映画の長回しで大変なのは俳優ではなく、スタッフですね。
>>「ジュニア・ボナー」
>是非見たいです!
お薦めです。チャンスがあれば是非。