映画評「アルカトラズからの脱出」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1979年アメリカ映画 監督ドン・シーゲル
ネタバレあり

僕は悪名高い犯罪者を収監する刑務所のあったアルカトラズ島をこの映画によって知った。それ以来のほぼ40年ぶりの鑑賞。「終身犯」などもこの刑務所が舞台だったらしいが、その時には意識しなかった。

1960年、脱獄常習犯フランク・モリス(クリント・イーストウッド)がサンフランシスコから2kmほど離れた小島にあるアルカトラズ刑務所に送られる。
 所長は変質的にまで陰険でやりきれなく、ある囚人に命を狙われるということもあり、隣の独房に入って来た青年バッツ(ラリー・ハンキン)や前の刑務所仲間のアングリン兄弟(フレッド・ウォード、ジャック・ティボー)と協力し合い、刑務所の古さを利用した脱獄計画をじっくり進めていく。
 通風孔をくすめたスプーンで広げ、図書係が持ってくる雑誌を利用してダミーの頭をこしらえ、レインコートを盗み出す。そして、いざ実行する段になってバッツが躊躇して遅れるなどの不都合があるが、脱出には三人あれば十分、一致協力して夜陰に乗じて監視を潜り抜ける。

三人の死体が発見されないことから脱獄は成功したものと思われる、という内容である。
 恐らくこの脱獄事件の結果であろうか、その1年後の1963年に刑務所は廃止される。つまり、モリスは発意して2年ほどかけて実施したことになる。

バッツの躊躇の理由など細かいところに多少疑問の残るところがあるとは言え、アクションが中心になりがちな脱獄ものの常識とは逆に地道な準備模様を軸に展開したところが今でも新鮮で、重大なピンチを次々と潜り抜けるという直球タイプとは少し違う積み重ね型とも言うべきサスペンスが秀逸である。

Allcinemaに“それぞれが独房にいたのにどうやって抜け出たか説明がなくすっきりしない”という投稿があるが、モリスが事前に他の3人に通風孔の説明をしている。つまり3人以外も同じ方法で穴を広げ、そこから逃げたのは自明。現に、掘る描写こそないものの、やっと決意したバッツが広げた通風孔から逃げる描写もあり、投稿者が見落としたにすぎない。

スティーヴン・キングはこの作品を観て「ショーシャンクの空に」(原作名「刑務所のリタ・ヘイワース」)を書いたのではないか。図書係の存在など似たところあり。

石の上にも三年ならぬ、獄の中にも二年。

この記事へのコメント

mirage
2023年09月24日 08:06
こんにちは、オカピーさん。

「アルカトラズからの脱出」を監督したドン・シーゲルは、この映画を撮る25年前に、実際にアルカトラズ刑務所を取材したそうですね。

もちろん、この映画のためではなく、その頃、彼は「第十一号監房の暴動」という映画を撮っていたからなんですね。
サンクエンティンやフォルサムといった悪名高い刑務所も同じ時期に訪れ、なんとも憂鬱な気分にさせられたそうです。

この「アルカトラズからの脱出」は、1960年に起こった実際の事件を下敷きにしています。
当時、この島からの脱出は不可能とされていました。
警備が厳しく、海流が速く、水温が低いという三条件が揃っていたからです。

その刑務所に、クリント・イーストウッド扮するフランク・モリスという犯罪者が移送されて来ます。
ドン・シーゲル監督は、例によって、彼の素性や背後関係を明かしません。
モリスが脱獄の名人であり、それだからこそ、この島へ送られてきたという事実にのみ照明を当てるのです。

あとは刑務所内部の描写です。果たして、どんな囚人がいるのか?
パトリック・マクグーハン扮する所長は、どんな性格なのか?
刑務所はどうやって囚人の人格を破壊するのか?
道具の調達はどうやって行なうのか? --------。

ドン・シーゲル監督は、実に無駄なく、こうした細部を語っていきます。
その語りに従えば、観ている私は、モリスの内部に導かれていきます。
と言うより、モリスとともに、脱獄のプランを真剣に練り始めるんですね。

誰を味方につけるか。時期はいつを選ぶか。監視の目はどう欺くか。
相棒選びだけは、やや説得力を欠きますが、他は文句なしに渋い。

ドン・シーゲル監督とクリント・イーストウッドの名コンビは、コンビを組むのは、この作品が最後となりましたが、隠れた佳作だと思いますね。
オカピー
2023年09月24日 21:19
mirageさん、こんにちは。

>ドン・シーゲル監督とクリント・イーストウッドの名コンビ
>この作品が最後となりましたが、隠れた佳作だと思いますね。

そうですね。
ドン・シーゲルはご贔屓です。

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