映画評「動く標的」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1966年アメリカ映画 監督ジャック・スマイト
ネタバレあり
ハードボイルド小説は概して本格推理より映画化に向いているが、登場人物が多くてややこしく話を掴むのに難儀し、また、人物の性格描写が強いのでサスペンスはさほど強力ではない、という傾向がある。
だから、直球的な面白さを求めると、Allcinema投稿における“映画にするような内容ではない”という極端な評価に陥る。ロス・マクドナルドの代表作たる本作がそうであるならば、レイモンド・チャンドラーもダシェル・ハメットも映画化する価値はないということになるだろう。ロック・ファンがラップにロックのビートがないからと訊く価値がないのと言うのと同じように、彼にはハードボイルドが向いていないというだけの話なのだ。
四十数年ぶりの再鑑賞。
ポール・ニューマン扮する主人公の私立探偵ルー・ハーパーが、弁護士の友人アーサー・ヒルに頼まれ、有閑婦人ローレン・バコールの夫たる大富豪の行方を探すことになるという話で、自家用飛行機の操縦士ロバート・ワグナーが格納している間に富豪はいなくなったのである。彼と仲の良い富豪の娘でローレンの継娘パメラ・ティフィン、大富豪の部屋でポートレイトを発見したことから接近するかつての人気女優シェリー・ウィンターズ、彼女の部屋にいた時に電話をかけてきたジャズ・ピアニストのジュリー・ハリス等に当たって真相に近づいていく。
実際には彼女たちの関係者たる男性陣も絡むからもっと複雑なお話で、シェリーのところに行く動機がポートレイトを発見したからというのは弱いが、この作品の最大の弱点は、チャンドラーのハードボイルドものとほぼ同じスタイルで進行していくので新味が薄いということではなかろうか。
その代わり、ハードボイルド映画が1940年代に流行した時と違って、ロケによる景観は魅力で、山道をおんぼろスポーツカーで疾走する一連の場面が楽しめる。
パメラが図らずも指摘するように、ハーパーは案外に保守で、細君ジャネット・リーに対しては家を守っていればよいと思い、自分は変てこな事件を追い続ける。そんな状況を嫌って彼女は離婚を希望して別居中。そういう女性観を持つ彼は酒に溺れるシェリーや麻薬中毒のジュリーには手厳しく、それが本作に出て来る他の男性陣と著しい対照をなす辺りの性格描写が面白い。
女性陣の配役が贅沢なので、退屈した時には彼女たちで楽しむべし。パメラ以外は姥桜ばかりなので、演技を見るのだよ。
ジャック・スマイト選手、8番打者としてクリーン・ヒット。褒めているのか貶しているのかって? 8番でもレギュラーともなれば立派なものです。
1966年アメリカ映画 監督ジャック・スマイト
ネタバレあり
ハードボイルド小説は概して本格推理より映画化に向いているが、登場人物が多くてややこしく話を掴むのに難儀し、また、人物の性格描写が強いのでサスペンスはさほど強力ではない、という傾向がある。
だから、直球的な面白さを求めると、Allcinema投稿における“映画にするような内容ではない”という極端な評価に陥る。ロス・マクドナルドの代表作たる本作がそうであるならば、レイモンド・チャンドラーもダシェル・ハメットも映画化する価値はないということになるだろう。ロック・ファンがラップにロックのビートがないからと訊く価値がないのと言うのと同じように、彼にはハードボイルドが向いていないというだけの話なのだ。
四十数年ぶりの再鑑賞。
ポール・ニューマン扮する主人公の私立探偵ルー・ハーパーが、弁護士の友人アーサー・ヒルに頼まれ、有閑婦人ローレン・バコールの夫たる大富豪の行方を探すことになるという話で、自家用飛行機の操縦士ロバート・ワグナーが格納している間に富豪はいなくなったのである。彼と仲の良い富豪の娘でローレンの継娘パメラ・ティフィン、大富豪の部屋でポートレイトを発見したことから接近するかつての人気女優シェリー・ウィンターズ、彼女の部屋にいた時に電話をかけてきたジャズ・ピアニストのジュリー・ハリス等に当たって真相に近づいていく。
実際には彼女たちの関係者たる男性陣も絡むからもっと複雑なお話で、シェリーのところに行く動機がポートレイトを発見したからというのは弱いが、この作品の最大の弱点は、チャンドラーのハードボイルドものとほぼ同じスタイルで進行していくので新味が薄いということではなかろうか。
その代わり、ハードボイルド映画が1940年代に流行した時と違って、ロケによる景観は魅力で、山道をおんぼろスポーツカーで疾走する一連の場面が楽しめる。
パメラが図らずも指摘するように、ハーパーは案外に保守で、細君ジャネット・リーに対しては家を守っていればよいと思い、自分は変てこな事件を追い続ける。そんな状況を嫌って彼女は離婚を希望して別居中。そういう女性観を持つ彼は酒に溺れるシェリーや麻薬中毒のジュリーには手厳しく、それが本作に出て来る他の男性陣と著しい対照をなす辺りの性格描写が面白い。
女性陣の配役が贅沢なので、退屈した時には彼女たちで楽しむべし。パメラ以外は姥桜ばかりなので、演技を見るのだよ。
ジャック・スマイト選手、8番打者としてクリーン・ヒット。褒めているのか貶しているのかって? 8番でもレギュラーともなれば立派なものです。
この記事へのコメント
冒頭でポール・ニューマンが出涸らしのコーヒーを不味そうに飲む場面が笑えます。
私立探偵ルー・ハーパーがあまり強そうな男ではないのもいいですね。用心棒にもやられっぱなしだし(笑)。
>細君
仲直りして朝食を作る。でもハーパーが相変わらず仕事優先。憎々しげに目玉焼きを潰す。可笑しくもあり、悲しくもあり・・・。
>ジャネット・リー
刑事コロンボの『忘れられたスター』も悲しかったです。
>記念樹
「どこまでも行こう」とそっくりです。やっぱり収入の問題でしょうね。
>僕の発見と言って良いのかも(笑)。
素晴らしい発見です!「Don't let me down」と言えば「あんたのバラード」をあげる人が多いですから。
>来年になってしまうでしょうが、楽しみです。
先ほど「愛と死の記録」を見ました。吉永小百合主演、監督は蔵原惟繕。
何とも悲しい映画でした・・・。
>>細君
>可笑しくもあり、悲しくもあり・・・。
今は訳ありと雖も、それが一度は夫婦となった女性の心理でしょうねえ。
>>ジャネット・リー
>刑事コロンボの『忘れられたスター』も悲しかったです。
TVは余り見ない僕ですが、見たような気がします。詳細は忘却。
当方、ジャネット・リーと言えば「若草物語」と「サイコ」ですね。
>「Don't let me down」と言えば「あんたのバラード」
「あんたのバラード」のAメロと"Don't Let Me Down"のサビ(この曲はサビから始まりますよね)が似ているということなんでしょうか? 僕は余り感じないんですよね。
これが似ているのであれば、「お山の杉の子」と「戦友」の歌い出しなんて瓜二つでしょうし、童謡は皆同じ曲と言ってような? 僕のセンスに問題ありですかねえ。
いずれにしても、僕はメロディーより、アレンジの類似の方に興味がありますね。メロディーは偶然似ることもあります。クラシックに詳しい人に言わせますと、音の発展形が限られるポピュラー音楽では最初の二音くらいが似るとその後も暫く似ることがあるそうです。ジョージ・ハリスンの“My Sweet Lord"なんてその類ではないかと疑っていますよ^^
>先ほど「愛と死の記録」を見ました。
昔「愛と死をみつめて」と一緒に観ました。今回保存版も一緒に作りましたが、最近は古い映画であれば何でも保存版にしています。逆に言えば、それくらい放映が少ない(怒)。
>麻薬中毒のジュリー
「エデンの東」のヒロインがこう言う役ってのもいいですね。ジュリー・ハリスは刑事コロンボシリーズで最高傑作と言われる「別れのワイン」でも重要な役どころでした。
>それが一度は夫婦となった女性の心理でしょうねえ。
我々男とは違います。
>ジョージ・ハリスンの“My Sweet Lord"
まさに最初の二音です。
>古い映画であれば何でも保存版
エンタツ・アチャコの「新やじきた道中」。清川虹子さんの芸達者ぶりがよくわかりました。
>8番打者としてクリーン・ヒット。
中日ドラゴンズの広瀬宰選手。8番で名ショート。生涯打率は2割2分4厘。玄人好みの選手。52歳の若さで逝去。それを思い出しました。
オカピー教授。今年もレスをありがとうございました。良いお年をお迎え下さい。
>ジュリー・ハリス
「エデンの東」のパンフレットを買い、既に30歳を超えると知ってびっくりしました。あの映画では若そうに見えました。だから十年後にこういう役ができるのは尤もなんですね。
>中日ドラゴンズの広瀬宰選手。
余り記憶がないと思ったら、1976年からパ・リーグに行ったようですね。僕が高校野球だけでなくプロ野球に熱中するのは76年からなので。
広島の菊池選手が大リーグ進出を断念したようですね。今二塁手が必要な球団がないようです。ショートとしてやるには肩が強くなく、バッティングも弱い。
こちらこそ一年間お世話になりました。来年もよろしくお願い致します。
昨日は「あゝひめゆりの塔」を見ました。戦争の悲惨さは勿論伝わって来ましたが、それを伝える舛田利雄監督の力量も感じました。
>プロ野球に熱中するのは76年から
長嶋巨人が優勝の年ですね。前年は最下位。
中日ではイマイチだった島谷と稲葉が阪急に移籍したら大活躍!
>広島の菊池選手が大リーグ進出を断念
日米の野球の違い・・・・。
>「エデンの東」のパンフレットを買い、既に30歳を超える
驚いた映画ファンも多かったようです。
>シェリー・ウィンターズ
「ポセイドン・アドベンチャー」での老夫婦を思い出します。
今年もよろしくお願い致します。
>昨日は「あゝひめゆりの塔」を見ました。
蝋燭の火が消えるところが悲しかったですねえ。
>中日ではイマイチだった島谷と稲葉が阪急に移籍したら大活躍!
それは記憶しています。日本シリーズで阪急と戦いましたから。
>「ポセイドン・アドベンチャー」での老夫婦を思い出します。
先月HPの画像クイズの主役が彼女でした。回答者からも当然その話題が出ましたよ。