映画評「遠すぎた橋」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1977年アメリカ映画 監督リチャード・アッテンボロー
ネタバレあり
1970年代前半はニューシネマ時代で、英米発の本格的な戦争映画は見られなかったと記憶する。後半に入ると「スター・ウォーズ」などスターシステム時代のような映画が復活し始め、「スター・ウォーズ」と同じ77年にこの作品も発表された。
ここで問題となるのが製作国で、IMDbではアメリカ映画、ウィキペディアでは英米合作、Allcinemaでは英仏合作。その他、英国映画という表記もある。僕はIMDbを一番信用しているので、とりあえずアメリカ映画とする。調べてみると、アメリカ人ジョセフ・E・レヴィンの会社が単独で製作しているのである。この事実から推してアメリカ映画であることは間違いないだろう。
原作は「史上最大の作戦」と同じくコーネリアス・ライアンのドキュメンタリーで、スケールが同じくらい大きく、何よりも出演者の顔ぶれが凄かった。下記ストーリーの中で紹介し、はみ出た場合は別途記すことにしましょう。
ノルマンディー上陸作戦(「史上最大の作戦」のテーマ)の成功で撤退するドイツ軍の戦力低下に乗じ、ショーン・コネリーとライアン・オニールが夫々指揮する英米の空挺部隊とジーン・ハックマン指揮するポーランド空挺部隊がまずベルリン突破への急所となるべき橋を急襲、その要衝となるオランダはアーネムを目指す作戦を立てる。アメリカのパットン中将にライバル意識を燃やす英国モントゴメリー元帥の対抗意識が生みだした無謀な作戦である。
この作戦を具体的に指揮するのはダーク・ボガードの中将だが、ハックマンは最初から渋い顔をする。空挺部隊が橋を占拠した後、地上部隊がアーネムに進行する作戦で、地上部隊では、橋の前の住宅を拠点に橋を渡って来るドイツ軍に攻撃を仕掛け続けるアンソニー・ホプキンズの奮闘、敵が容赦なく襲ってくる場所で渡河して奮闘するロバート・レッドフォードの部隊が強い印象を残す。上官を救ってジープで敵中突破する軍曹ジェームズ・カーンの挿話も印象深い。
民間では傷病兵に手を差し伸べる病院長ローレンス・オリヴィエと彼の要請に応えて家を病院代わりにするリヴ・ウルマンが出て来る。
ハックマンを筆頭にボガード以外は懐疑的だった作戦は案の定失敗に終わって撤退するのだが、モントゴメリー(姿は一度も見えず)は「90%成功だった」と強弁するのである。マーケット・ガーデン作戦という、戦争通には悪名高い作戦らしい。
ハックマンの反抗的な態度を見ても、最終的に死んでしまう兵士が懸命に持ち帰ろうとした荷物の中味が英国空挺部隊のベレー帽という落ちを見ても、反戦的、より正確に言うなら反軍隊的な内容となっている。
昔観た時よりは面白く観たが、やはり各部隊の地理的関係が全く解らないので、強力なサスペンスになって行かない憾みが強い。ちょっとお遊び気分になってしまいかねないが、積極的に画面に地図を出すという手もあったのではないか。
良い点はドイツ陣営にマクシミリアン・シェル、ハーディ・クリューガーといった有名なドイツ系俳優を起用してきちんとドイツ語をしゃべらせていること。アメリカ人観客に配慮してドイツ人(しかも英語がうまいドイツ兵を連合軍に潜入させる設定)にも英語を話させることで話を混乱させ潜在力を無駄にした「バルジ大作戦」(1965年)のようなヘマはしていない。色々な国が入り混じる戦争映画では当事国の言葉を話させないのは全くダメである。他方ドイツ人しか出て来ないお話では英語でもフランス語でも(欧州言語であれば)何でも良い。
監督はリチャード・アッテンポロー。既に「素晴らしき戦争」という傑作反戦ミュージカルを作ってはいるが、一般的にはまだ一流と見なされていない頃の作品ながら、終盤にこの人らしくマッチ・カットがあったのに嬉しくなった。落下傘で降りて倒れた兵士にカメラが寄った後リヴ・ウルマンの眠っている子供に繋げるのである。
その他、マイケル・ケイン、エリオット・グールド、エドワード・フォックスが出演。映画ファンなら顔触れだけでも楽しめる。
TVで放映された戦争映画でも、英語の部分だけを日本語にし、その他はそのままという形で吹き替えをするケースがあった。映画鑑賞においてこれは理想的。しかし、映画館まで行くなら洋画の実写映画は原語版で観てね。もしかしたらトム・クルーズの本当の声を知らない人がいるのではないの?
1977年アメリカ映画 監督リチャード・アッテンボロー
ネタバレあり
1970年代前半はニューシネマ時代で、英米発の本格的な戦争映画は見られなかったと記憶する。後半に入ると「スター・ウォーズ」などスターシステム時代のような映画が復活し始め、「スター・ウォーズ」と同じ77年にこの作品も発表された。
ここで問題となるのが製作国で、IMDbではアメリカ映画、ウィキペディアでは英米合作、Allcinemaでは英仏合作。その他、英国映画という表記もある。僕はIMDbを一番信用しているので、とりあえずアメリカ映画とする。調べてみると、アメリカ人ジョセフ・E・レヴィンの会社が単独で製作しているのである。この事実から推してアメリカ映画であることは間違いないだろう。
原作は「史上最大の作戦」と同じくコーネリアス・ライアンのドキュメンタリーで、スケールが同じくらい大きく、何よりも出演者の顔ぶれが凄かった。下記ストーリーの中で紹介し、はみ出た場合は別途記すことにしましょう。
ノルマンディー上陸作戦(「史上最大の作戦」のテーマ)の成功で撤退するドイツ軍の戦力低下に乗じ、ショーン・コネリーとライアン・オニールが夫々指揮する英米の空挺部隊とジーン・ハックマン指揮するポーランド空挺部隊がまずベルリン突破への急所となるべき橋を急襲、その要衝となるオランダはアーネムを目指す作戦を立てる。アメリカのパットン中将にライバル意識を燃やす英国モントゴメリー元帥の対抗意識が生みだした無謀な作戦である。
この作戦を具体的に指揮するのはダーク・ボガードの中将だが、ハックマンは最初から渋い顔をする。空挺部隊が橋を占拠した後、地上部隊がアーネムに進行する作戦で、地上部隊では、橋の前の住宅を拠点に橋を渡って来るドイツ軍に攻撃を仕掛け続けるアンソニー・ホプキンズの奮闘、敵が容赦なく襲ってくる場所で渡河して奮闘するロバート・レッドフォードの部隊が強い印象を残す。上官を救ってジープで敵中突破する軍曹ジェームズ・カーンの挿話も印象深い。
民間では傷病兵に手を差し伸べる病院長ローレンス・オリヴィエと彼の要請に応えて家を病院代わりにするリヴ・ウルマンが出て来る。
ハックマンを筆頭にボガード以外は懐疑的だった作戦は案の定失敗に終わって撤退するのだが、モントゴメリー(姿は一度も見えず)は「90%成功だった」と強弁するのである。マーケット・ガーデン作戦という、戦争通には悪名高い作戦らしい。
ハックマンの反抗的な態度を見ても、最終的に死んでしまう兵士が懸命に持ち帰ろうとした荷物の中味が英国空挺部隊のベレー帽という落ちを見ても、反戦的、より正確に言うなら反軍隊的な内容となっている。
昔観た時よりは面白く観たが、やはり各部隊の地理的関係が全く解らないので、強力なサスペンスになって行かない憾みが強い。ちょっとお遊び気分になってしまいかねないが、積極的に画面に地図を出すという手もあったのではないか。
良い点はドイツ陣営にマクシミリアン・シェル、ハーディ・クリューガーといった有名なドイツ系俳優を起用してきちんとドイツ語をしゃべらせていること。アメリカ人観客に配慮してドイツ人(しかも英語がうまいドイツ兵を連合軍に潜入させる設定)にも英語を話させることで話を混乱させ潜在力を無駄にした「バルジ大作戦」(1965年)のようなヘマはしていない。色々な国が入り混じる戦争映画では当事国の言葉を話させないのは全くダメである。他方ドイツ人しか出て来ないお話では英語でもフランス語でも(欧州言語であれば)何でも良い。
監督はリチャード・アッテンポロー。既に「素晴らしき戦争」という傑作反戦ミュージカルを作ってはいるが、一般的にはまだ一流と見なされていない頃の作品ながら、終盤にこの人らしくマッチ・カットがあったのに嬉しくなった。落下傘で降りて倒れた兵士にカメラが寄った後リヴ・ウルマンの眠っている子供に繋げるのである。
その他、マイケル・ケイン、エリオット・グールド、エドワード・フォックスが出演。映画ファンなら顔触れだけでも楽しめる。
TVで放映された戦争映画でも、英語の部分だけを日本語にし、その他はそのままという形で吹き替えをするケースがあった。映画鑑賞においてこれは理想的。しかし、映画館まで行くなら洋画の実写映画は原語版で観てね。もしかしたらトム・クルーズの本当の声を知らない人がいるのではないの?
この記事へのコメント
「遠すぎた橋」に関する、読み応えのあるレビューをされていますので、コメントしたいと思います。
この映画「遠すぎた橋」は、組織のトップの考えにより、翻弄される人間の命の尊さを戦争映画で描いた作品ですね。
1977年の映画「遠すぎた橋」は、当時のアブコ・エンバシー映画社の社長で72歳のジョセフ・E・レビンが、その職を辞して私財を投げ打って、この映画に90億円の巨額な製作費を投じて、乾坤一擲の勝負を賭けた戦争映画の超大作ですね。
「史上最大の作戦」で有名なコーネリアス・ライアンの「遥かなる橋」が原作で、監督を「ガンジー」、「素晴らしき戦争」の名匠リチャード・アッテンボロー、脚本を「明日に向って撃て!」、「大統領の陰謀」のウイリアム・ゴールドマン、撮影監督を「2001年宇宙の旅」、「キャバレー」のジェフリー・アンスワース、音楽を「トム・ジョーンズの華麗な冒険」のジョン・アディスンという超豪華なスタッフの顔ぶれと、尚且つ、当時の大スター、演技派が集結しているため、映画好きにとってはいやが上にも期待が盛り上がります。
かつての「史上最大の作戦」、「パリは燃えているか」や「西部開拓史」等の超オールスターキャストによる映画をも遥かに凌ぐ、まさしく超弩級の大作として製作され、製作者のジョセフ・E・レビンのこの映画に賭けた凄まじい熱意と情熱が感じられます。
この「遠すぎた橋」とは、オランダのアーンエム南方にあるライン河に架かる橋の事で、ノルマンディー上陸作戦から99日後の1944年9月17日に連合国軍により発動された"マーケット・ガーデン作戦"の全貌を描いています。
もともとこの作戦は、イギリス軍のモンゴメリー元帥の発案によるもので、ベルギーから北へ約100kmに渡るオランダの回廊に連なる5つの橋を、パラシュート部隊で空から占拠しようとする"マーケット作戦"と同時に、陸上の機甲部隊がこれら5つの橋を渡って北上する"ガーデン作戦"により、ライン河を渡り、一気にドイツ国内に侵攻し、首都ベルリンの占領を早めて、何とかクリスマスまでに、第二次世界大戦を終結させようとする、イギリス軍を主力に置いた作戦でした。
このイギリス軍発案の作戦は、立案段階で、アメリカ軍のアイゼンハワー将軍が考えていた、連合国軍が歩調を合わせて、幅広く全戦線で進撃しようとする作戦との意見の調整が本来は必要でしたが、ノルマンディー上陸作戦の成功の後、ドイツ軍の混乱にも助けられて、予想以上の快進撃を続けていた連合国軍側の楽観的な戦勝ムードの中、未調整のまま、この"マーケット・ガーデン作戦"が実行に移されました。
歴史的な事実として、この作戦のある意味、強行の裏にはイギリス軍のモンゴメリー元帥とアメリカ軍のパットン将軍の"功名心を争う確執"があったとも言われています。
この二人の将軍の確執は「パットン大戦車軍団」(フランクリン・J・シャフナー監督)の中でも興味深く描かれていましたね。
この作戦には、当初から幾つかの問題があった事も映画はきちんと描いていきます。
特にイギリス情報部の地下組織からのアーンエム付近に、ドイツ軍の有力な戦車部隊が潜んでいるという情報が、軍の上層部へ報告されていたにも関わらず、ブラウニング中将(ダーク・ボガード)に黙殺されます。
また、この作戦は、空と陸が呼応する兵力の迅速な合流と進撃、つまりスピートがこの急襲作戦には不可欠の条件ですが、アーンヘムへの利用が可能な道路は、地形上一つに限られていましたし、作戦の目標のアーンヘムへの空挺部隊の降下地点も、地形上の制約で橋から10数km離れた地点を予定しなければなりませんでした。
また、通信機の利用可能な精度も地形の制約で、困難な状況が予想されていました。
このような、作戦の立案の計画段階での十分な詰めの不足と、天候の不順という悪条件も重なり、作戦開始後、わずか9日間で悲惨な敗北を喫する事になりました。
記録によると、飛行機5,000、グライダー2,500、戦車その他の車両20,000、兵力120,000(うち降下部隊35,000)を投入したこの"マーケット・ガーデン作戦"は目標とする5つの橋の内、4つの橋を占領しましたが、最も重要なアーンエム橋を遂に奪う事が出来ず、結果として17,000人の死傷者を出して、この局地戦に敗北しました。
特に、アーンエムに降下したアーカート少将(ショーン・コネリー)率いるイギリス第1空挺師団とソサボフスキー少将(ジーン・ハックマン)率いるポーランド空挺旅団の総員15,000人の内、生存者はわずか2,427人にすぎなかったそうです。
そして、この悲惨な結果の報告を聞いたイギリス軍のモンゴメリー元帥は、「90パーセント成功した。ただ我々は"遠すぎた橋"へ行っただけだ」と語ったと言われているそうですが、「一握りの将軍たちが戦争ごっこをやろうと言いだして、その結果は、このように多くの兵隊が死んでしまうのだ」と吐き捨てるように言い放つポーランド空挺旅団のソサボフスキー少将の言葉の中に、この映画のリチャード・アッテンボロー監督、脚本のウイリアム・ゴールドマンが訴えたかった"反戦へのメッセージ"が強く浮かび上がってきます。
それにしても「大統領の陰謀」のロバート・レッドフォード、「フレンチ・コネクション」のジーン・ハックマン、「ゴッドファーザー」のジェームズ・カーン、「007シリーズ」のショーン・コネリー、「バリー・リンドン」のライアン・オニール、「ベニスに死す」のダーク・ボガード、「M★A★S★H」のエリオット・グールド、「探偵スルース」のマイケル・ケイン、「ジャッカルの日」のエドワード・フォックス、「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンス、「ハムレット」のローレンス・オリヴィエ、「ニュールンベルグ裁判」のマクシミリアン・シェル、「ワイルドギース」のハーディ・クリューガー、「叫びとささやき」のリヴ・ウルマンという14人の当時の大スター、演技派のひとりひとりに見せ場を設けないといけないという制約の中で、リチャード・アッテンボロー監督は、何とかうまくまとめていたと思います。
我々映画ファンからすると、奇跡的なこのような大スターの競演というのは映画のテーマとは別にワクワク、ドキドキするような映画的興奮を味わえ、映画が好きになって良かったという歓びと感動を実感できると思います。
この映画を観終わって、組織のトップの在り方などを考えさせられたりした点は良かったのですが、地理上の位置関係や動きがつかみづらかった点が、少し残念であったと思います。
最後にこの映画に出演し、陸からの"ガーデン作戦"を指揮したイギリス軍のホロックス中将を独特の粘着性のある演技で存在感を示したエドワード・フォックスが1977年第12回全米批評家協会の最優秀助演男優賞、及び同年の第31回英国アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞しています。
また、撮影監督のジェフリー・アンスワースが、第31回英国アカデミー賞の最優秀撮影賞、作曲のジョン・アディスンが同賞の最優秀作曲賞、その他、最優秀音響賞も受賞しています。
>地理上の位置関係や動きがつかみづらかった点が、少し残念であった
この映画の問題点は、そこに集約されますね。
出演者は豪華ですし、全体のお話もつまらないわけではないので、ここがもう少し改善されていたら、もっと評価されていたでしょう。