映画評「キャプテン・マーベル」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年アメリカ=オーストラリア合作映画 監督アンナ・ボーデン、ライアン・フレック
ネタバレあり

マーヴェル・コミックスのマーヴェルを名前にしているのだから、興味深い。しかも、アヴェンジャーズの由来を教えてくれる一編・・・なのではあるが、そうした作品の方向性を(僕と同様)知らずに観た方が楽しめる。

外見が地球人と全く同じクリー人の美人戦士ヴァース(ブリー・ラースン)は、敵対するスクラル人に調べられた時に記憶のない場面が頭を過ぎる。彼らはその潜在的な記憶をつてに、地球の女性博士ローソン(アネット・ベニング)が開発した技術の結晶であるコアを探し出そうと地球へ向かう。
 ヴァースは彼らの活動を阻止すべく先回りするが、地球のシールズなる組織の捜査官フューリー(サミュエル・L・ジャクスン)に追いかけられる。しかし、フューリーは彼女の能力と、見た通りに変幻しその新しい記憶を取り込める能力のあるスクラル人の実際を見て、彼女に協力せざるを得なくなる。
 ところが、ヴァースはローソン博士の記念撮影の写真に何故か自分が写っているのに気づき、その最後を見た黒人女性パイロット、マリア(ラシャーナ・リンチ)と面会し、そこへ現れたスクラル人のリーダーたるタロス(ベン・メンデルソーン)の話を聞くうち、自分がキャロル・ダンヴァースという名の地球人で、自分の上司ヨン・ロッグ(ジュード・ロー)が地球人らの敵に相当することを知らされる。
 ローソン博士が宇宙空間に残したコア即ちキューヴを発見したヴァースことキャロルは、かくして、かつての上司らと戦うことになる。

彼女の正体が判明し、敵味方の構図がはっきりするまでは面白い。ヴァースの能力が限定的であり、敵方が誰にでも化けられるので特に地球人には判別不能につきフューリーがすっかり騙されたりする辺り設定が大いに機能している。能力は余りありすぎてもつまらなくなる。スクラル人の記憶に関する能力が新しい情報に限られると知ったフューリーが上司の自分への呼びかけで正体に気付くのもきちんとお話を把握していれば楽しめる見せ方である。猫の扱いも実に面白く、フューリーが片目になった由来も明らかにされる。

が、敵味方の構図がはっきりし、キャロルが地球人としての自覚に目覚めたことで、後付けの能力ではなく、キューブ由来の能力を発揮する最終盤は、文字通り型通りになってぐっと退屈になる。大袈裟に言えばこの終盤で長蛇を逸する形になったが、それでもヒロインを演じるブリーも溌剌としているし、マーヴェル・コミックスの映画版の脚本はDCコミックスのそれに比べて常に高品位であると感心させられる。しかし、口を酸っぱくして言っているように、この手は余り作られない方が有難い。もう完全にデフレを起こしている。

創作ドラマに良いものが少ない。現在ドラマ系は実話ものばかりで、誠に寂しい。サスペンスも小手先のものばかりで、昔の中級サスペンスを観た方がずっと堪能できる。僕より上の世代で、新作映画に期待している人を殆ど見出せない。

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