映画評「特別な一日」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1977年イタリア映画 監督エットーレ・スコラ
ネタバレあり
エットーレ・スコラの監督としての知名度はこの作品あたりから高まったと記憶する。
1938年5月ヒトラーが伊独協定成立を記念してローマを訪問し、ローマはお祭り騒ぎになる。熱烈なファシスト党員である一家がこぞって式典に参加、6人の子供達の母親ソフィア・ローレンが家に取り残される。
彼女は、可愛がっている九官鳥が向かいの建物に逃げたので、住人マルチェッロ・マストロヤンニの部屋に入って見事奪還する。彼は同性愛のかどでラジオ局を追われ、相手が既に遠島に付されている為に自殺を図ろうとしていたところだった為、遠回しに彼女(の訪問)に感謝する。
彼女に何か惹かれるものを覚えた彼が数時間後「三銃士」を届けることを名目に彼女の家を訪れ、コーヒーを飲むなどするうちに、彼女は日頃の抑制的な生活にたまった鬱憤を晴らすように激しい愛情を彼に示す。
家族の帰宅後、官憲に付き添われてローマを去っていく彼の姿を迎いの建物に確認すると、ベッドに向かう。またいつもの生活に戻るのだ。
構成は演劇的で、僕が相当数読んできた一幕戯曲のような余韻が味わい深く実に素晴らしい。或いはチェーホフの好短編の、苦みと哀しみの交じったような、後味に近い。
と言って、お話だけの映画でもない。
開巻後ヒトラー訪問の白黒フッテージ映像の後鮮やかなナチスの旗のアップからカメラは移動し続け、ソフィアの家に入っていき、彼女が家族を叩き起こす場面まで続く長回しを筆頭に、随時パンや移動撮影を駆使して登場人物の情感を静かに醸成する技巧ぶりは極めて映画的である。向かい合う建物の構造を生かした見せ方が良い。
十数本の映画で共演した実績のあるソフィア・ローレンとマルチェッロ・マストロヤンニは阿吽の呼吸で演技を繰り広げて絶品。殆どノーメイクと思われるソフィアは濃いメークの彼女より寧ろ好印象、疲れてはいるがまだ女性としての気持ちを持っている中年女性を素敵に演じている。
少し飛びましたが、実は、個人的事情による″ブルーレイ消滅危惧作品”の第5弾。
1977年イタリア映画 監督エットーレ・スコラ
ネタバレあり
エットーレ・スコラの監督としての知名度はこの作品あたりから高まったと記憶する。
1938年5月ヒトラーが伊独協定成立を記念してローマを訪問し、ローマはお祭り騒ぎになる。熱烈なファシスト党員である一家がこぞって式典に参加、6人の子供達の母親ソフィア・ローレンが家に取り残される。
彼女は、可愛がっている九官鳥が向かいの建物に逃げたので、住人マルチェッロ・マストロヤンニの部屋に入って見事奪還する。彼は同性愛のかどでラジオ局を追われ、相手が既に遠島に付されている為に自殺を図ろうとしていたところだった為、遠回しに彼女(の訪問)に感謝する。
彼女に何か惹かれるものを覚えた彼が数時間後「三銃士」を届けることを名目に彼女の家を訪れ、コーヒーを飲むなどするうちに、彼女は日頃の抑制的な生活にたまった鬱憤を晴らすように激しい愛情を彼に示す。
家族の帰宅後、官憲に付き添われてローマを去っていく彼の姿を迎いの建物に確認すると、ベッドに向かう。またいつもの生活に戻るのだ。
構成は演劇的で、僕が相当数読んできた一幕戯曲のような余韻が味わい深く実に素晴らしい。或いはチェーホフの好短編の、苦みと哀しみの交じったような、後味に近い。
と言って、お話だけの映画でもない。
開巻後ヒトラー訪問の白黒フッテージ映像の後鮮やかなナチスの旗のアップからカメラは移動し続け、ソフィアの家に入っていき、彼女が家族を叩き起こす場面まで続く長回しを筆頭に、随時パンや移動撮影を駆使して登場人物の情感を静かに醸成する技巧ぶりは極めて映画的である。向かい合う建物の構造を生かした見せ方が良い。
十数本の映画で共演した実績のあるソフィア・ローレンとマルチェッロ・マストロヤンニは阿吽の呼吸で演技を繰り広げて絶品。殆どノーメイクと思われるソフィアは濃いメークの彼女より寧ろ好印象、疲れてはいるがまだ女性としての気持ちを持っている中年女性を素敵に演じている。
少し飛びましたが、実は、個人的事情による″ブルーレイ消滅危惧作品”の第5弾。
この記事へのコメント
「特別な一日」 これは私の「特別な映画」です。
何と言いますか、「愛して」おります。 (笑)
ダビングしたDVDを2枚所有しています。
「愛」は強くて理屈ぬきなので敢えて言わせてもらえば、「ひまわり」より断然こっちが好きです。
洗濯干し場のシーツが干してあるシーンも良いですね。
「灰とダイヤモンド」のラストのシーツとこの映画のシーツシーンは映画史上2大「干されたシーツ」の名場面じゃないですか?
シーツというのは中で男女がもつれ合っているより、外でバタバタと風にはためいているほうが何か深いものを感じるのですが・・・
エットーレ・スコーラ、最近亡くなったようですね。
「あんなに愛しあったのに」や「マカロニ」とか、どうしてDVDにならないんでしょう。
あ、そういえば淀川さんがこの映画を一言評して「女が男を抱く映画」だと。 いわれてみれば確かにそうです。
ソフィア・ローレンはお金持ちのマダムから逞しい庶民のマンマまで無理なく演じられる人でしたね。
>これは私の「特別な映画」です。
それはそれは。アップして良かったです。
僕が持っているブルーレイ・ディスクに、録画したものが見られなくなった、若しくはなりそうな10枚があり、その中の一枚なのです。いつ観られなくか解らないので、久しぶりに観てみたのでした。
>「愛」は強くて理屈ぬきなので敢えて言わせてもらえば、
なるほど。
僕の中では、傑作と言ってしまうより、愛すべき佳作としておきたい作品ですね。傑作はどこか僕に冷たい(笑)。
>2大「干されたシーツ」の名場面じゃないですか?
そうですねえ。素晴らしい見せ方でしたねえ。
シーツではないですが、洗濯物で思い出す映画がもう一本、黒澤明の「赤ひげ」、これなり。
>どうしてDVDにならないんでしょう。
大人の事情です(笑)。なっていない名作が多いですね。
>「女が男を抱く映画」
淀川さんらしい一流の表現だなあ。先生の話をまた聞きたいものです。ラジオを録音しておけばよかった。
>僕の中では、傑作と言ってしまうより、愛すべき佳作としておきたい作品ですね。
まさにその通りです!
華々しい傑作ではなく、泣かせてやろうとか感動させてやろうとか、姑息な考え抜きでひっそり佇む無印良画が良いです。
こういうのは大抵ヨーロッパ映画になってしまいますが。
>傑作はどこか僕に冷たい(笑)。
そんなことないと思います。どんなものでもちゃんと平等に接して評論しておられますよ。
私なんか傑作に見放されてますよ。 具体例を挙げるとあきれられてしまうので伏せておきますが・・・世に言う傑作に挑戦して何度も撃沈しております。
>或いはチェーホフの好短編の、苦みと哀しみの交じったような、後味に近い。
そう、チェーホフっぽいですね。少しモーパッサンも入ってません?
>こういうのは大抵ヨーロッパ映画になってしまいますが。
そうなんです。アメリカ映画は基本的にミーハー的でごく大衆的ですから、なかなかひっそりと自分の愛する作品にしたくなるような感じになりにくい。
>そう、チェーホフっぽいですね。少しモーパッサンも入ってません?
自嘲的なマストロヤンニはチェーホフ的で、諦観に甘んじるしかないソフィアはモーパッサン的かな・・・と思います。