映画評「誘惑のアフロディーテ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1995年アメリカ映画 監督ウッディー・アレン
ネタバレあり

ウッディー・アレンの旧作で、二十余年ぶりの再鑑賞。

彼の作品を真に楽しむは様々な古典を知っている必要がある。タイトルのアフロディーテはローマ神話のヴィーナスに相当するギリシャの美と愛の女神で、恋の仲人キューピッド(ギリシャ名エロス)の母親である。

事情があって子供を設けて来なかった中年スポーツ記者アレンは画廊経営を考えている妻ヘレナ・ボナム・カーターが勝手に養子縁組をしたことに当惑するが、いざ赤ん坊に触れれば目に入れても痛くない可愛がりぶり。しかもその子供がずば抜けて頭が良いので、その親が気になる。
 そこで彼が不正の手段を使って養子縁組の事務所から手に入れた書類から調べると、母親はポルノ女優もしている娼婦ミラ・ソーヴィノと判明し、何とか彼女を更生しようと奮闘、仲人のようなことをするが、結局うまく行かない。
 画廊関係者と懇ろになった妻に出て行かれたショックでミラと一夜の関係を持つが、結局はヘレナと復縁。ミラは飛行士と結ばれる。めでたしめでたし。

というお話で、古代ギリシャ演劇のコロス(コーラス)を狂言回しにしているところが愉快である一方、ハッピーエンドの中にギリシャ悲劇的な苦みを滲ませる幕切れが膝を打つ巧さである。この幕切れは、何年か前に見た或る作品にかなり似ているが、題名が思い出せない。普段は頻繁に引用をするアレンが引用されたケースかもしれない(し偶然かもしれない)。

作品のモチーフはソフォクレスの悲劇「オイディプス」で、皮肉な運命を筆頭に随所にその設定が応用されてい、特に幕切れにはその香りが漂うが、その映画版「アポロンの地獄」(1967年)に出て来る盲目の預言者テイレシアス(ジャック・ウォーデン)の扱いなども知っているとかなり笑える。
 ゼウスの留守電などというおふざけに加え、クラシックなコロスに現代音楽に乗せてモダン・ダンスを踊らせるのが洒落ている。

鼻にかかった声で話す娼婦役のミラ・ソルヴィノのちょっと間の抜けた感じが愛らしく、非常に魅力的。確かハーヴァード大卒業の才媛だ。「ライムライト」のクレア・ブルームがヘレナの母親役で出るも台詞なし。ちと勿体ない。

同じような鼻声と言えば我が邦の真矢みきがいるが、こちらは僕は苦手。声ではなく宝塚で男役だったせいか台詞回しが固く、好きになれないのだ。大分前に朝ドラに付き合った程度だが。

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