映画評「愛と哀しみの果て」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1985年アメリカ映画 監督シドニー・ポラック
ネタバレあり
評判が良かったものの映画館で観られなかったので、当時流行っていたレーザーディスクを買って観た。今回はハイビジョンでの鑑賞で、以前観た時より僕と周波数が合った感じがする。
外国の文芸ものは、英国流がやはり良い。本作はアメリカ製であるが、舞台がアフリカの英国領なので英国の香りが強いのだ。
第1次大戦直前、デンマークの令嬢カレン(メリル・ストリープ)が煮え切れない貴族の恋人を振ってその弟であるブロア(クラウス・マリア・ブランダウアー)と結婚して男爵夫人となり、母親から援助を得てアフリカの英国領で酪農を始めようとするが、夫君はコーヒー園に切り替えて反目。夫君が放蕩タイプで仕事も碌にしないうちにどこからか移された梅毒を移されたカレンは一時帰国を余儀なくされる。
治癒して帰って来た彼女は結果として子供を産めない体となり、夫君からすっかり心が離れ、コーヒー園以外にも現地の子供の教育を勤しむようになると共に、ハンター業の英国人デニス(ロバート・レッドフォード)に自分にない性格を見出して惹かれ合っていく。
離婚した彼女は結婚を望むが、彼にはその気がない。存在するだけでも良かっただろうに、彼は飛行機を墜落させ死んでしまう。
カレン・ブリクセンの自伝小説と彼女の伝記とを併せて物語にした内容の文芸作で、シドニー・ポラックがゆったりと進めているのが良い。
Allcinemaの“時として冗漫な語り口は万人向けとは言い難い”という解説における評はかなり的外れで、作者側がアフリカの時間のゆったりとした流れを表現する意味合いも兼ねてゆっくり進めたことに気付いていない。本作の価値を正しく理解するには、スピード感溢れる都市生活を描いたものでないことを頭に入れておく必要がある。解説においてある程度評価を加えても良いと思うが、自分の好悪をあたかも定評のように扱うのは感心しない。
文芸ものでは概してゆっくりした進行のほうが画面に感情や情緒をうまく沈潜させることができ、テーマをうまく表現できると思われる。ゆっくりなら何でも良いなんてことはないにしても、それは同時に、速ければ何でも良いわけではないということと同じ意味である。少なくともAllcinemaの解説者が考えるより多くの人々が本作を冗長と思わずに見ることができると思う。
アフリカの広大な風景や昔の映画の邪劇的な扱いとは違うタッチで見せられる原住民たちの様子に反射される、殆ど一人で奮闘するヒロインの心情を考えながら見れば、退屈するところなど殆どないであろう。
女性の権利が制限された時代に頑張る女性のお話だが、フェミニズム的な嫌味がなく、しっとり見られるのが良い。同時代のデーヴィッド・リーン監督作「インドへの道」(1984年)の凄味に及ばずも、秀作と言うべし。
原題は"Out of Africa”。アフリカを去り故国に戻ったブリクセンを意味しようか。
1985年アメリカ映画 監督シドニー・ポラック
ネタバレあり
評判が良かったものの映画館で観られなかったので、当時流行っていたレーザーディスクを買って観た。今回はハイビジョンでの鑑賞で、以前観た時より僕と周波数が合った感じがする。
外国の文芸ものは、英国流がやはり良い。本作はアメリカ製であるが、舞台がアフリカの英国領なので英国の香りが強いのだ。
第1次大戦直前、デンマークの令嬢カレン(メリル・ストリープ)が煮え切れない貴族の恋人を振ってその弟であるブロア(クラウス・マリア・ブランダウアー)と結婚して男爵夫人となり、母親から援助を得てアフリカの英国領で酪農を始めようとするが、夫君はコーヒー園に切り替えて反目。夫君が放蕩タイプで仕事も碌にしないうちにどこからか移された梅毒を移されたカレンは一時帰国を余儀なくされる。
治癒して帰って来た彼女は結果として子供を産めない体となり、夫君からすっかり心が離れ、コーヒー園以外にも現地の子供の教育を勤しむようになると共に、ハンター業の英国人デニス(ロバート・レッドフォード)に自分にない性格を見出して惹かれ合っていく。
離婚した彼女は結婚を望むが、彼にはその気がない。存在するだけでも良かっただろうに、彼は飛行機を墜落させ死んでしまう。
カレン・ブリクセンの自伝小説と彼女の伝記とを併せて物語にした内容の文芸作で、シドニー・ポラックがゆったりと進めているのが良い。
Allcinemaの“時として冗漫な語り口は万人向けとは言い難い”という解説における評はかなり的外れで、作者側がアフリカの時間のゆったりとした流れを表現する意味合いも兼ねてゆっくり進めたことに気付いていない。本作の価値を正しく理解するには、スピード感溢れる都市生活を描いたものでないことを頭に入れておく必要がある。解説においてある程度評価を加えても良いと思うが、自分の好悪をあたかも定評のように扱うのは感心しない。
文芸ものでは概してゆっくりした進行のほうが画面に感情や情緒をうまく沈潜させることができ、テーマをうまく表現できると思われる。ゆっくりなら何でも良いなんてことはないにしても、それは同時に、速ければ何でも良いわけではないということと同じ意味である。少なくともAllcinemaの解説者が考えるより多くの人々が本作を冗長と思わずに見ることができると思う。
アフリカの広大な風景や昔の映画の邪劇的な扱いとは違うタッチで見せられる原住民たちの様子に反射される、殆ど一人で奮闘するヒロインの心情を考えながら見れば、退屈するところなど殆どないであろう。
女性の権利が制限された時代に頑張る女性のお話だが、フェミニズム的な嫌味がなく、しっとり見られるのが良い。同時代のデーヴィッド・リーン監督作「インドへの道」(1984年)の凄味に及ばずも、秀作と言うべし。
原題は"Out of Africa”。アフリカを去り故国に戻ったブリクセンを意味しようか。
この記事へのコメント
評点は同じだし、allcinemaの解説に言及してるところも同じですけど、僕は「冗長」説に理解を示しているというのがスリリングです(笑)
但し、語り口が問題ではなくエピソードの構成が問題であると書いてますね。
退屈せずに3回くらい観たので今でも思い出せますが、もっとカレンの人生を軸としたエピソード構成にして欲しかったという印象です。詳しくはMY記事にて。
>「インドへの道」
これも随分観てないので再見したいですね。
>語り口が問題ではなくエピソードの構成が問題であると書いてますね。
ずっと説得力があります。この言い方なら僕も納得できますね。
「インドへの道」に比べると、場面ごとの色彩の変化が少ないように思います。それを同じような色と思えば冗長に、似ていても違う色だと思えばそうでもないという感じ。そんなところではないでしょうか。
>カレンの人生を軸としたエピソード構成にして欲しかった
なるほど。
彼女の自伝だけでやれば、十瑠さんの理想に近付いたでしょう。
この映画は私の苦手な男優、女優がペアを組んで、アフリカの夕日をバックに向かいあっておられたりするので、写真を見ただけで萎えてしまいました。でも頑張って観ましたが、うぅ・・・あんまり覚えてません。
原作は若いころに読みましたが、理解力不足なのと長いのとで疲れた記憶しかなくて・・・ 再読したいのですが、目下行方不明です。
短編体質なのでやはり「バベットの晩餐会」が良いです。
>この映画は私の苦手な男優、女優がペアを組んで
モカさん、メリル・ストリープが苦手なようですね。僕も余り好きではないですが、上手いのは認めます。「ディア・ハンター」や「ジュリア」の頃のほうが清楚で良かったですね。
>短編体質なのでやはり「バベットの晩餐会」が良いです。
同じ原作者でしたか。知らなかったなあ。
僕は、異様に我慢強い(笑)ので、どんなに長くてもどんなに退屈でも大丈夫です^^。とは言え、長いのは後回しになり、マイ・リストのうち残っているものは長いものが多い、というのも事実。
>どんなに長くてもどんなに退屈でも大丈夫です^^。
・・・・・・・・・すごいです。
「バベットの晩餐会」への言及がないのでまさかとは思いましたが・・・ たまにはそんな事もあるんですね。
原作は殆ど覚えていませんが、映画みたいにロマンスが前面にでてはいなかったと思います。
昔、リチャード・ウィンダム著「ナイルの奥地 スーダン紀行」というのが面白かったので(普通の紀行本なんですが人類学系の人にも評判が良かったらしい)なんとなくアフリカものは面白いかも、と手を出してしまいました。
カレン・ブリクセンは男名のイサク・ディーネセンと二つの名前を使い分けていたようですね。 その理由をどこかで読んだような気がするんですが、確かめたくても「バベットの晩餐会」まで姿をくらましております。
メリル・ストリープ
確かに若い時のほうがいいですね。
私はヘレン・ミレンが好きなんですが、彼女の当たり役の「第一容疑者」をアメリカで映画化する話があってM・ストリープがやりたがったらしいのですが、企画が消滅したらしくヘレン・ミレンファンとしては安堵しました。
>「バベットの晩餐会」への言及がないのでまさかとは思いましたが
>カレン・ブリクセンは男名のイサク・ディーネセンと
>二つの名前を使い分けていたようですね。
ブリクセンは、「アフリカの日々」が(僕の守備範囲である)戦前の発表ですから、本来よく知っていても良い作家ですが、多分僕の持っている百科事典が扱っていなかったのではないでしょうか。
十数年前に買った集英社「世界文学事典」には勿論載っています。鋭意勉強していく所存です。しかし、こんな充実した文学事典をもっと昔から持っていたら大変なことになっていただろうと思います(笑)。
「アフリカの日々」という邦題を考えると、僕のOut of Africaの解釈が正解だったのかな。良かったわあ(笑)。
>私はヘレン・ミレンが好きなんです
日本での初紹介が「カリギュラ」という不出来な作品ですが、確かな演技力の女優ですよねえ。昨年感激した「ロング、ロングバケーション」も彼女主演でなければあそこまで惚れ込んだかどうか。
「バベットの晩餐会」の文庫が見つかりました。
後書きによると、彼女はほとんどの作品を英語とデンマーク語で書き、英語版はイサク・ディーネセン名義でデンマーク語版はカレン・ブリクセン名義だそうです。
そして、まず英語で書いてからデンマーク語に書き改め、両方をほぼ同時に出版していて、ややこしい事に作品によっては英語版とデンマーク語版で内容がかなり違っていたりするとの事です。
「ロング ロング バケーション」
ヘレン・ミレンとD・サザーランドの演じる老夫婦は本当に何十年も連れ添ったようなリアリティーがありましたね。
特にサザーランドのボケ具合が演技とは思えませんでした。
「ネブラスカ」のブルース・ダーンもそうでしたが、演技とは思えず、本当に倒れて死んでしまうんじゃないかとハラハラさせられました。
あっけなく死んでしまう人もいますが、死ぬのも楽ではありませんね。最後の大仕事・・・
映画のように死に方を選ぶという選択肢があってもいいと思います。
>英語版はイサク・ディーネセン名義でデンマーク語版は
>カレン・ブリクセン名義だそうです。
そういう面白いことをなされる作家もいらっしゃるんですねえ。母国語でない原語で小説を書けるのは凄いなあ。
>特にサザーランドのボケ具合が演技とは思えませんでした。
元々とぼけた役が得意な役者ですけど、近年は怖い人の役が多かっただけに、本領発揮という気がしました。
>「ネブラスカ」のブルース・ダーンもそうでしたが
元来ダーンは好きな男優で、この映画は演技も作品も素晴らしかった。
カレン(メリル・ストリープ)困っている時に助けてくれるデニス(ロバート・レッドフォード)。やはり女性はああいう男性に惹かれるのでしょう。そしてカレンが結婚して欲しいと言うけれど断るデニス。一匹狼の彼らしくて良かったです。
>何か月か前にNHKでやっていたんですよ。
しまった・・・。録画するべきでした。
>素直な作品を、中途半端に気取って上手く行かなった作品より、評価する
その表現。いいですね~!
>日本もデタラメな国にならないように気を付けてもらいたいですね。
今朝北朝鮮がまたやりました!
>やはり女性はああいう男性に惹かれるのでしょう。
>一匹狼の彼らしくて良かったです。
実は実話でして、この辺は少し映画的に強調している感はあります。
しかし、レッドフォードはこういう格好良い役が似合う。
>その表現。いいですね~!
文字通り素直な気持ちです^^
>今朝北朝鮮がまたやりました!
大半が海に落ちるわけですから、漁師たちはたまったものではないですね。
その一方、これを理由に防衛費云々はナンセンス。北朝鮮に日本を狙う理由がありません。まあ、アメリカが北朝鮮を狙うと解ったら、連中はどこか日本の基地を狙うかもしれませんが、そうなる可能性は極めて低い。
自民党は中国より北朝鮮・・・と言っている議員が多いようですが、やはり台湾を考えると、日本にとって中国のほうが圧倒的に脅威でしょう。日本を攻撃する直接的な理由がないのは中国も同じ。その存在のおかげで直接的な攻撃を抑止することが出来る一方、基地の存在が日本を危うくするという側面もある。国際関係は絶対的に良いという方策はないですね。
>大半が海に落ちるわけですから、漁師たちはたまったものではないですね。
漁獲量や収入も減っている事でしょう。
>日本を攻撃する直接的な理由がないのは中国も同じ。
中国は日本を全く怖がっていない。そして日本は利用価値がある国と言う事でしょうか?
>基地の存在が日本を危うくする
米軍基地を中国が狙う時が来ますか?
「俺はただ眠ってるだけだ。邪魔しないでくれ。」この曲を思い出します。
https://www.youtube.com/watch?v=5XwXliCK19Y
>同じくポラック監督、レッドフォード主演「追憶」とこの「愛と哀しみの果て」。どちらも男女の出会いと別れ方の描き方が上手いと。同感です。
そうですね。
「雨のニューオリンズ」という作品でもレッドフォードがナタリー・ウッドに恋愛感情を抱くお話で、やはり別れがありました。恋愛映画というより人生劇でしたが。上の二つもそうか^^;
>中国は日本を全く怖がっていない。そして日本は利用価値がある国と言う事でしょうか?
>米軍基地を中国が狙う時が来ますか?
自民党には親中派が結構多いのですよ。だから、人権問題への非難が割合少ない。これに関しては、今では共産党のほうが余程中国を非難してします。
やはり経済での恩恵が双方にとって非常に大きい。
しかし、台湾有事となった時に戦争状態になれば、沖縄の基地は最初に攻撃されるでしょうね。
他方、9月の「朝まで生テレビ」の出演者の多くが、サイバー攻撃や経済的に台湾が困る方策を取るのではないかという意見を放っていました。そして、それにより台湾が音(ね)を上げたところに侵攻して、一日でその権力を簒奪する。
こうなると、ウクライナ侵攻同様、大いなる非難はするでしょうが、アメリカは純軍事的に出る幕はなくなるわけで、戦闘なるものは発生しない。
日本にとってはこの通りになった方がベター。一番良いのは、台湾を現状のままにしておくことですが。
>「俺はただ眠ってるだけだ。邪魔しないでくれ。」この曲を思い出します。
新ミックス版の、公式MV。
しかし、ビートルズ人気は凄まじい。絵の効果もあってか、一日で30万、三日で87万のアクセス。僕も既に3回くらい観ました。