映画評「ガンヒルの決斗」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1959年アメリカ映画 監督ジョン・スタージェス
ネタバレあり
実に久しぶりでございますなあ。ジョン・スタージェスの西部劇の中では「荒野の七人」(1960年)と「OK牧場の決闘」(1956年)はよく放映されるが、「ゴーストタウンの決闘」(1958年)とこの「ガンヒルの決斗」はなかなかやってくれない。
本作は、スタージェスの中では平均的な出来栄えだが、現在の映画には求められない映画らしさがある。
不良白人二人組が、チェロキー族の女性と白人の子供が馬車で森を通りかかるのを見て良からぬ考えを起こし女性を殺してしまう。少年は犯人の馬に乗って父親の保安官カーク・ダグラスに連絡する。女性は彼の妻で、少年の乗った馬の鞍の頭文字から、今は大物牧場主になったアンソニー・クインとものと気づく。
保安官は実力者となった旧友の犯行とは思わないが、列車に乗って彼のいるガン・ヒルに向かい、様子を聞く。恩のある友人と周囲の様子から、犯人は顔に傷を負ったその息子アール・ホリマンとその悪友ブライアン・ハットンと知り、彼を急襲して逮捕、四面楚歌の状態の中夜の9時に出発するガン・ヒル発の列車が到着するまでホテルに退避する。
決闘と言うと、大概は紆余曲折の末最後に行われるが、本作では彼がホリマンの逮捕・連行を強行しようとしたところからずっと決闘状態のようなものである。「OK牧場の決闘」で女性が絡む場面で緩みが見られたように、クインの情婦キャスリン・ジョーンズの絡む場面はちょっと調子が良いと言うか緩むが、ダグラスが退避する部屋で息子を救出しようとやって来る連中を、大鏡を使って見るというアイデアは秀逸である。それに引き換え敵側の知恵が足りないので、籠城によるサスペンスが高まり切らないものの、こういうシンプルな見せ方は嫌いではない。
ハットンがホテルに放火して焙り出しにしダグラスが出て来るのを撃とうとするが、保安官がショットガンをホリマンの顎につけている為にことを起こせず、駅まで逃げられるという辺りの見せ方は上手い。
列車の時刻と四面楚歌が絡むあたりは「真昼の決闘」(1952年)に似るし、犯人を容易に護送できないのは同年発表の「リオ・ブラボー」と関連付けたくなる。マカロニ・ウェスタン「続・さすらいの一匹狼」(1965年)は女性を強姦したバカ息子を実力者の牧場主が守ろうと配下の者たちを総動員をして別の男を追いかける辺り本作から戴いた感じがする。
要は、本作は過去の定石を大いに用い、さらに未来の作品にも使われる定石が多い作品なので、人によっては陳腐さを感じる可能性があるということである。
今回の放映版は完全リマスターらしく映像が非常に鮮明で、その為に固定したカメラによるしっかりした構図が引き立つ。当時の映画としては格別に優れたものではないにしても、ショットが細切れで画面が揺れ揺れの昨今の作品に比べれば構図を見るだけで楽しめる。
そうそう、不良白人役ブライアン・ハットンは戦争映画「荒鷲の要塞」を作ったブライアン・G・ハットンと別人ではなく、ご本人。二十代で早々に俳優業に見切りをつけ監督に転身した。
1959年アメリカ映画 監督ジョン・スタージェス
ネタバレあり
実に久しぶりでございますなあ。ジョン・スタージェスの西部劇の中では「荒野の七人」(1960年)と「OK牧場の決闘」(1956年)はよく放映されるが、「ゴーストタウンの決闘」(1958年)とこの「ガンヒルの決斗」はなかなかやってくれない。
本作は、スタージェスの中では平均的な出来栄えだが、現在の映画には求められない映画らしさがある。
不良白人二人組が、チェロキー族の女性と白人の子供が馬車で森を通りかかるのを見て良からぬ考えを起こし女性を殺してしまう。少年は犯人の馬に乗って父親の保安官カーク・ダグラスに連絡する。女性は彼の妻で、少年の乗った馬の鞍の頭文字から、今は大物牧場主になったアンソニー・クインとものと気づく。
保安官は実力者となった旧友の犯行とは思わないが、列車に乗って彼のいるガン・ヒルに向かい、様子を聞く。恩のある友人と周囲の様子から、犯人は顔に傷を負ったその息子アール・ホリマンとその悪友ブライアン・ハットンと知り、彼を急襲して逮捕、四面楚歌の状態の中夜の9時に出発するガン・ヒル発の列車が到着するまでホテルに退避する。
決闘と言うと、大概は紆余曲折の末最後に行われるが、本作では彼がホリマンの逮捕・連行を強行しようとしたところからずっと決闘状態のようなものである。「OK牧場の決闘」で女性が絡む場面で緩みが見られたように、クインの情婦キャスリン・ジョーンズの絡む場面はちょっと調子が良いと言うか緩むが、ダグラスが退避する部屋で息子を救出しようとやって来る連中を、大鏡を使って見るというアイデアは秀逸である。それに引き換え敵側の知恵が足りないので、籠城によるサスペンスが高まり切らないものの、こういうシンプルな見せ方は嫌いではない。
ハットンがホテルに放火して焙り出しにしダグラスが出て来るのを撃とうとするが、保安官がショットガンをホリマンの顎につけている為にことを起こせず、駅まで逃げられるという辺りの見せ方は上手い。
列車の時刻と四面楚歌が絡むあたりは「真昼の決闘」(1952年)に似るし、犯人を容易に護送できないのは同年発表の「リオ・ブラボー」と関連付けたくなる。マカロニ・ウェスタン「続・さすらいの一匹狼」(1965年)は女性を強姦したバカ息子を実力者の牧場主が守ろうと配下の者たちを総動員をして別の男を追いかける辺り本作から戴いた感じがする。
要は、本作は過去の定石を大いに用い、さらに未来の作品にも使われる定石が多い作品なので、人によっては陳腐さを感じる可能性があるということである。
今回の放映版は完全リマスターらしく映像が非常に鮮明で、その為に固定したカメラによるしっかりした構図が引き立つ。当時の映画としては格別に優れたものではないにしても、ショットが細切れで画面が揺れ揺れの昨今の作品に比べれば構図を見るだけで楽しめる。
そうそう、不良白人役ブライアン・ハットンは戦争映画「荒鷲の要塞」を作ったブライアン・G・ハットンと別人ではなく、ご本人。二十代で早々に俳優業に見切りをつけ監督に転身した。
この記事へのコメント
アール・ホリマンはどこかで見た人だと思ったら「エルダー兄弟」で三男坊役を演じていました。
ダグラスがホリマンの顎にショットガンを押し付けて駅まで行くのは新手の趣向で凄みがあると双葉師匠が評価していますね。
>“法律違反ではないか?”とすごんだら“証拠はあるか”
こちらが言った事に対する返答のマニュアルがあるようです。
>銭形平次捕物控
「岡っ引きが、あんな白い立派な足袋を履かせて貰ったなんてあり得ないぞ。」と僕の親父がテレビ版を見ていつもケチをつけていました(苦笑)。
それと万七親分の方が岡っ引きらしい感じがします。
>見切りの早さと言うのも頭の良さのうちです。
そういうことですね。いつまでもぐずぐずして失敗ということはままあります。
>ダグラスがホリマンの顎にショットガンを押し付けて駅まで行くのは新手
拳銃ならありますが、その後もショットガンは余りありません。あの大きさが凄味を生みますね。
>こちらが言った事に対する返答のマニュアルがあるようです。
敵もさるものですね。
>僕の親父がテレビ版を見ていつもケチをつけていました(苦笑)。
リアリズム至上主義者はどこにもいるものです^^
「アンソニー・クインとの一対一の果たし合いは景品みたいなもので、呼び物にはなっていない」と双葉師匠が鋭いコメント。大スターのクインにもっと良い見せ場を与えるべきだという事でしょうか?
>ハットンがホテルに放火
ガラスを割って、灯油(?)を撒いた後に紙に火をつける。手に火がつきそうな瞬間ギリギリまで。それも2回。彼の反射神経の良さも感じました。
>敵もさるものですね。
僕がまだ若かった頃、職場にかかってきた勧誘の電話に対して「あまりしつこいようならば警察に通報しますよ!」「どうぞ、通報して下さい。」その後、警察にその事を話したら「その程度では訴える事は出来ません。」だいたい警察署にも、その手の電話がかかってくる訳ですから。
>リアリズム至上主義者はどこにもいるものです^^
そのリアリズムから勉強になる事がありました。大河ドラマ(戦国時代)を見て、「あんな兜は立派過ぎる!」とか。
>大スターのクインにもっと良い見せ場を与えるべきだという事でしょうか?
ありていに言えば、そういうことでしょう。
大スターを起用しながら、それがないのは、観客の期待に背くいうことですよね。
>だいたい警察署にも、その手の電話がかかってくる訳ですから。
臆病な僕は、そういう仕事をしていても警察には電話はできませんねえ^^
その逆のパターンもあり、愚かなる我が甥が高校生くらいの時にダイヤルQ2(と言いましたかね)を使い、不当な金額を請求されたのを父親である兄が断ったことがあります。すると、相手はヤクザまがいの連中ですから、何度も電話をかけてきて最終的に「職場へ行くぞ」と脅しをかけてきたそうですが、兄貴は「どうぞ」と言ったそうです。それ以降電話が来なくなったらしい。
>「あんな兜は立派過ぎる!」とか。
僕もそう思うことがあります。それだけならまあ楽しいのですが・・・
NHKを中国寄りと思っている保守連中が大河ドラマ「平清盛」の皇室の様子が余り立派ではないことに怒ったり、天皇と言わずに王と言ったことに対し、反日的と言ってちょっとした騒ぎになったことがあるのですが、時代考証に則ってやったことなので、リアリズム重視の見地から言えば、おかしなことをやったわけではないのですがね。天皇を王と言った例は、僕が当たった中だけでも、新井白石や福沢諭吉の書籍や近松門左衛門の浄瑠璃に見出せます。多くはないにしても、特段珍しいことでもなない。
そもそも、日本人に向かって反日という言葉を使うこと自体に、それを起こしているのが実は中国系や半島系の人々であるという一部保守の意識が現れています。全く馬鹿らしい。
>大スターを起用しながら、それがないのは、観客の期待に背く
クインも不満に思ったのでは?
>兄貴は「どうぞ」と言ったそうです
強いお兄さんです!
>反日的
そういう表現をする人が増えています。
>一部保守の意識
表現・発言・報道。難しい時代になりました。
>大鏡を使って見るというアイデアは秀逸である。
さすがスタージェス監督です。この映画、アンソニー・クインの部下ベロをブラッド・デクスターが演じています。デクスターはこの翌年スタージェス監督の「荒野の七人」でハリー役です。僕はハリーのキャラが好きです。
>「予期せぬ出来事」
録画してあります。大昔に観たきりなので、観てみようかな。
>表現・発言・報道。難しい時代になりました。
SNS等がある為に、昔なら内に秘めていた思いが言葉として現れ、それ故に感情のバッティングが発生しやすい。その一方で人権意識が高まっているので、仰るように難しい時代です。僕らが子供だったりした頃は言う方も聞く方ももっと大らかでした(社会的な平均で)。
>アンソニー・クインの部下ベロをブラッド・デクスターが演じています。
確かに出ていましたね。残念ながら「荒野の七人」のメンバーでは一番出世しなかった人ですね。
>残念ながら「荒野の七人」のメンバーでは一番出世しなかった人ですね。
大学時代はフットボールの名プレイヤー。体格もいい。役者としては大成しなかったけど、その後プロデューサー業に精を出して豪邸(プール付き)に住んだり、美人女優と浮名を流したり。
「荒野の七人」の撮影の合間にメンバーでポーカー。我儘なユル・ブリンナーがあれこれ言うと、親分肌のデクスターが宥める。そして85歳まで生きた。何とも羨ましい人生じゃないですか!特に僕のように小心者で低賃金サラリーマンから見れば・・・(苦笑)。
>言う方も聞く方ももっと大らかでした
ある程度は聞き流す(今風に言うならばスルー)も大事なのでしょう。
>大昔に観たきりなので、観てみようかな。
ロッド・テイラーは1963年に「鳥」と「予期せぬ出来事」に出演しました。どちらの演技もいいですねー!
>プロデューサー業に精を出して
「裸足のランナー」と「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」を製作していたとは意外でしたなあ。後者は中学生の時に映画館まで観に行きました。ビリー・ホリデイより彼女に扮するダイアナ・ロスを観に行ったのですが。
>ロッド・テイラーは1963年に「鳥」と「予期せぬ出来事」に出演
「鳥」は何度も観たお気に入り。「予期せぬ出来事」は先ほど再鑑賞しました。平凡な出来ですが、それなりに楽しみました。
確かにまださほど有名ではなかったマギー・スミスが良く、ロッド・テイラーとのペアが、エリザベス・テイラーとリチャード・バートン/ルイ・ジュールダンのトリオより充実していましたね。マギーは、この作品が日本初登場だったはず。
そしてビリー・ホリデイの波乱万丈の人生を映画を見ながら知りたいです。
マギー・スミスとロッド・テイラーのペアは本当に困っている時に助けてくれた人と愛し合うようになる。「まさかの恋人が真の恋人(そして妻になるかも?)」と思わせる映画でした。
>「裸足のランナー」で検索しましたが、
どうもすみません。“足”が余分でした。
つまり「裸のランナー」が正しい邦題で、フランク・シナトラが主演でした。
>マギー・スミスとロッド・テイラー
マギーは彼を個人的に恋慕しているのに、彼は単に有能な秘書として評価している、というのが前半でした。それを事前に感じ取れないと、終盤で盛り上がりを感じにくい、と思います。