映画評「見えない目撃者」(2019年版)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・森淳一
ネタバレあり

昨日の中国リメイク版(テイストは殆ど韓国版)は、本作と比較する為に観たわけだが、日本人だから言うのではなく、中国版の欠点が改善されていてなかなか上出来である。

不良の仲間入りをしそうな弟を警官になったばかりの姉・吉岡里帆が車で連行して事故を起こす。弟は死に、本人は失明する。
 ここまで中国版と全く同じ展開だが、彼女は弟を手錠で繋ぐなんてこともしないし、弟も平均的な少年であって、非常に現実味が強い。ここを見るだけでも韓国人の極端に走る方向性(前述作は中国が舞台だが監督は韓国人)が解る。
 この傾向は最後までずっと続き、彼女と共に警察に協力することになるスケボー少年・高杉真宙が犯人に襲われる場面もぐっとシンプル。前半のハイライトとしていた感のある中国版と比較すると淡白に思えるくらいだが、そこに本作がサスペンスよりミステリーとして作っていると思われる所以がある。

最後まで吉岡嬢は本格ミステリーにおける探偵に相当する立場を維持しているという印象が強く、ミステリー不足に寂しい思いをしている僕には結構嬉しい内容だ。探偵役であるから必然的に犯人に接近し、その為に彼女をめぐってサスペンスも生まれるが、そこも実に抑制されていて映画として洗練されている。

韓国・中国版と違い刑事二人の扱いはほぼシリアスに推移、ここでは打ち明けられない犯人も全然違う。中国版のように犯人の心理的背景を描くことなく、単なるサイコパスとして割り切り、頗る見通しが良い。やたらに背景を求めたがる鑑賞者がいらっしゃるが、映画によっては面倒くさい背景などないほうがサスペンスとしての純度が上がるわけで、本作は成功した部類に入れたい。

地道な刑事田口トモロヲや大倉孝二と吉岡嬢たちの関係もよく整理されていて、中国版で一番気に入らない点であった関係者の出入りに関し不必要にイライラさせられるところが殆どない。韓国映画的中国版を観た後では、見せ場の馬力が足りないと思う人もいるかもしれないが、本作はかの映画に見られた過剰な装飾を取り払ったのだ。

ついでに、韓国オリジナルを見ても良いな。

この記事へのコメント

2024年10月12日 08:14
これはとてもよかったです。
韓国版、中国版は観ていないのですが、おおもとの韓国版は残酷描写がきついというので、あんまり見たいとは思わないです。
日本版リメイクの今作は、全体に落ち着いた色調で、残酷描写も抑制されていたので見やすかったというのがありますね。
オカピー
2024年10月12日 10:29
nesskoさん、こんにちは。

>韓国版、中国版は観ていない

中国版(韓国版と同じ監督のセルフ・リメイクなので、こちらを見れば良いと思います)と比べると、日本製の抑制され洗練されていることがよく分りますよ。

日本のファンは韓国映画の馬力を褒める人が多いですが、あれはブレや夾雑物を馬力と勘違いしているケースが多いのです。
 日本映画に欠けているのはアイデアでしょうね。これが韓国製にどうも敵わない。それでもサスペンス映画で大分挽回している気がしますね。

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