映画評「ロケットマン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年イギリス=アメリカ=カナダ合作映画 監督デクスター・フレッチャー
ネタバレあり

エルトン・ジョンの伝記映画であると共に、「アクロス・ザ・ユニバース」「マンマ・ミーア!」という、一アーティストによる楽曲により構成されるミュージカルに準じる作品である。

エルトン・ジョン本名レジナルド・ドワイト(青年期以降タロン・エガートン)は、両親の愛情に恵まれずに育つが、母親(ブライス・ダラス・ハワード)に音楽の才能を認められて王立音楽院に入学する。一応は卒業したようだが、クラシックには行かずにロックンロールの方面で食べるようになる。
 やがてレコード会社に応募し、落選するが担当者のレイ・ウィリアムズに作詞家バーニー・ドーピン(ジェイミー・ベル)の歌詞群を渡される。
 これが大概のロック・ファンが知っている筈の生涯の相棒同士エルトン・ジョンとドーピンとの運命的な出会いということになるわけで、為に、映画は暫く画面を停めるか、そう見えるくらい長く歌詞群の受け渡しを見せるのである

暫く二人はレコード会社のソングライター・コンビとして働いた後、「僕の歌は君の歌(ユア・ソング)」がトップに気に入られてエルトンは自分のレコードを発表(するように見えるが、実際にはこの曲を収めたLP「エルトン・ジョン」=「僕の歌は君の歌」の前に「エンプティ・スカイ」という評判の悪いLPがある)し、アメリカでのライブに挑戦、大成功を収める。

彼の個人史に関しては史実にそこそこ忠実に作られているが、音楽史的にはデタラメの限りで、1970年のライブに73年発表の「クロコダイル・ロック」を歌う。しかし、その他の曲が登場人物(殆どエルトン・ジョンだが)の心境を語る為に時代に関係なく歌われるのは、ミュージカルとしての展開上、全く問題ない。そこはライブの件ときちんと区別する必要がある

ライブ後に知り合ったジョン・リード(リチャード・マッデン)をマネージャーに迎え、かくしてスーパースターの誕生と相成る(リードが初めて渡英した時にエルトンがキキ・ディーと「恋のデュエット」を録音中=1976年=というのも、これまた時代的に全く合わない。英語版Wikipediaによれば、そもそもリードは英国人で、1968年もしくは69年にモータウン・レコードの英国マネージャーとして、そのクリスマス・パーティーで初めて会ったのが事実)のだが、両親の愛情に恵まれず同性愛者ゆえに飲酒・麻薬・過食に逃避することになり、ドーピンが一時的に去り、同性愛の相手でもあったリードの横暴さに嫌気が差した頃から音楽的にも行き詰ってしまう。

このお話自体が1990年にどん底で遂に入所した更生施設で回想する形式で展開しているので、その後のことは最後に字幕で軽く紹介されるだけ。この作品の後半は、同じようにリードがマネージャーとして出て来る「ボヘミアン・ラプソディ」の後半と似た印象もあるが、最初から施設で語るところから始まる為に全編を陰鬱なムードが覆ってしまった印象は否めず、エルトン・ジョンの音楽だけが好きな音楽ファンには少々幻滅の一編になる可能性がある。まあ僕もその一人に数えられるだろうか。

エルトン・ジョンに扮したエガートンは見た目以上に歌い方を似せていて、感心した(ご本人よりややマイルドだが)。

エルトン・ジョンという芸名を、ジョン・レノンから思いついたように見せているが、実際には別人から。

この記事へのコメント

2020年06月07日 17:13
未見ですが、この映画では、劇中で歌も役者が歌ったと伝えられていましたが、本当なのでしょうか?
「ボヘミアン・ラプソディ」は、全部クイーンの音源そのままだったので、クイーンファンは映画観て泣いたりしなかった人も、映画館の音響でクイーンが聴けるからって何度も観に行ったりしたんですよね。
浅野佑都
2020年06月07日 19:48
同時代のスターといって良く、ほとんど時間差なしで聴いているエルトン・ジョンではありますが、どうしても、ジョンとの絡みで彼を観ている自分がいるなぁと・・。

 例えば、ジョン・レノンのソロ転向後初の全米No.1(意外にビートルズメンバーの中では一番遅い)になった
「真夜中を突っ走れ」は、事実上、エルトンとの完全なデュエット。
この曲での彼の演奏するピアノとオルガンの貢献度はかなり高く、本来なら「John Lennon And Elton John」とクレジットで出すべきなんですね。

で、「これが1位になったら君のステージにゲスト出演するよ」という約束を守らなければいけなくなったジョンは、エルトンのコンサートに姿を現し、
「イマジンを歌ったら?」というエルトンの提案に対して、「そんな(過去のヒットを歌う)ディーン・マーティンみたいな事はしたくない。僕は楽しいロックンロールがやりたい」と、「真夜中を突っ走れ」と「Lucy In The Sky With The Diamonds」(直後に、エルトンのカバーバージョンによって全米No.1になっています)を披露。

これらのエピソードや、両者ともに少年時代に親に愛されなかった環境などが僕をして、ジョンとエルトンを疑似兄弟みたいに観ているのかなとも思います・・。
クラプトンもそうですが、孤独こそ、創作意欲に火をつけるライターですから‥。

映画に関しては、ラスト20分間のライブに限って100点を付け、「終わりよければ全てよし」だった「ボヘミアン・ラプソディ」と比べると、テンションはかなり落ちているかなぁと・・。
nesscoさんの言われる通り、ボーカルのトラックはフレディ・マーキュリー本人の音源だった「ボヘミアン」の方は、歌はともかく、顔自体は本人にさほど似てないのに迫力はあったのは、やはり、主役の力量に差があったと思いますね。

せっかく、エルトンが音楽担当した「リトル・ダンサー」の子役を起用しながら、
浅野佑都
2020年06月07日 19:59
なぜか、途中でアップされてしまったので続きます。
他の登場人物との関係性も、偉人伝ではないのだからもっと創作でもいいからエピソードがあっても良かった。

本人が生きてると難しいですかね?
あと、タロン・エガートンなのかエジャートン、どっちでしょうか(笑)
オカピー
2020年06月07日 21:45
nesskoさん、こんにちは。

>劇中で歌も役者が歌ったと伝えられていましたが、本当なのでしょうか?

本当です。
「ボヘミアン・ラプソディ」と違って、準ミュージカルなので、歌う必然性があったようです。

>映画館の音響でクイーンが聴けるからって何度も観に行ったり

それはありますよね。
 僕が本格的にドアーズを聴くようになったのも、「地獄の黙示録」で使われた「ジ・エンド」の大音量故。あれが小さい音だったらどうだっただろうと思います。
オカピー
2020年06月07日 22:07
浅野佑都さん、こんにちは。

>ほとんど時間差なしで聴いているエルトン・ジョンではありますが、
>どうしても、ジョンとの絡みで彼を観ている自分がいる

ビートルズにやや遅れた世代に当たる僕らにとって、エルトン・ジョンはまさに同時代の歌手ですよね。

>「真夜中を突っ走れ」は、事実上、エルトンとの完全なデュエット。
>「John Lennon And Elton John」とクレジットで出すべきなんですね。

多分7歳くらい年上で大先輩のジョンにエルトンが遠慮したのではないかなあ。
 ビートルズのポスターを見て“エルトン・ジョン”と名乗るエピソード(これ自体は史実ではないですが)があったので、この曲が出て来るかと予想しましたが出て来ず、つまんねーのと思いました(笑)。

>僕をして、ジョンとエルトンを疑似兄弟みたいに観ているのかな

そう思われても不思議ではない共通性と、心の中の師弟関係めいたものがありますね。

>テンションはかなり落ちているかなぁと・・。

この映画は、勢いから言うと、竜頭蛇尾の典型で、しゅんとしたまま終わりますからね。

>タロン・エガートンなのかエジャートン、どっちでしょうか(笑)

英国系の名前のようですから、エガートンの可能性が高いです、と真面目に答えなくても良いですかね(笑)

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