映画評「予期せぬ出来事」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1963年イギリス映画 監督アンソニー・アスクィス
ネタバレあり

発表順は全然逆であるが、災害場面のない「大空港」である、と言えばおおよそ内容の想像が付く。40年くらい前にTVで観たのは20分くらいカットされた版だったので、完全版は今回が初めて。その意味で今回のNHKによる放映は有難かった。

ロンドン。ヒースロー空港にVIPたちが三々五々やって来るが、霧の為に最初は一時間ほどの遅延、やがて翌朝までの遅延が決定される。このVIPたちは、表面上堂々たるものだが、それぞれ問題を抱えていることがお話が進行するに連れて判って来る。
 成功した大企業の経営者リチャード・バートンの妻エリザベス・テイラーは、夫君の愛情表現の薄さに嫌気がさして、ギャンブラーのルイ・ジュールダンと駆け落ちを考えている。トラクター会社を経営するロッド・テイラーは秘書マギー・スミスから絶大な協力を得つつ、吸収合併を避けようと違法行為の空手形を切る。若手イタリア人女優エルザ・マルティネッリを伴って行動している映画監督オースン・ウェルズは、100万ポンドの納税を回避しようと出発を焦っている。公爵夫人マーガレット・ラザフォードは所有する城を維持する為にコンサルタントとして海外に赴任しようとしている。

最後の呑気な老公爵夫人以外は出発の遅れることで大きな影響を受ける人ばかりで、軸となるのはバートンの知らない間にニューヨークへ駆け落ちしようとするエリザベスとジュールダンのトリオのエピソードであるが、自社再建を図るロッド・テイラーとマギー・スミスのペアのほうが、二人の好演もあって、充実している。このエピソードは、マギーのボスへの恋情を早めに察知させ、それでドラマ的綾を成そうとしている為、ボーっとしていて万一察知できないと面白味は半減する。

グランドホテル形式に沿った型通りの内容なので余り面白いとは言えないが、人物の出入りはバランスが取れ格好になっている為映画として不出来とも言いにくい。

脚本は「旅路」(1958年)などこの手の群像劇に実績のあるテレンス・ラティガン。監督はアンソニー・アスクィスで、オムニバス映画「黄色いロールス・ロイス」(1964年)でも彼の脚本を映画化し、亡くなった。

主要メンバー8人は相当豪華だが、今でこそ有名なマギー・スミスが当時一番知名度が低く、日本初登場。エルザ・マルティネッリは60年代に国際的に活躍したイタリア女優。1970年頃僕が映画を観始めた頃でも既に過去の人の感があったわけだから、まして今知っている人は少ないだろう。

「黄色いロールス・ロイス」は1972年に日曜洋画劇場が紅白歌合戦の裏番組として放映したのを見た。ウィキペディアによれば、視聴率惨敗だったらしい。むべなるかな。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2020年06月10日 19:15
こんばんは。先日もお話ししたようにロッド・テイラーとマギー・スミスのペアの好演が光ります。特にマギー・スミスは双葉師匠が褒めていました。
ルイ・ジュールダンの顔を傾けて喋る演技もいいですよ。「007オクトパシー」の悪役、刑事コロンボ「美食の報酬」の犯人役と同じです。

>外気が張って長生きするかもしれませんよ(笑)。

彼も大統領になれないと言う意見もあります。じゃあどうすればいいんでしょうか?ヒラリーですか?

>2歳くらいの娘を見たら全く同じ眉。

大きくなったらお父さんに似るとか?
オカピー
2020年06月10日 22:53
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>ルイ・ジュールダンの顔を傾けて喋る演技もいいですよ。
>「007オクトパシー」の悪役、刑事コロンボ「美食の報酬」の犯人役

ジュールダンは50年代前半に二枚目役で人気を掴みましが、後半にフィルムノワールに活路を見出し、悪役が多くなったようです。
僕は「オクトパシー」に出ているのを再確認して、嬉しく思った口ですね。

>彼も大統領になれないと言う意見もあります。
>じゃあどうすればいいんでしょうか?ヒラリーですか?

アメリカの大統領選の仕組み上、候補はトランプ(共和党)とバイデン(民主党)で決定しているので、彼がダメならトランプになります。
 名前がトランプだからと言って、もうババは引きたくないです。彼の為に世界が混乱しましたので、今年を最後に政治からの退出を願います。

>大きくなったらお父さんに似るとか?

そういうことがありますよね。僕の従妹は、会うたびに母親に似ているように感じたり、父親に似ているように感じたり、ころころ印象が変わります。面白いですよ。
蟷螂の斧
2020年06月11日 20:27
こんばんは。公爵夫人(マーガレット・ラザフォード)。最後に映画監督(オースン・ウェルズ)に騙されたんじゃないか?そんな事も思いました。

ルイ・ジュールダンがフィルム・ノアールで悪役をしているのも見たいです。

アメリカも日本も人材不足?三角大福の時代が良かったか?

オカピー教授の子供さんもお父さんに似たり、お母さんに似たりを繰り返していますか?

>発表順は全然逆であるが、災害場面のない「大空港」である

ピッタリの表現です。
オカピー
2020年06月11日 21:57
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>最後に映画監督(オースン・ウェルズ)に騙されたんじゃないか?
>そんな事も思いました。

なるほど。
 しかし、夫人は城を貸し出すだけですから、嘘でも大損はないでしょう。生活設計の変更は余儀なくされますが。

>三角大福の時代が良かったか?

少なくとも今ほどデタラメではなかったですよねえ。検察が機能して田中角栄は逮捕されていますし。あの時代ならアべっちは逮捕とまでは行かないまでも、とうの昔に首相の座を追われていますね。

>オカピー教授の子供さんもお父さんに似たり、
>お母さんに似たりを繰り返して

自分では解りません^^;
 出来の悪いお嬢で、最近は滅多に家に寄りませんが、まして暫くはコロナで帰らないはず。来年のオリンピック頃にでも帰ってきたら、つくづく見てやろうと思います。

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