映画評「あなたの名前を呼べたなら」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年インド=フランス合作映画 監督ロヘナ・ゲラ
ネタバレあり

インド映画なのに99分とは短いなあと思ったら、フランス資本も絡んだ西欧化された作品であった。所謂マサラ映画ではない。

農村で結婚したが病気持ちの夫にすぐに死なれ、若くして未亡人になったラトナ(ティロタマ・ショーム)は、大都市ムンバイの建築会社社長の御曹司アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴンバール)の住み込みメイドになる。彼は彼で、婚約者の浮気で結婚が破談になって傷心に苦しむ。
 彼女は、主人の不在中の2時間だけを使って仕立て屋で修行しても良いかとお伺いを立てる。快く承諾する若い主人。しかし、仕立て屋はずる賢く利用するだけ。そこで彼女は別途学校で勉強することにする。これも承諾して貰える。彼女の嬉しそうな表情や態度に彼の心も慰められていく。
 彼女が懸命にお金をつぎ込んだ大学生の妹が結婚すると知って、インドの風習に縛られて欲しくないと思う為にがっかりする。今度は彼が慰める。こうした交流を続けるうちに彼はラトナに好意を抱くようになる。しかし、未亡人は再婚できない田舎の風習と、階級の違うカースト制度の厳しさを身を以って知っているラトナは、自身彼に好意を抱きながらも、彼の求愛に応えようとせず、依然として彼を“ご主人様”と呼び続け、遂には家を去っていく。
 後日彼女は、以前彼女を侮辱した服飾関係の女性(彼の姉?)に仕立ての腕を気に入られ念願のデザイナーの仕事を得る。彼の口利きであろう。その後彼から電話を受けたラトナは初めて彼を“アシュヴィン”と呼ぶ。

人間ドラマはどちらかと言えば現状では好感の持ちにくい人間を描くのが主流であるが、ロマンス仕立てということもあり、この映画の男女二人はどちらでも大変好感が持てる。彼女はメイドと階級の立場をわきまえて何事にも控え目であるし、彼は主人の立場を笠に着ず常に紳士的である。我々だけでなく、互いに好感を持つのが当然のような組み合わせだ。

ところが、日本ならすんなり恋愛関係に進むべきところを、カースト制が未だに残るインドではそうは問屋が降ろさない。アメリカ帰りのアシュヴィンは、そうした面に疑問の眼を向けているが、田舎から離れ自主独立を目指すラトナは却ってその厳しさに抗しようとしない、否、心理的にできないと言ったほうが近いだろう。
 だからこそ、最後に“ご主人様” ではなく実名で呼びかけるのが、彼女が呪縛された心を解放させたことを示して、実に感動的。映画はここで終わるが、二人にとって明るい未来が待っていることを予想させる。ウェルメイドな作品。

控え目な人たちだけに、日本人受けするね。

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