映画評「シナラ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1932年アメリカ映画 監督キング・ヴィダー
ネタバレあり

昨日に続いて再鑑賞だが、これもまた前回いつ観たのか憶えていない。年は取りたくないものですな。

ロンドン。中年弁護士ロナルド・コールマンが、愛妻ケイ・フランシスが妹とヴェニスに旅行に出た後、悪友ヘンリー・スティーヴンスンに誘われて出かけたイタリア料理店で、二人組同士でモデルの二人組フィリス・バリーとヴィヴァ・タッターソールと懇意になる。悪友が愛妻一筋のお堅いコールマンをたきつけたのだ。
 やがて水着コンテストで彼はフィリスと再会(これもスティーヴンスンのお膳立て)し、フィリスがコールマンにのぼせ上がる。しかるに、妻が帰国した為に彼が避けようとした結果フィリスが絶望して自殺してしまう。
 親友を失ったヴィヴァが彼を訴え、フィリスが他にも経験を踏んでいる女性であることを敢えて証言しなかった彼は弁護士を引退、妻と別れて南アに向かう船上の人になるが、スティーヴンスンに説得されたケイも追いかけ船に乗る。

形としては不倫メロドラマだが、時代的に比較的近い終戦直後の「逢びき」のような鮮やかなものではないにしても、不倫における当事者の心理がきちんと描かれているところは、一見そう思われるメロドラマの枠を超えている。ロナルド・コールマンや、当時の正統派美人ケイ・フランシス、感情の激しい女性を演じたフィリス・バリーを出演者に得た効果と言って良い。

技法的には、コールマンとフィリスが湖でボートを漕ぐ場面のカット割り、絶望したフィリスが螺旋階段を降りる俯瞰ショット、ヴィヴァが彼の家に押しかける場面のカット割りなど、鮮やかである。但し、残されたフィルムの画質が寝惚け気味でさほど良くないので、想像で補ったところがある。

きちんとした作品だが、現在の人には、激しさや悲痛さが足りず、物足りないと思われ、お勧めいたしかねる。お時間のある方だけどうぞ。

一般論だが、良い伴侶に恵まれなかった男女が、別の相手を求めるのは、寧ろ人間的と言うべきであろう。本作の場合、細君がそうした欠点のない為、観客は些か複雑な心境になる。

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