映画評「幸福路のチー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2017年台湾映画 監督ソン・シンイン
ネタバレあり

今まで観たことがない台湾製アニメということで、日本製アニメの影響があるのではないかと予想しつつ、実に興味津々に観始めた。その予想は当たらずと雖も遠からずで、キャラクターの造作(ぞうさく)は初期(1960年前後)の東映アニメに近い感じ。また、本作の中で小学生たちが「科学忍者隊ガッチャマン」の主題歌を歌うのは、作者が昔を偲ぶ「ちびまる子ちゃん」の感覚(とどなたが仰っていた)。

時代背景はよく解らないが、2010年くらいだろうか。1975年生まれのヒロイン、スーチー(声:グイ・ルンメイ)は大学卒業後自由を求めて渡米、白人男性トニーと結婚するが、仲が良かった母方の祖母が亡くなった為に帰郷する。故郷である台北幸福路の風景を見て小学校へ上がる前に引っ越してきた幼女時代から折に触れて回想する。
 子供の頃から夢を見ることが多かった彼女が悪夢を見るのは、子供を持つことに関し夫と意見が合わず離婚をしようと思っているからで、実は既に妊娠もしている。小学校時代に仲の良かった白人ハーフのベティが二人子供を持って幸福そうにしていることにも考えるところが出て来、結局台湾に残り、夫と離婚する。

自分のアイデンティティーが解らなくなってしまった人(女性が多い気がする)が帰郷したり、旅をすることでそれを掴んでいくというお話は、実写映画には非常に多いが、僕が見ている数が限られているのを考慮しても、アニメでは少ないと思う。

後半は、序盤の展開からは予想できないまでに、シリアスな内容になっている。それは個人的懊悩だけでなく、1970年後半から2000年代初めくらいまで台湾史スキャンを交えているなど、日本アニメがまず扱わないような政治背景も相当絡めているのである。亡くなった祖母が原住民で、その辺りの差別問題にもそこはかとなく触れられている。
 つまり、内容は非常に濃いのである。しかるに、過去と現在との往来が野放図で、そこに寝ている時に見る夢や将来を予想する夢も交わってきて、少なからず混乱をもたらす。この辺りをもう少し整理していれば、☆一つ分くらいは十分追加できたのではないかと思う。

本作を観た日の夜にNHK「日本人のおなまえっ!」という番組で、北海道幸福町の名の由来が語られていた。実は、元々は幸震(さっない=アイヌ語由来)と言って、そこに開拓住民が故郷である福井への郷愁を込めて合体させて出来た名前とのことでした。幸震については、地震を昔は“ない(なゐ)”と言ったので、震を当てたらしい。

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