映画評「ガラスの城の約束」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督デスティン・ダニエル・クレットン
ネタバレあり

一家を挙げてヒッピー生活を続け、学校に行かせない子供達には夫婦が勉強を教えるという家族の絆について描いた「はじまりへの旅」(2016年)というアメリカ映画に結構似ている。

こちらの夫婦は、理系の父親レックス(ウッディー・ハレルスン)がガラス張りの家(城と称す)を作るという変な夢を持つ変人で、アメリカ各地を夜逃げ同様に転々、夢が上手く達成できない忸怩たる思いからかアル中。母親ローズマリー(ナオミ・ワッツ)は絵描きを気取って碌に家事もしない。
 子供たちは完全に嫌い切れないものの、年頃になるとまともに育児する気もない親たちから離れようと貯金をし始める。

こうしてニューヨークへ出て今やコラムニストとして名を成し始めた美人の次女ジャネット(ブリー・ラースン)が結婚することを報告する為(それを歓迎してくれそうもない)父親に会う前に、色々と回想するわけで、現在進行形で彼女の現在の心境を描く狭間に大火傷を負った幼女時代から大学時代までの過去が紹介されるという体裁。
 とは言っても、実際には7割くらいを過去が占める。というのも、本作がジャネット・ウォールズなる女性コラムニストの風変わりな経験を映画化したものだからである。

こういう形式の作品の定石通り、終盤近くになって過去が現在に追いついて、やがて失意で瀕死の床に就く父親を見舞い、やがて姉弟(年齢順に長女、ジャネット、長男、三女)で自分に正直で夢多き父親を偲ぶ。

現在の先進国社会では大問題となるネグレクトという虐待をし続ける夫婦で、母親は幼いジャネットに料理をさせて大火傷を負わせ、父親は次女の脱出資金を酒に使い果たしてしまうなど、ひどい人たちである。微笑ましいと言いたくなるところすら殆どないが、父親は大学に進学したジャネットの学業資金が尽きようとすると、ポーカーで稼いでくるなど人並みの情けは持っていて、最終的には子供たちには憎めない親に見えるのだから、本作には、絆の持てない親子は例外ではないか、と教えてくれるようなところがあるような気がする。先日の「ワイルドライフ」同様にこの映画でも、御しがたい親たちを子供が親らしくさせるところがありはしないだろうか。

本作はかなり特殊の家族を描いているが、特殊なお話のうちに家族の絆を抽出して普遍性に昇華させる。本作の価値はそこに尽きると思うが、一回観た限りにおいて過去の現在の往来のさせ方が強引で気に入らない。もう少しマッチカットを使う(現在から過去に移動する場合はこれを使うと非常にスムーズ)などしてシフトを自然に見せたら良かったと思う。少し古い映画観かもしれないですがね。

こういう家族を描くアメリカ映画がたまに出て来るところを見ると、かの国にはこうした家庭が一定程度あるということが伺われる。勉強になりますな。

この記事へのコメント

浅野佑都
2020年09月02日 18:56
シナリオ構成も飽きさせず、物語に入り込める展開で好感を持ちました・・。

>もう少しマッチカットを使う
これは、僕も思いました。

>少し古い映画観かもしれないですがね
「君の名は。」など、最近の若者向け作品でも使われていますね。

印象的なのはヒッチコックの「サイコ」で、オーバーラップとマッチカットが畳みかけるように使われています。
ジャネット・リーが、シャワー室で殺される場面。画面がグッと排水溝に近寄る……と、そこで「オーバーラップ」。丸い「排水溝の映像」がフェードアウトして、彼女の瞳がゆっくりと浮かび上がってくるフェードイン!

> 御しがたい親たちを子供が親らしくさせるところがありはしないだろうか。

これは流石のプロフェッサーのコメント!
本作のみならず、昨今の”毒親”などという過激な表現を好む若い人に読ませたい珠玉の一言といえるでしょう!
どんな親でも子に対して愛情はあるが、それを実体化してゆくのは難しいものです・・。

僕の父親は、人は良いけれど女性関係にだらしなく、若い時は二谷英明にちょい似のいい男で結婚してからも複数の女性と交際し家には月のうち半分も寄り付かず、家にはあまりお金を入れないウッディー・ハレルスンが可愛く思えるような男でした・・。
小学生のときに、半ドンで学校から帰って珍しく家にいる父親に思わず「こんにちは」と言ったことが・・。

当然、貧乏でしたが、母親が美容師の免許を取って働くようになってからは世間並みに・・。
それと合わせるかのように、父親の女遊びも静まりましたが、中学生の時に「別れさせよう」と、父親の愛人の家に直談判しに行ったことも・・。(意を決して訪問したら、僕を息子と知って相手の女性は下へも置かない接待ぶりで‥笑)
結局、言い出せず、あとで手紙を書いたことも・・。

>かの国にはこうした家庭が一定程度あるということが伺われる

その通りですね・・・。
そういえば、ウッディー・ハレルスンの父親は、マフィアのヒットマンでケネディ暗殺にかかわったとか言ってる剛の者でして・・。
もちろん、親の罪は子に無関係で、本人に才能があれば俳優として受け入れられる、こういう点はアメリカ社会の良いところですね。
オカピー
2020年09月03日 13:26
浅野佑都さん、こんにちは。

>シナリオ構成も飽きさせず、物語に入り込める展開で好感を持ちました・・。

面白かったのですが、冤罪と回想のシフト具合が気に入らなかったので、採点はかなり厳しめになりました。

>「サイコ」
>丸い「排水溝の映像」がフェードアウトして、
>彼女の瞳がゆっくりと浮かび上がってくるフェードイン!

忘れっぽい僕でも、勿論、よく憶えているマッチカット!

>どんな親でも子に対して愛情はあるが、それを実体化してゆくのは難しいものです・・。

実感を含めて、全くその通りと思います。

>僕の父親は、人は良いけれど女性関係にだらしなく、
>若い時は二谷英明にちょい似のいい男

そりゃまた大変でしたね。

僕の父親もなかなか二枚目で、サングラスをかけた写真などでは、ジャン=ポール・ベルモンドか、という感じ。実際、葬式の時にも近所のおじさんが「親父は良い男だったよなあ」と言っていましたよ。
 しかし、とにかく仕事一筋で、道楽は殆どなし。ごく若い時は映画が好きでよく映画館に行っていたようですが、TVを買ってからはすっかり遠のいたらしく。会社から家に直行の繰り返しでしたよ。

>本人に才能があれば俳優として受け入れられる、こういう点はアメリカ社会の良いところですね。

最近は、有色人種については、その限りではないかもしれませんが。アメリカだけのことを考えれば、トランプが良いのかバイデンが良いのか解りませんが、世界規模で考えると、バイデンがベター。日本も彼の方が楽でしょう。

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