映画評「悪魔が夜来る」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1942年フランス映画 監督マルセル・カルネ
ネタバレあり
6300本もの映画絡みの記事を書きながら、マルセル・カルネはまだ取り上げていないと思う。「天井桟敷の人々」は長いので、どうも敬遠しがち。大好きな「嘆きのテレーズ」もブログ開設の2005年以降は見ていない。恐らくこのブログで初めて取り上げるカルネ作品である。
15世紀末のこと。悪魔と契約した吟遊詩人アラン・キュニーとアルレッティの兄弟が、娘マリー・デアと騎士マルセル・エランの婚約披露をする男爵フェルナン・ルドーの城を訪れる。目的は城にいる人々を恋愛で惑わすことで、男装している女性アルレッティがリュートをかき鳴らすと時が止まり、キュニーとアルレッティはそれぞれ目当てのマリーと騎士をたぶらかす。潜在的に恋心を植え付けたのを確認すると、彼女は再びリュートを鳴らして時間の流れを元に戻す。
アルレッティは男爵にも接近して、騎士との間にもめ事を引き起こすのに成功するが、キュニーはマリーに夢中になって遂に本気の愛の言葉を吐いてしまう。この瞬間契約違反をみてとった悪魔ジュール・ベリーが旅人として城を訪れ、男爵にキュニーを監禁させ、マリーを自分に振り向かせようとするも、彼女はどうにもなびかない。それでも彼女は愛するキュニーの完全なる自由と引き換えに悪魔に心を許すことを約束する。
しかるにこれは嘘、怒った悪魔は愛情を交わし合う二人を石にしてしまう。ところが、彼らの心臓の鼓動が鳴りやまず、悪魔はお手上げとなって消えていく。
頗る幻想的で幽玄なジャン・コクトーの「美女と野獣」(1946年)と日本では同じ年に公開された、似た傾向の幻想編で、フランス映画のエレガントぶりが思う存分堪能できる。リュートをかき鳴らすことで別時間の世界を始めそして終わらせるところの幻想ムードがハイライト。但し、リアルタイムでも止まった時間の中でも、吟遊詩人のやっていることは余り変わらないような気がしないでもないが。
フランス映画らしく愛は全てに勝つというのがテーマであるが、その軟派な見た目とは裏腹に、製作されたのがナチス・ドイツにフランスが占領されていた1942年であることを考えると、最後の心臓の鼓動にフランス映画人のレジスタンス精神を思わずにはいられない。ストレートにそれを感じたのは、3回目の今回が初めて。今までは“ナチスへの反骨の映画だ” と言われ、“そうかもしれない” くらいに思っただけだったのだ。
常連のモカさんに古い洋楽"When That Man Is Dead and Gone"の歌詞を解読せよと言われ、“悪魔の歌やんけ”と大威張りで答えたら、“ヒトラーのことやね”とやんわりと修正された。この映画はそれを思い出させた。
1942年フランス映画 監督マルセル・カルネ
ネタバレあり
6300本もの映画絡みの記事を書きながら、マルセル・カルネはまだ取り上げていないと思う。「天井桟敷の人々」は長いので、どうも敬遠しがち。大好きな「嘆きのテレーズ」もブログ開設の2005年以降は見ていない。恐らくこのブログで初めて取り上げるカルネ作品である。
15世紀末のこと。悪魔と契約した吟遊詩人アラン・キュニーとアルレッティの兄弟が、娘マリー・デアと騎士マルセル・エランの婚約披露をする男爵フェルナン・ルドーの城を訪れる。目的は城にいる人々を恋愛で惑わすことで、男装している女性アルレッティがリュートをかき鳴らすと時が止まり、キュニーとアルレッティはそれぞれ目当てのマリーと騎士をたぶらかす。潜在的に恋心を植え付けたのを確認すると、彼女は再びリュートを鳴らして時間の流れを元に戻す。
アルレッティは男爵にも接近して、騎士との間にもめ事を引き起こすのに成功するが、キュニーはマリーに夢中になって遂に本気の愛の言葉を吐いてしまう。この瞬間契約違反をみてとった悪魔ジュール・ベリーが旅人として城を訪れ、男爵にキュニーを監禁させ、マリーを自分に振り向かせようとするも、彼女はどうにもなびかない。それでも彼女は愛するキュニーの完全なる自由と引き換えに悪魔に心を許すことを約束する。
しかるにこれは嘘、怒った悪魔は愛情を交わし合う二人を石にしてしまう。ところが、彼らの心臓の鼓動が鳴りやまず、悪魔はお手上げとなって消えていく。
頗る幻想的で幽玄なジャン・コクトーの「美女と野獣」(1946年)と日本では同じ年に公開された、似た傾向の幻想編で、フランス映画のエレガントぶりが思う存分堪能できる。リュートをかき鳴らすことで別時間の世界を始めそして終わらせるところの幻想ムードがハイライト。但し、リアルタイムでも止まった時間の中でも、吟遊詩人のやっていることは余り変わらないような気がしないでもないが。
フランス映画らしく愛は全てに勝つというのがテーマであるが、その軟派な見た目とは裏腹に、製作されたのがナチス・ドイツにフランスが占領されていた1942年であることを考えると、最後の心臓の鼓動にフランス映画人のレジスタンス精神を思わずにはいられない。ストレートにそれを感じたのは、3回目の今回が初めて。今までは“ナチスへの反骨の映画だ” と言われ、“そうかもしれない” くらいに思っただけだったのだ。
常連のモカさんに古い洋楽"When That Man Is Dead and Gone"の歌詞を解読せよと言われ、“悪魔の歌やんけ”と大威張りで答えたら、“ヒトラーのことやね”とやんわりと修正された。この映画はそれを思い出させた。
この記事へのコメント
>“悪魔の歌やんけ”と大威張りで答えたら、
どうされましたか? そのダウンタウンみたいな物言いは(笑)
コネント欄を通じてガラの悪い関西ウイルス(モカ菌)に感染したかもですよ。
この映画は未見のはずなのにアマゾンを検索したら買ったことになっていて焦りました! さっきまで探しまくってたんですが、そういえばある人に頼まれて代理で買ったことを忘れていたのでした。やれやれ、良かった~ 今度借りて観てみますね。
「幸福」は「しあわせ」と読むと書いておられましたが、これは「あくまがよるきたる」と読むのでしょうか?
今読んでいるW・コリンズの「白衣の女」は「びゃくえのおんな」と読むそうな・・・誰が決めてん?ややこしいわ(笑)
>どうされましたか? そのダウンタウンみたいな物言いは(笑)
“~やんけ”は品のない言い方らしいですね。知らなかったあ。関東人ににわか関西弁は禁物やな(と言いつつまたいい加減に使っている)。
>これは「あくまがよるきたる」と読むのでしょうか?
僕は「あくまがよるくる」と読んでしますが、確証はないです。
>「白衣の女」は「びゃくえのおんな」と読むそうな
おおっ、そうでしたか。知りませなんだ。
その時は吹き替えで、悪魔ジュール・ベリーが森山周一郎で、お姫様のマリーには岡本茉莉(マリー笑)その時の吹き替えがあまりにも素晴らしく、後にDVDを購入したんですよ。
幻想的なせいか、マルセル・カルネの説教臭さを感じないですし、「天井桟敷の人々」よりも好きですね。
悪魔の奴僕で男装の麗人アルレッティも、天井桟敷のときより美しくファムフアタール的です。
悪魔の出で立ちは『チキチキマシン猛レース(Wacky Race)』のブラック魔王を思い出します(笑)
>関東人ににわか関西弁は禁物やな(と言いつつまたいい加減に使っている)
モカさんの突っ込みには流石、筋金が入ってるなと思わざるを得ません(笑)
僕も時たま、「そんなん、できひん」とか、にわか京言葉を使ってしまうことがありますが、「まったり」なんて言葉は若者を中心に今では全国区ですからね。
「~どすえ」なんて使い方も、花街以外で耳にすることは全くないのに、テレビや映画の影響で京言葉の代表みたいに感じられてしまうのは余りよくありませんね。
いや、「おやかまっさんどした!」(笑)
>“~やんけ”は品のない言い方らしいですね。知らなかったあ。
品がないというよりは、BOYSや元BOYSのおっさん連中が忌憚のない意見交換をする時に使用される助動詞?でしょうか(笑)
超カジュアル使いの言葉で上品な言葉使いではないけれど、さりとて下品というのとはちょっと違う・・・
品のないお笑いタレントがテレビで使うと品にない言葉に聞こえるという事でしょうね。
お笑いに品はいらん? いやいや、昔のエンタツアチャコ師匠やいとしこいしは面白くて品がありました。上品とは品質が良いという事だと思います。
最近は関西も人の移動が多くてシャッフルされてきているので地域特有の物言いがなくなりつつあるようです。
以上、お父さんの為の関西弁ワンポイントアドバイスでした!
>「天井桟敷の人々」よりも好きですね。
一回目は全然良さが解らず、二回目は少し解った気になったものの、まだ僕の中で評価が下せないのが「天井桟敷の人々」です。
本作は初めて見た年のTV部門1位にしました。幻想ぶりが大いに気に入りましてね。今回は少し控え目に評価してみました。
>モカさんの突っ込みには流石、筋金が入ってるなと思わざるを得ません(笑)
関東人にはない鋭さがありますかねえ。笑いに関して関東人は概ね凡庸。まして昔から上州の男は朴訥と言われ、気の利いたことはなかなか言えませんから。
>BOYSや元BOYSのおっさん連中が忌憚のない意見交換をする時に使用される
な~るほど。勉強になりましたm(__)m
>お笑いに品はいらん?
ダウンタウンは実は嫌いで、殆ど見たことないのです。
>上品とは品質が良いという事だと思います。
至言ですね。
>ダウンタウンは実は嫌いで、殆ど見たことないのです。
右に同じです。 生粋の大阪人の友人でも嫌がってましたね。
☆ 「天井桟敷の人々」
実は有名だけど個人的にはとこが良いのかさっぱり分からん映画リストの筆頭案件です。
多分、どんなに理詰めで解説されても楽しむことはできないでしょうね。
>右に同じです。 生粋の大阪人の友人でも嫌がってましたね。
そうですか。彼らはやはり品がないのでしょうかね?
>実は有名だけど個人的にはとこが良いのかさっぱり分からん映画リストの筆頭案件です。
そう言われて、僕も反論できません。いつか解ってやろうと思っていますが(笑)