映画評「ガーンジー島の読書会の秘密」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2018年イギリス=フランス=アメリカ合作映画 監督マイク・ニューウェル
ネタバレあり
マイク・ニューウェルという監督はちょっとした良い作品を幾つか発表しているが、この作品は英国風味が非常に高く、彼の作品の中で僕は一番買いたい。
ガーンジー島というのは、イギリス海峡のかなりフランス寄りにある島で、実は英国王室に属しているので、厳密な意味では連合王国に含まれず、その法律は適用されない。そこは1941年から45年までナチス・ドイツに占領されていたという史実があり、その史実を基に書かれたメアリー・アン・シェーファーとアニー・バロウズが共同で書いた小説の映画化である。
1946年の英国。人気女流作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)が、彼女の手放したチャールズ・ラムの「エリア随筆」を所有することになった農夫ドーシー(ミキール・ハースマン)から感謝の手紙を受け取り、彼が属する読書会なるものに興味を覚え、島に渡る。
読書会は実はナチスの追求を逃れる為に偶然出来上がったもので、属する島民たちに色々訊くうち、ドーシーの幼い娘キットの母親エリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)の不在が問題として浮かび上がって来る。キットの実の父親はナチスの軍医で、島民同士が色々軋轢を繰り返した後、正義感の強さが災いしてナチスに捕らえられて大陸に連行されたというのである。ジュリエットは婚約者のアメリカ人マーク(グレン・パウエル)に調査を依頼、その結果彼女がドイツで処刑されたことが判明する。
本土へ戻った彼女は、エリザベスの生き方に共鳴すると共に島民たちに絆を感じ、マークに指輪を返すと、この一連の悲劇に関する文章を出版を前提とせずに書きあげると、それと共に再び島に渡る。
外国人にとりわけ価値があるのは、ガーンジー島がドイツに占領された史実を知ることができるということ。全体のお話はフィクションなのだろうが、類似する実話があるにちがいない。人並みの人間性があるなら、占領がもたらした複雑な悲劇に悲しみを感じることもできるだろう。
特に感心したのは、今は亡き娘の親友であるエリザベスを娘同様に思っている中年夫人アメリア(ペネロープ・ウィルトン)にナチス・ドイツ憎しを言わせながら、同時に、クリント・イーストウッドの「硫黄島からの手紙」(2006年)同様に”種から個を判断すべからず"という主張を忍ばせていることである。“複雑な悲劇”と言った所以もここにある。
そうした厳しい状況を主題にしながら、一方で、どこか英国的なのんびりとしたムードが加えられていることが全体の後味の良さの繋がっている。序盤が少々まどるっこいことと、終盤のロマンス的扱いが人間劇として甘すぎるのが弱点と言えば弱点。それでも、後者は、キットとの関係を考えると落ち着くべきところへ落ち着いたという印象があり、景色の捉え方の素晴らしさとあいまって、爽やかに見終えることができるので、必ずしもマイナスにならない。英国映画らしい秀作と言うべし。
英国文学に詳しければなおよろし。本絡みの映画には素敵な作品が多いデスね。ラムの「エリア随筆」は昨年読んだが、「シェイクスピア物語」(戯曲20編を物語化したもの)は未読。頭を病んだ姉との共著にしている辺りが泣かせる。
2018年イギリス=フランス=アメリカ合作映画 監督マイク・ニューウェル
ネタバレあり
マイク・ニューウェルという監督はちょっとした良い作品を幾つか発表しているが、この作品は英国風味が非常に高く、彼の作品の中で僕は一番買いたい。
ガーンジー島というのは、イギリス海峡のかなりフランス寄りにある島で、実は英国王室に属しているので、厳密な意味では連合王国に含まれず、その法律は適用されない。そこは1941年から45年までナチス・ドイツに占領されていたという史実があり、その史実を基に書かれたメアリー・アン・シェーファーとアニー・バロウズが共同で書いた小説の映画化である。
1946年の英国。人気女流作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)が、彼女の手放したチャールズ・ラムの「エリア随筆」を所有することになった農夫ドーシー(ミキール・ハースマン)から感謝の手紙を受け取り、彼が属する読書会なるものに興味を覚え、島に渡る。
読書会は実はナチスの追求を逃れる為に偶然出来上がったもので、属する島民たちに色々訊くうち、ドーシーの幼い娘キットの母親エリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)の不在が問題として浮かび上がって来る。キットの実の父親はナチスの軍医で、島民同士が色々軋轢を繰り返した後、正義感の強さが災いしてナチスに捕らえられて大陸に連行されたというのである。ジュリエットは婚約者のアメリカ人マーク(グレン・パウエル)に調査を依頼、その結果彼女がドイツで処刑されたことが判明する。
本土へ戻った彼女は、エリザベスの生き方に共鳴すると共に島民たちに絆を感じ、マークに指輪を返すと、この一連の悲劇に関する文章を出版を前提とせずに書きあげると、それと共に再び島に渡る。
外国人にとりわけ価値があるのは、ガーンジー島がドイツに占領された史実を知ることができるということ。全体のお話はフィクションなのだろうが、類似する実話があるにちがいない。人並みの人間性があるなら、占領がもたらした複雑な悲劇に悲しみを感じることもできるだろう。
特に感心したのは、今は亡き娘の親友であるエリザベスを娘同様に思っている中年夫人アメリア(ペネロープ・ウィルトン)にナチス・ドイツ憎しを言わせながら、同時に、クリント・イーストウッドの「硫黄島からの手紙」(2006年)同様に”種から個を判断すべからず"という主張を忍ばせていることである。“複雑な悲劇”と言った所以もここにある。
そうした厳しい状況を主題にしながら、一方で、どこか英国的なのんびりとしたムードが加えられていることが全体の後味の良さの繋がっている。序盤が少々まどるっこいことと、終盤のロマンス的扱いが人間劇として甘すぎるのが弱点と言えば弱点。それでも、後者は、キットとの関係を考えると落ち着くべきところへ落ち着いたという印象があり、景色の捉え方の素晴らしさとあいまって、爽やかに見終えることができるので、必ずしもマイナスにならない。英国映画らしい秀作と言うべし。
英国文学に詳しければなおよろし。本絡みの映画には素敵な作品が多いデスね。ラムの「エリア随筆」は昨年読んだが、「シェイクスピア物語」(戯曲20編を物語化したもの)は未読。頭を病んだ姉との共著にしている辺りが泣かせる。
この記事へのコメント
良い映画でしたね。 編み物好きにはガーンジーと言えば漁師のセーターの発祥の地として有名ですがここで描かれているような歴史があった事までは知りませんでした。
リリー・ジェームズ、売れてますね。可愛いけどそこまで良いとも思えなくて・・・ ダウントンアビーのチャラい系娘のイメージが強くて、本人もその辺を払拭しきれていない感じがするんですけど・・・
ダウントンアビーで運転手と結婚する進歩的な三女を演じていたジェシカ・ブラウン・フィンドレイがまたまたよく似たタイプのエリザベスをやっていたのが何だか嬉しいです。
ダウントンアビー組4人+トム・コートネイで英国風味満点の後味の良い作品でございました。
>編み物好きにはガーンジーと言えば漁師のセーターの発祥の地として有名
そう言えば、クイズ番組でガーンジーという服装の話を聞いたような気がします。
>リリー・ジェームズ、売れてますね。
そうですね。少し前も「マンマ・ミーア」の続編で観ました。「ダウントンアビー」というTV番組を観ていないので、ひたすら可愛いと思いますよ(笑)
>ダウントンアビー組4人
他に二人も出ているんですか。影響力のある番組なんですねえ。
>ひたすら可愛いと思いますよ(笑)
今のところラブコメ向きでしょうか?
アン・ブロンテの本を書くような作家に見えないところが何ともですが、劇中でも農夫ドーシーにまさかこんな可愛い人が来るとは思わなかったと言わせてましたね。
監督もそこのところはちょっと気になってたんで先手を打ってドーシーに言わせたとか?(笑)
6月の自粛開けにみた「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」でシアーシャ・ローナンが演じたジョー(L・M・オルコット)がとっても良かったので、タイピストには見えても(チャーチルのタイピストでしたね)作家には見えないジェームス嬢は若干分が悪いです。
「ダウントンアビー」
下手な映画よりよっぽど面白かったですよ。90年代のBBCの「高慢と偏見」もそうでしたが英国のテレビ局は侮れません。
ひょっとしてヘレン・ミレンの「第一容疑者」もご覧になってないとか・・・?
>タイピストには見えても(チャーチルのタイピストでしたね)作家には見えないジェームス嬢は若干分が悪いです
そう言われると、反論できましぇん。
>監督もそこのところはちょっと気になってたんで先手を打ってドーシーに言わせたとか?(笑)
そういう裏話もありそうですね。そうだったら面白い^^
>ひょっとしてヘレン・ミレンの「第一容疑者」もご覧になってないとか
シュエットさんもよく英国のTVドラマの話をしていましたが、日本のも海外のも連続ドラマなるものはもう半世紀近く見ておりませんで。
映画よりレベルが低い云々という意識ではなく、長く付き合えないというところが多いわけです。しかし、捜査ものでは大体一話完結になっているのでそれほど避ける必要もなかったのでしょうが、とにかくTV番組表も映画欄以外は見なかったですからねえ。
図書館を訪れましたが、原作以外はありませんでした。残念。