映画評「ボーダー 二つの世界」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年スウェーデン=デンマーク合作映画 監督アリ・アッバシ
ネタバレあり
例によって全く何も知らずに観たが、かなり異色の、しかしタッチがよく抑制された、ダーク・ファンタジーであった。ハリウッドのメジャー映画ではまず作らないようなお話である。
ティーナ(エヴァ・メランデル)という特殊な容貌をした女性が、人の感情を嗅ぎ分けるという特殊能力を生かしてフェリーの税関で働き、密輸を次々と看破する。ある時彼女の鼻が利いて調べた虫を研究しているらしい男性ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)には不審なところがなく反省する。しかし、彼には女性器のようなものがあると男性職員から告げられる。
彼女は同類の匂いを感じたヴォーレを、同居する男性のいる自宅に間借りさせるうち、彼から自分たちが北欧のお馴染みトロールであることを知らされる。彼女の鼻から逮捕に至った男から児童ポルノ・ルートを洗う警察に協力するうち、彼女は人間に恨みを抱くヴォーレが絡んでいることを知る。
人間的な感情を持つ彼女が逮捕させようとした彼はフェリーから飛び降りて行方不明になり、その後彼女のもとにフィンランドからトロールの赤ん坊と共にフィンランドのトロール・コミュニティへの招待が届く。
序盤税関をめぐるサスペンスなのかと思って観ていると、途中から想像もできないような方向へ話が進む。トロール絡みの映画は先年「トロール・ハンター」というモキュメンタリー仕立ての作品があったが、本作は作り方ではなく、トロールの性(男性が子供みたいなものを産むという場面まである)という今まで扱われたことのない要素を大胆に取り込みつつ、人間とトロールの関係性を綴るというアングルでトロール譚を扱って見せた。
実際に扱われているのは、他人と違うという意識を持ち孤独をかこつ人の心情という普遍的なテーマである。人種・民族における、或いは宗教における、あるいは思想信条における、等々異種の混交がある世の中にはこういう人々が少なからずいるだけに意義深い内容で、カンヌ映画祭で “ある視点賞” を受賞した所以であろう。
トランプが世界に分断をもたらした(?)せいか、近年ボーダーの映画多し。投票に不正があったと真面目に言うトランプ支持者の奇妙さよ。集計上の多少のエラーはあるかもしれないが、人為的な不正はあるまいよ。フェイクはそれを言う側に多い。
2018年スウェーデン=デンマーク合作映画 監督アリ・アッバシ
ネタバレあり
例によって全く何も知らずに観たが、かなり異色の、しかしタッチがよく抑制された、ダーク・ファンタジーであった。ハリウッドのメジャー映画ではまず作らないようなお話である。
ティーナ(エヴァ・メランデル)という特殊な容貌をした女性が、人の感情を嗅ぎ分けるという特殊能力を生かしてフェリーの税関で働き、密輸を次々と看破する。ある時彼女の鼻が利いて調べた虫を研究しているらしい男性ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)には不審なところがなく反省する。しかし、彼には女性器のようなものがあると男性職員から告げられる。
彼女は同類の匂いを感じたヴォーレを、同居する男性のいる自宅に間借りさせるうち、彼から自分たちが北欧のお馴染みトロールであることを知らされる。彼女の鼻から逮捕に至った男から児童ポルノ・ルートを洗う警察に協力するうち、彼女は人間に恨みを抱くヴォーレが絡んでいることを知る。
人間的な感情を持つ彼女が逮捕させようとした彼はフェリーから飛び降りて行方不明になり、その後彼女のもとにフィンランドからトロールの赤ん坊と共にフィンランドのトロール・コミュニティへの招待が届く。
序盤税関をめぐるサスペンスなのかと思って観ていると、途中から想像もできないような方向へ話が進む。トロール絡みの映画は先年「トロール・ハンター」というモキュメンタリー仕立ての作品があったが、本作は作り方ではなく、トロールの性(男性が子供みたいなものを産むという場面まである)という今まで扱われたことのない要素を大胆に取り込みつつ、人間とトロールの関係性を綴るというアングルでトロール譚を扱って見せた。
実際に扱われているのは、他人と違うという意識を持ち孤独をかこつ人の心情という普遍的なテーマである。人種・民族における、或いは宗教における、あるいは思想信条における、等々異種の混交がある世の中にはこういう人々が少なからずいるだけに意義深い内容で、カンヌ映画祭で “ある視点賞” を受賞した所以であろう。
トランプが世界に分断をもたらした(?)せいか、近年ボーダーの映画多し。投票に不正があったと真面目に言うトランプ支持者の奇妙さよ。集計上の多少のエラーはあるかもしれないが、人為的な不正はあるまいよ。フェイクはそれを言う側に多い。
この記事へのコメント
流石は「モールス」(邦題は「ぼくのエリ 200歳の少女」でヴァンパイア映画に革命を起こしたと言われた作品)の原作者がものにしただけのことはある・・。
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストという元スタンダップ・コメディアンの作家なんですが、北欧のスティーブン・キングと呼ばれているようですね・・。
けれど、キングみたいなエンタメ性はありません。
僕はむしろ、21世紀のカフカよろしく、不条理的な物語作家なのかな、と感じました。
北欧にも面白い作家がいますね・・。
>「ぼくのエリ 200歳の少女」
吸血鬼映画はコンスタントに作られていますが、今世紀少なからず作られた旧映画の中で随一の秀作ではないでしょうか。スウェーデン映画らしくはったりがなく、情景が厳しく、映画的な魅力に溢れていました。
>北欧のスティーブン・キングと呼ばれているようですね・・。
どちらも読んだことがありませんが、キングより面白そう。僕のように純文学ばかり読んでいると、エンタメ性の強い作品はどうも底の浅さを感じてしまう。
その一方、日本の直木賞受賞作などもそうですが、純文学と大衆文学との境界(ボーダーだけに)というか垣根を感じない作品も多いですね。大衆小説が純文学に寄っているのだと思います。近年の純粋な純文学はどうも小さなことにチマチマした感じが強すぎる。
北欧は、映画でも文学でも注目すべきですね。
劇場公開前によく取り上げられていたので面白そうだなと思っていたのにその後すっかり忘れてしまって・・・
思い出させてくださってありがとうございます。
という事で、また忘れないうちにちゃっちゃと観てしまいました。
たまたま先日、孫が家にきてアマゾンプライム(困った時のアマゾンプライム・・笑)でドリームワークスの「トロールズ」を観ていましたが、あのトロールと同じトロールとは吃驚です。
ドリームワークス版は、北欧の暗い森の中で生まれた伝説の妖精トロールから毒気を抜いて砂糖と合成着色料で別の毒を塗りたくったようなトロールかもしれませんね。(ちゃんと観ていないのでなんとも言えませんが)
本作は小さな子供が観たらトラウマになりそうですけど。
あの冷蔵庫に入れた胎児のようなのは有精卵のような物ですかね? 不気味です。トロールは鶏か?(笑)
>実際に扱われているのは、他人と違うという意識を持ち孤独をかこつ人の心情という普遍的なテーマ
カンヌ映画祭で “ある視点賞” を受賞した所以であろう
「ぼくのエリ 200歳の少女」もこの映画も人間が想像で作り出したちょっと(随分?)外れた人間の視点から普通の人間を観た時に見えてくるものを描いているという事ですね。
深いなぁ・・
ムーミントロールはまた別者のようですね。
>困った時のアマゾンプライム
WOWOWを契約していなかったら、月に500円くらいの会員費を払っても良いと思いますが、かなりダブるであろうから、早めにキャンセルするつもり。
>あの冷蔵庫に入れた胎児のようなのは有精卵のような物ですかね?
生物の中には、雄が卵を産むか何かをするものも確かいたような気もしますが、それが念頭にあったのかな? 映画としては、男女平等の意識があるように思います。
>この映画も人間が想像で作り出したちょっと(随分?)外れた人間の視点から普通の人間を観た時に見えてくるものを描いているという事ですね。
僕はそう感じました。
>ムーミントロールはまた別者のようですね。
作者はそう仰っていますね。