映画評「間諜」

☆☆★(5点/10点満点中)
1937年イギリス映画 鑑賞ヴィクター・サヴィル
ネタバレあり

1931年にマレーネ・ディートリッヒ主演で「間諜X27」、グレタ・ガルボ主演で「マタ・ハリ」という戦争絡みのスパイ映画が相次いで作られたのは、やはり将来のドイツとの闘いを意識していたのではないかと想像する。31年はまだナチスの勢力が確たるものになる前だから “そんなことねえだろ” というご意見もあろうが、ナチスに関係なくドイツはきっと何をやらかすか解らないという懸念を英米人が持っていた可能性は高い。
 実際にその後も戦争絡みのスパイ映画がぼちぼち作られ、まだ世界的なスターになる前の(英国ではもうスターだった筈の)ヴィヴィアン・リーが主演したスパイ映画が本作である。
 尤も、スパイ映画と言っても、女性が主役の場合はロマンス絡みとなる相場通り、本作もロマンスの要素が強い。

スウェーデンで衣服店を経営するヴィヴィアンが、パリへ行っては衣服を持ち帰り、一着を伯爵夫人に届ける。伯爵邸はドイツ・スパイの拠点で、衣服には暗号が仕込まれている。欠席裁判で死刑になったドイツ将校コンラット・ファイトがそんな彼女の前に現れ、次第に相愛の仲になる。
 彼らを怪しむのが英国の情報部員アンソニー・ブッシェルで、実は彼も彼女を憎からず思っている。やがてドイツ情報局は彼女がもたらす情報に間違いが多い為、手先の局員を調べさせるべく彼女をフランスに渡らせるが、フランス当局に逮捕されてしまう。ところが、彼女自身がフランスのスパイでもあるので即座に釈放される。
 かくしてドイツの情報部長を調べるよう命じられた彼女は、ファイトの行動から彼の死刑判決情報はインチキで、彼がその本人と確信する。正体のばれたファイトは彼女を捕まえて逃げようとするが、英国軍が察知してドイツ艦を攻撃、彼女を救出する。しかし、彼女は捕虜として去ってゆくファイトに手を振るのである。

着想自体はなかなか面白い。煎じ詰めると、スパイ映画に見せかけた、一人の女性を巡って英独男性スパイが争う三角関係のロマンスだからニヤニヤできるし、衣服を使ったスパイの手法自体も楽しめる。

しかるに、色々出入りのある内容に比して77分という上映時間はいかにも短くて解りにくいところが多く、誰が誰の為に活動しているのか、ともやもやしながら見るので潜在能力ほど楽しめない。
 その解りにくさを助長するのが、登場人物が全員きちんとした英語を話すことで、複数民族が交錯するスパイ映画と戦争映画では(その民族の言語を話す状況においては)きちんと出身国通りの言語を使わせるべしと僕が常々言っているのはその為である。戦争映画は軍服で解ることが多いが、私服ばかり出て来るスパイものでは解らない。概して英国映画はアメリカ映画よりはマシなのだが、これはダメでした。

コンラット・ファイトは、クルト・ユルゲンスの先輩に相当するドイツ出身の国際スター。

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