映画評「ラストレター」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・岩井俊二
ネタバレあり
「Love Letter」(1995年)でも我々ロマンティストを感激させた岩井俊二監督が、似た趣向を以ってまたも感激させてくれた。大衆的だが通俗に陥っていない。ロマンティックだが甘すぎない。この手をお話を作る時の岩井監督は好きである。
男女二人の子供を持つ中年主婦・裕里(松たか子)が、実家で行われる姉・美咲の葬儀に出る。娘・颯香(森七菜)は従姉・鮎美(広瀬すず)が心配だと、松休みの間祖父母の家で過ごすことにする。
他方、美咲の許に同窓会の通知が届き、彼女のいないことを告げに同窓会に赴いた裕里は言い出すチャンスを与えられないまま帰途に就くが、作家になった鏡史郎(福山雅治)が彼女を追いかけ、声をかける。相手が自分のことが書かれたはずの小説について何も知らず、密かに作家はその正体を疑うが、何も訊かずに名刺を渡す。
夫にスマホを壊されてしまった裕里は美咲のふりをして手紙を書く。彼女が住所を伏せた為に彼はかつて訪れたこともある実家に手紙を書き、鮎美と颯香の二人が面白がって美咲のふりをして返事をする。
「Love Letter」では同姓同名の別人に手紙が届くという趣向であったが、こちらは一人の人物を騙る(笑)二組から手紙を届くという趣向。
その現在に随時彼女たちが高校生の頃の物語が挿入され、転校生だった鏡史郎君(神木隆之介)が生物部の後輩裕里(森七菜二役)に生徒会長の姉美咲(広瀬すず二役)あてのラブレターを託すお話が繰り広げられる。
裕里は鏡史郎君に恋しており、暫し手紙を渡さずにいたものの、最終的に姉に渡す時に自分の恋心を打ち明け、姉から励まされて彼に告白の手紙を渡す。結局高校時代にこの三組の間で何も起こらないのだが、大学時代に鏡史郎は美咲を謎の先輩陽市(豊川悦司)と駆け落ちされ、その彼女が不幸な結果に終わったことを妹の正体を明かした裕里に教えられる。
廃校となった懐かしい高校校舎を訪れた作家は、偶然にも過去にタイムトリップする感さえ覚えさせる母親たちにそっくりな鮎美と颯香と遭遇し、実家に美咲を弔う。母親をずっと愛してきた作家と交流し、二人の少女たちも各々苦悩を秘めた現実を直視することができ、作家も一歩前進することができる。
未見の方のために梗概を書くのは途中までで止めようと思ったが、余りの余韻に気持ちを揺さぶられて、結局最後まで書いてしまった。
謎の男・陽市は自堕落で暴力傾向があるが、そんな男にも美咲のような優等生が惚れてしまうことはある。会社の後輩で実に仕事できる女性が、こんなことを言っては何だか、つまらない男と結婚して吃驚した。案の定かなり不幸な目に遭ったものの、シングルマザーになった彼女は三人の子供を育てながら大学で臨時講師を務め、20年ほど前から一人で会社を経営している。彼女は最初から他の同僚女性と違うと思った僕の洞察は見事に当たった。
閑話休題。
ダメな男には救いがたい悪人がいることも確かだが、陽市の場合は本人が本人に苛立っているところがあり、同情の余地があるような気がするが、それ以前に美咲は鏡史郎のような紳士に何故傾かなったかねえ。或いは、彼が精神的に疲弊した美咲を訪れるのが遅かったという娘・鮎美の実感もよく理解でき、切なくなる。
それでも、この映画の登場人物たちは経験を生かすだけの逞しさと頭の良さを持っていて、前進する。かくして、切ないロマンスであると共に、爽やかな気持ちに元気づけられ見終えることができる次第。邦画でここまで満足したのは3年ぶりくらいだろうか。
僕は、中学を卒業して4年後、大学生になり立ての頃に、初恋の女性に手紙を書いたことがある。ラブレターの体裁にはしなかったが、彼女も突然昔の同級生から手紙が来て吃驚しただろう。すずちゃんを見ると、必ず彼女を思い出す。
2020年日本映画 監督・岩井俊二
ネタバレあり
「Love Letter」(1995年)でも我々ロマンティストを感激させた岩井俊二監督が、似た趣向を以ってまたも感激させてくれた。大衆的だが通俗に陥っていない。ロマンティックだが甘すぎない。この手をお話を作る時の岩井監督は好きである。
男女二人の子供を持つ中年主婦・裕里(松たか子)が、実家で行われる姉・美咲の葬儀に出る。娘・颯香(森七菜)は従姉・鮎美(広瀬すず)が心配だと、松休みの間祖父母の家で過ごすことにする。
他方、美咲の許に同窓会の通知が届き、彼女のいないことを告げに同窓会に赴いた裕里は言い出すチャンスを与えられないまま帰途に就くが、作家になった鏡史郎(福山雅治)が彼女を追いかけ、声をかける。相手が自分のことが書かれたはずの小説について何も知らず、密かに作家はその正体を疑うが、何も訊かずに名刺を渡す。
夫にスマホを壊されてしまった裕里は美咲のふりをして手紙を書く。彼女が住所を伏せた為に彼はかつて訪れたこともある実家に手紙を書き、鮎美と颯香の二人が面白がって美咲のふりをして返事をする。
「Love Letter」では同姓同名の別人に手紙が届くという趣向であったが、こちらは一人の人物を騙る(笑)二組から手紙を届くという趣向。
その現在に随時彼女たちが高校生の頃の物語が挿入され、転校生だった鏡史郎君(神木隆之介)が生物部の後輩裕里(森七菜二役)に生徒会長の姉美咲(広瀬すず二役)あてのラブレターを託すお話が繰り広げられる。
裕里は鏡史郎君に恋しており、暫し手紙を渡さずにいたものの、最終的に姉に渡す時に自分の恋心を打ち明け、姉から励まされて彼に告白の手紙を渡す。結局高校時代にこの三組の間で何も起こらないのだが、大学時代に鏡史郎は美咲を謎の先輩陽市(豊川悦司)と駆け落ちされ、その彼女が不幸な結果に終わったことを妹の正体を明かした裕里に教えられる。
廃校となった懐かしい高校校舎を訪れた作家は、偶然にも過去にタイムトリップする感さえ覚えさせる母親たちにそっくりな鮎美と颯香と遭遇し、実家に美咲を弔う。母親をずっと愛してきた作家と交流し、二人の少女たちも各々苦悩を秘めた現実を直視することができ、作家も一歩前進することができる。
未見の方のために梗概を書くのは途中までで止めようと思ったが、余りの余韻に気持ちを揺さぶられて、結局最後まで書いてしまった。
謎の男・陽市は自堕落で暴力傾向があるが、そんな男にも美咲のような優等生が惚れてしまうことはある。会社の後輩で実に仕事できる女性が、こんなことを言っては何だか、つまらない男と結婚して吃驚した。案の定かなり不幸な目に遭ったものの、シングルマザーになった彼女は三人の子供を育てながら大学で臨時講師を務め、20年ほど前から一人で会社を経営している。彼女は最初から他の同僚女性と違うと思った僕の洞察は見事に当たった。
閑話休題。
ダメな男には救いがたい悪人がいることも確かだが、陽市の場合は本人が本人に苛立っているところがあり、同情の余地があるような気がするが、それ以前に美咲は鏡史郎のような紳士に何故傾かなったかねえ。或いは、彼が精神的に疲弊した美咲を訪れるのが遅かったという娘・鮎美の実感もよく理解でき、切なくなる。
それでも、この映画の登場人物たちは経験を生かすだけの逞しさと頭の良さを持っていて、前進する。かくして、切ないロマンスであると共に、爽やかな気持ちに元気づけられ見終えることができる次第。邦画でここまで満足したのは3年ぶりくらいだろうか。
僕は、中学を卒業して4年後、大学生になり立ての頃に、初恋の女性に手紙を書いたことがある。ラブレターの体裁にはしなかったが、彼女も突然昔の同級生から手紙が来て吃驚しただろう。すずちゃんを見ると、必ず彼女を思い出す。
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