映画評「mellow」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・今泉力哉
ネタバレあり

今泉力哉監督は、初めて観た「愛がなんだ」がとにかくエリック・ロメールのようだったので、以来ロメール度を測って見るようになってしまった。今回は「愛がなんだ」程ではないが、「アイネクライネナハトムジーク」よりはロメールっぽい。時に「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984年)の頃のジム・ジャームッシュも感じさせると思って見ていたら、何と幕切れであの映画と同じく主役たちが飛行機を見送っていた。

東京。花屋さんの田中圭は小学生から中年女性まで店をご贔屓にしている女性たちにモテモテ、花を届けている女性ともさかりえからは夫君同席で告白されてしまう。それをたしなめたら夫君に怒られるという訳の解らないことになる。
 生意気にも女子中学生・志田彩良からも告白されるが、受けるべくもない。その彼女は中学ではこの花屋さんの状態で、女子の下級生からモテモテ(昔流行ったエスというやつですかな)。
 そんな花屋さんが先代の時から通っているラーメン屋があり、店を経営している先代の娘・岡崎紗枝に好意を覚えている。ある時彼女から店を畳んで海外留学をしようと思っていると告げられ、彼は生前先代に託された手紙を彼女に渡す。彼女も旅立つ決意を綴る手紙を彼に渡す。

Allcinemaに田中圭を狂言回しと解釈しているコメントがあるが、僕は少々違う意見を持っている。彼を巡って色々珍妙な発言をする女性たちは、結局、田中と岡崎紗枝の実は相思相愛の行方を、その言動を以って二人の心情を暗示、言動を予告・強化・補完する役目を負っているのだと思う。

この映画の通奏低音は “告げること” である。多くは恋心の告白であるが、リタイアや別離のこともある。
 田中が彼女に“知らずに辞められたら悲しむ人がいるから、店を畳むことを事前に通知したほうが良い”と言い、通知することが甘えに通じるという思いを禁じ得なかった彼女が漸くそれに応え、それと共に留学のため旅立つことを彼に告白する。その決意を知って彼は父親の手紙を彼女に渡し、彼女は父親によって彼が自分を好いているらしいことを知る。彼もまた彼女からの手紙で彼女が自分を好いていることを知る。

そこで幕切れの解釈が問題になる。彼女は留学するのか? 否であるような気がする。まず店を丹念に掃除している。そして空を飛ぶ飛行機を見上げ、「飛行機っ!」と言う。その前には花束を持った田中君がいる。これは見送る為の花束ではなく、彼女の告白に対する返礼ではないだろうか? 

いきなりラーメン屋での無名のカップルの隠微な心情が交錯する不思議な別れの切り出しから “告げること” が本作の通奏低音であると提示し、ロメールでもジャームッシュとも違う、エリック・ジャームッシュとでも言いたくなる独特の呼吸をもって、ほのぼのとした佳編に仕上げている。新しい才能の登場と言うべし。

岡崎紗枝も個人的には収穫。

棒読みが何だ!

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック