映画評「素敵なウソの恋まじない」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年イギリス映画 監督ダーブラ・ウォルシュ
ネタバレあり
ウソ映画が続くのは偶然です。
プライムビデオ無償鑑賞。他の人のコメントにあったロアルド・ダールという単語に反応して、vivajjijiさんが紹介してくれたTV映画です。ご紹介有難うございました。
子供の頃こんな歌を歌っていた。“しもしも めか よ めか んさ よ いかせ の でちう えまお どほ”という歌詞でござる。つまり、「うさぎとかめ(もしもしかめよ)の歌詞を単語ごとに逆様にして歌っていたのだ。勿論僕の発明ではなく、流行していたのを憶えた。
驚いたことに、この作品の原作となった、ロアルド・ダールの児童小説は、僕らがやったことと同じ発想でカメさんの呪文を拵え出した。それが解っただけでも観た甲斐があります(笑)。
舞台は英国。
そこそこ高級なアパートに住んでいる老人ダスティン・ホフマンが、階下に越して来た老婦人ジュディ・デンチに一目惚れする。彼女が飼い始めたカメが一向に大きくならないので心配しているのを知り、カメが大きくなれば彼女は幸福になり、それに協力すれば自分の恋も実るかもしれないと考え、大きくなる嘘のまじないを教える。それを現実にする為にカメを同種の別のカメと一日おきに替えることを実行に移す。
すっかり信じ切った彼女だが、彼の横に住んでいる老人リチャード・コーダリーに恋を奪われそうになり、ホフマン老はがっかり。しかも好きな人に嘘がばれてしまう。
彼女を幸福にする為彼はすっかり利他的になっているので、引越しを考えた時に彼女の部屋の前に鉢植えを置いてくる。間もなく彼女は、彼が置いてきた鉢を手に部屋を訪問し、意外なことを打ち明ける。彼女も彼が最初から好きだったのだ。めでたしめでたし。
彼らより一回り以上若いが、それでも老人と言われる年齢層に入って来た僕は、もはや青春映画より老人の映画にぐっと来ることが多い。勿論作り方次第であるが、英国は映画だけなくTVも趣味が良い。上品な佇まいで勝負するなら英国に敵う製作国はないと思う。
リチャード・カーティスはご贔屓の脚本家(監督もする)で、後味の良いロマンスものを書いてきているが、単独作ではないものの、本作の感触は過去の映画群を凌ぐと言っても良いくらい。
ホフマン氏は実に日本人的な人物で、西洋では珍しく自分から謝るタイプ。幸福を求める自分の願いが叶わないと思っても好きな女性の幸福を願い、利他に傾いていく。そうした人物だからジュディも心惹かれたのに違いない。最後の急展開は、彼女の彼への季節が変わる度の挨拶が伏線のような効果を出している。
ナレーションを担当する隣人(ジェームズ・コーデン)が一々画面に現れるのが煩いが、それでも画面的に色々工夫している点に認めたいところがある。
建物の構造を生かした展開と見せ方は、言うまでもなく、良い。
ロアルド・ダールの作品だから、児童小説とは言え、潜在的に怖くて奇妙な部分もあるかもしれませんよ。しかし、こういう恋愛ものをつかまえて、サイコパスだのストーカーだのという単語を繰り出す人の、現在人特有の狭量はよくありませんな。そんな時代だから、他人様の子供に安易に声もかけられない。
2015年イギリス映画 監督ダーブラ・ウォルシュ
ネタバレあり
ウソ映画が続くのは偶然です。
プライムビデオ無償鑑賞。他の人のコメントにあったロアルド・ダールという単語に反応して、vivajjijiさんが紹介してくれたTV映画です。ご紹介有難うございました。
子供の頃こんな歌を歌っていた。“しもしも めか よ めか んさ よ いかせ の でちう えまお どほ”という歌詞でござる。つまり、「うさぎとかめ(もしもしかめよ)の歌詞を単語ごとに逆様にして歌っていたのだ。勿論僕の発明ではなく、流行していたのを憶えた。
驚いたことに、この作品の原作となった、ロアルド・ダールの児童小説は、僕らがやったことと同じ発想でカメさんの呪文を拵え出した。それが解っただけでも観た甲斐があります(笑)。
舞台は英国。
そこそこ高級なアパートに住んでいる老人ダスティン・ホフマンが、階下に越して来た老婦人ジュディ・デンチに一目惚れする。彼女が飼い始めたカメが一向に大きくならないので心配しているのを知り、カメが大きくなれば彼女は幸福になり、それに協力すれば自分の恋も実るかもしれないと考え、大きくなる嘘のまじないを教える。それを現実にする為にカメを同種の別のカメと一日おきに替えることを実行に移す。
すっかり信じ切った彼女だが、彼の横に住んでいる老人リチャード・コーダリーに恋を奪われそうになり、ホフマン老はがっかり。しかも好きな人に嘘がばれてしまう。
彼女を幸福にする為彼はすっかり利他的になっているので、引越しを考えた時に彼女の部屋の前に鉢植えを置いてくる。間もなく彼女は、彼が置いてきた鉢を手に部屋を訪問し、意外なことを打ち明ける。彼女も彼が最初から好きだったのだ。めでたしめでたし。
彼らより一回り以上若いが、それでも老人と言われる年齢層に入って来た僕は、もはや青春映画より老人の映画にぐっと来ることが多い。勿論作り方次第であるが、英国は映画だけなくTVも趣味が良い。上品な佇まいで勝負するなら英国に敵う製作国はないと思う。
リチャード・カーティスはご贔屓の脚本家(監督もする)で、後味の良いロマンスものを書いてきているが、単独作ではないものの、本作の感触は過去の映画群を凌ぐと言っても良いくらい。
ホフマン氏は実に日本人的な人物で、西洋では珍しく自分から謝るタイプ。幸福を求める自分の願いが叶わないと思っても好きな女性の幸福を願い、利他に傾いていく。そうした人物だからジュディも心惹かれたのに違いない。最後の急展開は、彼女の彼への季節が変わる度の挨拶が伏線のような効果を出している。
ナレーションを担当する隣人(ジェームズ・コーデン)が一々画面に現れるのが煩いが、それでも画面的に色々工夫している点に認めたいところがある。
建物の構造を生かした展開と見せ方は、言うまでもなく、良い。
ロアルド・ダールの作品だから、児童小説とは言え、潜在的に怖くて奇妙な部分もあるかもしれませんよ。しかし、こういう恋愛ものをつかまえて、サイコパスだのストーカーだのという単語を繰り出す人の、現在人特有の狭量はよくありませんな。そんな時代だから、他人様の子供に安易に声もかけられない。
この記事へのコメント
私も便乗鑑賞させてもらいました。
シリアスな映画で疲れた時にちょうどいい箸休めになりました。
主役の御両人も「たまにはこんなのもいいわね」と言ってそうな余裕の雰囲気を感じました。
>彼の横に住んでいる老人リチャード・コーダリー
このおっさんがダールの子供向けお話によく出てくる自己中キャラでしたね。 「チョコレート工場の秘密」みたいに最後にお仕置きはされませんでしたけど(笑)
子供の頃って自分の名前や友達の名前を後ろから読んで面白がっていましたね。 逆読みは「アマデウス」でモーツァルトもやってました。万国共通ですか・・
嘘といえば、マイク・リーの「秘密と嘘」の評がまだですよね? 検索では出てこなかったのですが・・・
私といたしましてはこれはかなり重要な作品なものですから気になります・・・ 最近色々せっついてすいません。(笑)
>ホフマン氏は実に日本人的な人物で
言い当ててらっしゃる。
余りに気弱でどうなることやらと。
最後は思いが成就してめでたしめでたし。
ホフマンつながりで同じくプライムに
ありました1995米「アウトブレイク」も再見しましたら
劇中、あの美女レネ・ルッソ、ホフマン氏に
「あなたの顔、好きよ」って言うシーンが
ありまして、「こんな不釣り合いな配役・・」と
観ていた三等外野席の私はかなり当惑。
好き好み、男女の相性、いかでか摩訶不思議。(笑)
おっと、今度は「秘密と嘘」ですね。
記事、ありませんでしたか?
あれは優秀作です。
また観たくなりました。^^
>主役の御両人も「たまにはこんなのもいいわね」と言ってそうな余裕の雰囲気
TV映画ではありますし、大作も多いベテランの二人にとっては、力を抜いて演技を楽しんだ作品かもしれませんね。
>逆読みは「アマデウス」でモーツァルトもやってました。万国共通ですか
あれは奇人ぶりと、彼の知能の高さを示す場面でしたかね?
>嘘といえば、マイク・リーの「秘密と嘘」の評がまだですよね?
これだけ多いと自分でも定かではないですが、ブログを始める何年も前に観たきりと思いますので、出していないでしょう。マイ・ライブラリーにはないですが、図書館にDVDがあるようなので、何とかなるでしょう^^
結構長いのが難点のど飴ですが(笑)
>早速のご鑑賞と紹介記事ありがとうございます。
どうしたしまして。vivajijiさんのご紹介ならまず安全パイ。観て後悔するようなことは絶対ないと確信して、観ました。こちらこそ有難うございました。
>1995米「アウトブレイク」
>あの美女レネ・ルッソ、ホフマン氏に「あなたの顔、好きよ」
>好き好み、男女の相性、いかでか摩訶不思議。(笑)
蓼食う虫も好き好きですからねえ。
しかし、僕も、鼻を別にするとホフマンの顔は結構行けていると思います。
>今度は「秘密と嘘」ですね。記事、ありませんでしたか?
最初にして最後の鑑賞のタイミングからして、記事は書いていないみたいです。図書館にDVDがありますが、ちょっと長尺なので、少し時間がかかるかもしれません。
>ダスティン・ホフマンの顔は結構いけてる
「トッツィー」の彼は、凄く妖艶!でしたものねぇ・・。
女装した男にありがちのケバさが無いのですよね、ホフマンは。確かに鼻はデカいが・・。
>「秘密と嘘」
ホンを書かないですべて現場で作品を作り上げるマイク・リーの作品は、役者の自然な演技が売りですが、ある意味、是枝裕和にも通じるところがありますね。
切り口がもっと辛辣なので、ロメールやバームバックに近いかもしれないですが・・。
『人生、時々晴れ』『ヴィラ・ドレイク』『ハッピー・ゴー・ラッキー』『家族の庭』と観ていますが、中で、「秘密と嘘」が抜きんでていると・・。
最後の暴露大会に鳥肌が立った(笑)ことを覚えています。
ただ、観終わった後味は良い・・。
人の心って、案外、強いのですよね。
アマデウス
>あれは奇人ぶりと、彼の知能の高さを示す場面でしたかね?
そういえばさすがに最近は観ていませんが、一時期やたらと観ていまして(私は気に入ったものをしつこく観るタイプです)憶えていますよ。
あれはモーツァルト(WAM) が最初に画面に登場するシーンで、演奏会場の屋敷で甘党のサリエリがケーキにつられて忍び込んだ部屋にコンスタンツェ(CM)が飛び込んできて続いてモーツァルトが駆け込んできまして、「コンスタンツェ、見ぃつけたぁ~」となった後のセリフでした。
確か「お尻にキスしろ」とか、しょーもなくて卑猥なことを口走りますが、逆読みなので
CM 「ウォルフィー、何言うてんのかわからへん」
WAM「反対読みすんねん」
CM 「もぉ~ウォルフィーのおばか~」会話の合間にWAM高笑いと馬鹿笑いを連発・・・知らん人が見たら典型的バカップルで、そのあと逆読みでプロポーズして一件落着。
そこに作曲者を待ちきれずに始まった演奏が聞こえてきて、WAM,「先に始めよった~」とドタバタ走って行きまして、物陰からバカップルの一部始終を見ていたサリエリが「そんなアホな・・あれが?まさか?モーツァルトか?」と茫然自失状態。
以上、思い出されましたでしょうか? (笑)
「秘密と嘘」約2名の賛同者を得てつい調子に乗ってしまいました。
>ホンを書かないですべて現場で作品を作り上げるマイク・リー
経験則から言って、即興演出には買えない場合が結構あるのですが、マイク・リーは自然さを求める不自然さがなかったという記憶がありますし。
枝裕和監督は初期のセミ・ドキュメンタリーから一段と深い境地に入ったと思っていて、実に自然です。内容ばかり注目されますが、彼は演技指導が優れていますね。
エリック・ロメールやノア・パームバックはまた彼ら独自のスタイルがありますが、是枝監督より近いかな? ロメールはフランスのウディ―・アレンと僕は言っていますが(笑)
ロメールのほうが先輩ですが。
>「秘密と嘘」が抜きんでていると・・。
連続して観たわけではないですが、観た時の印象では、僕もそう思います。
>以上、思い出されましたでしょうか? (笑)
思い出しましたよ^^
才能と人間性が一致しないことにサリエリがショックを受ける。
しかし、即興的に(恐らく)逆さ読みが出来るモーツァルトは頭は、やはり並の人間ではないのでした。それ以上に初めて聞いた長い曲を記憶してしまうというのが凄いのだけれど