映画評「月曜日のユカ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1964年日本映画 監督・中平康
ネタバレあり
ブログを始める何年か前に観ている。
Allcinemaにあるコメントの通り、「狂った果実」(1956年)でヌーヴェル・ヴァーグに影響を与えたとあれる中平康監督が、成熟したヌーヴェル・ヴァーグから逆輸入したような感覚が爆発、大いに楽しめる。原作者の安川実はミッキー安川のこと。しかし、お話に拘ってはいけない作品である。
天真爛漫な妙齢美人・加賀まりこ(役名ユカ)は、貿易会社を経営する加藤武をパトロンに持つと同時に、同世代の若者・中尾彬とも交際している。それ以前には奇術師とも関係があったようで、男性経験は奔放だが、この手の映画に出て来るプロの女性によくある(今月観た別の作品でも遭遇したが、どの作品だったかもう解らん)ように、キスはご法度。
商売に行き詰まった加藤が取引条件に応じて横浜に停泊中の船長に彼女を貸し出す。キスをされたので逃げ出した彼女は埠頭で加藤を踊りに誘うが、弾みで彼は海に落ちる。彼女はパトロンをそのまま放置して町に向かう。
その前に事故で死んだ中尾や自分に変なことを強要した彼への復讐なのかもしれないが、オードリー・ヘプバーンの映画に似てこれもまた町の妖精を描いた一種のファンタジーだから、ユカこと加賀まりこの様々な表情を楽しむのが一番である。
多分日本では1963年に公開されたアニエス・ヴァルダ監督「5時から7時までのクレオ」(1961年)を意識した作品で、あの映画と同じようにサイレント映画的部分が出て来る。ヴァルダがクレオを徹底的に描いたように、こちらもこれでもかとばかりにユカを出して来る。その為に中尾彬が語っている時に切り返しなしに延々と加賀まりこを撮り続けるショットもある。
ここに限らず、本作はストップモーションもしくは動きの少ない固定ショットにフレーム外の声を載せるショットが目立つ。その他にも、ジャンプ・カットをディゾルブで処理する、時間経過に関わる二つの技法を組み合わせたような見せ方が何か所かあるのも注目に値する。ゴダール的感覚とも言えるが、この組合せは中平監督のアイデアだろうか?
いずれにしても感覚と呼吸が非常に楽しめ、技法で見るなら彼の作品群の中でもトップクラスの面白さ。
この作品をヒロインへの共感で評価しますか、はぁ。
「日曜から月曜までのユカ」ですな。
1964年日本映画 監督・中平康
ネタバレあり
ブログを始める何年か前に観ている。
Allcinemaにあるコメントの通り、「狂った果実」(1956年)でヌーヴェル・ヴァーグに影響を与えたとあれる中平康監督が、成熟したヌーヴェル・ヴァーグから逆輸入したような感覚が爆発、大いに楽しめる。原作者の安川実はミッキー安川のこと。しかし、お話に拘ってはいけない作品である。
天真爛漫な妙齢美人・加賀まりこ(役名ユカ)は、貿易会社を経営する加藤武をパトロンに持つと同時に、同世代の若者・中尾彬とも交際している。それ以前には奇術師とも関係があったようで、男性経験は奔放だが、この手の映画に出て来るプロの女性によくある(今月観た別の作品でも遭遇したが、どの作品だったかもう解らん)ように、キスはご法度。
商売に行き詰まった加藤が取引条件に応じて横浜に停泊中の船長に彼女を貸し出す。キスをされたので逃げ出した彼女は埠頭で加藤を踊りに誘うが、弾みで彼は海に落ちる。彼女はパトロンをそのまま放置して町に向かう。
その前に事故で死んだ中尾や自分に変なことを強要した彼への復讐なのかもしれないが、オードリー・ヘプバーンの映画に似てこれもまた町の妖精を描いた一種のファンタジーだから、ユカこと加賀まりこの様々な表情を楽しむのが一番である。
多分日本では1963年に公開されたアニエス・ヴァルダ監督「5時から7時までのクレオ」(1961年)を意識した作品で、あの映画と同じようにサイレント映画的部分が出て来る。ヴァルダがクレオを徹底的に描いたように、こちらもこれでもかとばかりにユカを出して来る。その為に中尾彬が語っている時に切り返しなしに延々と加賀まりこを撮り続けるショットもある。
ここに限らず、本作はストップモーションもしくは動きの少ない固定ショットにフレーム外の声を載せるショットが目立つ。その他にも、ジャンプ・カットをディゾルブで処理する、時間経過に関わる二つの技法を組み合わせたような見せ方が何か所かあるのも注目に値する。ゴダール的感覚とも言えるが、この組合せは中平監督のアイデアだろうか?
いずれにしても感覚と呼吸が非常に楽しめ、技法で見るなら彼の作品群の中でもトップクラスの面白さ。
この作品をヒロインへの共感で評価しますか、はぁ。
「日曜から月曜までのユカ」ですな。
この記事へのコメント
これはまた懐かしい映画です! ってリアルタイムではポスターしか見てませんけどね。 覚えてますよ、あのポスターは。しかしこんな内容だとは想像もしませんでしたけど。 性的な匂いは観じましたが、もうちょっとシリアス系かと思ってました。
しかしあのポスターの加賀まりこの姿とタイトルはインパクトありましたね。
今でこそユカちゃんなんて普通の名前ですけれど、当時片仮名でユカって、私は聖書に出てくるヨナなんかを連想しましたよ。 月曜日っていうのも何じゃらほい、でしたし。
何年か前に初めて見た時は、初期村上春樹に出てくる「誰とでも寝る女の子」を連想しましたけどね。 (笑)
加賀まりこのポスターの写真は素敵でしたが、今映像で見るとキュートですがガキっぽくって色気ないな… と 思いましたが…
>今でこそユカちゃんなんて普通の名前ですけれど
そうですね。カタカナの名前なんて純日本人につける親はいなかった。
僕の社会人二年目にリリ(理里)ちゃんという娘が入って来た時何ちゅう名前だと思いました。その妹が確かジュリ(樹里)でした。当時バレーボールの人気選手に横山樹里という同名の選手がいましたが、珍しい親だと思いましたね。
何故かそのリリちゃんは、京都の富豪(会社令息)と結婚したそうです。モカさん、知っているモカよ(笑)
>今映像で見るとキュートですがガキっぽくって色気ないな… と 思いましたが…
I agree with you です。
富豪には縁のない、最近たこ焼き屋でも始めるかと思案しているモカ婆です。(半分嘘です。)
この映画は確かに「クレオ」ですね。そこに少し「地下鉄のザジ」風味の毒が入っている感じですか。
見る人によったらユカは終戦後の日本人或いは日本の政治の節制のなさ?の象徴なのかな、と思いました。 私は全然思いませんけどそんな感じがしなくもない・・・北林谷栄の登場シーンだけが妙に戦後感があるような・・・1964年、「もはや戦後ではない」ですか。東京オリンピックの年ですものね。
余談ですが西暦を初めて意識したのが1961年でした。上下ひっくり返しても1961という・・ (笑)
>「地下鉄のザジ」風味の毒
大昔に観たきりですが、前回録画した時例の3・11があり、関連の速報や情報で見られたものではなくなった苦い経験あり。頭に来たので結局観なかった。
そうか、「埠頭のユカ」でもありましたか(笑)
>見る人によったらユカは終戦後の日本人或いは日本の政治の節制のなさ?の象徴なのかな
そうかもしれないけど、僕も確信できません。少なくともミッキー安川はともかく、技巧派中平はそんな意識はなかったのではないでしょうか。
「地下鉄のザジ」は中学生の頃例のテレビ名画座?で観ましたが、それはもう!カルチャーショックでしたよ。
名画座で憶えているのは「道」とか「自転車泥棒」とか「灰とダイヤモンド」とかで、その中に混じっていたのでこんなポップな世界観の映画があるんだとびっくりしました。
後年淀川長治の「実は怖い映画なんだ」との言葉でしっかり見直したら、確かに・・・なるほど! でした。
中坊の頃はムール貝を食べるシーンを面白がっていましたが実はあの場面のザジのお喋りこそがヤバかったんですね。
観たくなりましたでしょう?
ユカを書いたらザジも書かないと (笑)
>「地下鉄のザジ」
初めて観たのは、やはり東京中を駆けずり回っていた頃のどこかでです。映画館でないところだとは思いますが、正確に記憶しておりません。
>淀川長治の「実は怖い映画なんだ」との言葉
あの人の勘は凄まじいからなあ。ムール貝云々ですね ( ..)φメモメモ
家のライブラリーにはなさそうですが、図書館にありました。色々と溜まってきました。何とか処理しないと^^;