映画評「ブルーノート・レコード ジャズを超えて」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年スイス映画 監督ソフィー・フーバー
ネタバレあり
中学から高校にかけて「FMレコパル」「サウンド・レコパル」に触れるうちに向上心が芽生えて、ジャズも聴いてみたいと思った。音楽やオーディオ初心者向けのこれらの雑誌でも紹介されていた名盤の呼び声高いソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」とジャケットがクールな(笑)ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」を大学生になるや否や買った。
その後ハービー・ハンコック「処女航海」、ジョン・コルトレーン「ブルー・トレイン」、エリック・ドルフィー「アウト・トゥ・ランチ」辺りをブラック・ディスクで買った(CDが出るのは数年後)。プレスティッジのロリンズを別にすれば、50年代後半から60年代前半にかけての最盛期ブルーノートの名盤である。僕が好きなのはバップ(ビパップ)からハード・バップくらいまでで、アヴァンギャルドの「アウト・トゥ・ランチ」になると殆どお手上げ状態だった。しかし、また最近CDで聴き込んだところ、演奏の熱を少し理解できたような気がする。
本作は、この程度のジャズ初心者である僕にうってつけの音楽ドキュメンタリーである。初心者と言っても演奏者の名前をある程度知らないと退屈するかもしれない。当方は、レコードガイド的な本は色々持っているので、本作にジャケットが出て来るアルバムもしくはその演奏者は大体知っている。
1930年代末期ドイツからアメリカに移住したアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフがレーベルを起こしたという紹介に続き、戦後セロニアス・モンクが新しいサウンドを生み出してブルーノートはジャズのメジャー・レーベルとなり、50年代~60年代を席巻する名演奏家と契約する。さらに、僕が名前しか知らないホレス・シルヴァーがファンクのひな型を作り、ここからブルーノートというかモダン・ジャズは劇的に変わっていくらしい。
2000年代以降契約した若い演奏家は全く知らないが、ウェイン・ショーター(ウェザー・リポート時代の5枚を持っている)とハンコックが昔の逸話を語る為に出て来る。二人とも年齢を考えると相当若々しい。撮影時90歳を超えていたルー・ロナルドソンは年相応といった感じで、このサクソフォン奏者もこれから勉強する対象(昨日4枚ほどYouTubeで聞いたが、相当面白かった)。
自分の実家をスタジオとして提供していたサウンド・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーが語る逸話も面白いが、名ジャケットの多いブルーノートだけに、写真を撮ったウルフ御大とジャケット担当のリード・マイルズに関する証言が楽しい。大量のジャケットが紹介され、見事なアートになっている。
CDよりレコードが断然良いとしたら、僕はジャケットの大きさだと思う。
レコードは音質について高い評価を得て近年なかなか人気だが、スクラッチ・ノイズは避けられず、プリエコー/ポストエコーが気になるものも少なくない。上述した「アウト・トゥ・ランチ」が楽しめなかったのは、突然大きな音が出る前に同じ音が先に小さく聞こえ興醒めしたということもあると思う。ビートルズの「アビイ・ロード」ではポストエコーが気になるところがあった。
マスキングされて耳に聞えないだけでそうしたエコーが常時本当の音にかぶさっているわけで、それが音の良さとして聞こえているとしたら問題である。それと良いプレーヤーとカートリッジが必要で、特に程度の低いカートリッジで聞いても全く良い音がしない。コストも手間もかかるのだ。
我が家も幾つもカートリッジを買ったが、断然素晴らしかったのはビクターのX-1である。当時兄貴の月給の半分くらいの値段だったが、それ以上の価値はあったと思う。オートバイ雑誌に付いていたソノシートのバイクの音がまるで本物に聞えた。その代わり針が繊細過ぎてホコリに弱く、アルバムの片面を聞くたびに熱で固着したホコリを薬剤で落としていた。それが面倒で、やがて多少落ちるが、オーディオテクニカやシュアのカートリッジで聴くようになったのだった。
2018年スイス映画 監督ソフィー・フーバー
ネタバレあり
中学から高校にかけて「FMレコパル」「サウンド・レコパル」に触れるうちに向上心が芽生えて、ジャズも聴いてみたいと思った。音楽やオーディオ初心者向けのこれらの雑誌でも紹介されていた名盤の呼び声高いソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」とジャケットがクールな(笑)ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」を大学生になるや否や買った。
その後ハービー・ハンコック「処女航海」、ジョン・コルトレーン「ブルー・トレイン」、エリック・ドルフィー「アウト・トゥ・ランチ」辺りをブラック・ディスクで買った(CDが出るのは数年後)。プレスティッジのロリンズを別にすれば、50年代後半から60年代前半にかけての最盛期ブルーノートの名盤である。僕が好きなのはバップ(ビパップ)からハード・バップくらいまでで、アヴァンギャルドの「アウト・トゥ・ランチ」になると殆どお手上げ状態だった。しかし、また最近CDで聴き込んだところ、演奏の熱を少し理解できたような気がする。
本作は、この程度のジャズ初心者である僕にうってつけの音楽ドキュメンタリーである。初心者と言っても演奏者の名前をある程度知らないと退屈するかもしれない。当方は、レコードガイド的な本は色々持っているので、本作にジャケットが出て来るアルバムもしくはその演奏者は大体知っている。
1930年代末期ドイツからアメリカに移住したアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフがレーベルを起こしたという紹介に続き、戦後セロニアス・モンクが新しいサウンドを生み出してブルーノートはジャズのメジャー・レーベルとなり、50年代~60年代を席巻する名演奏家と契約する。さらに、僕が名前しか知らないホレス・シルヴァーがファンクのひな型を作り、ここからブルーノートというかモダン・ジャズは劇的に変わっていくらしい。
2000年代以降契約した若い演奏家は全く知らないが、ウェイン・ショーター(ウェザー・リポート時代の5枚を持っている)とハンコックが昔の逸話を語る為に出て来る。二人とも年齢を考えると相当若々しい。撮影時90歳を超えていたルー・ロナルドソンは年相応といった感じで、このサクソフォン奏者もこれから勉強する対象(昨日4枚ほどYouTubeで聞いたが、相当面白かった)。
自分の実家をスタジオとして提供していたサウンド・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーが語る逸話も面白いが、名ジャケットの多いブルーノートだけに、写真を撮ったウルフ御大とジャケット担当のリード・マイルズに関する証言が楽しい。大量のジャケットが紹介され、見事なアートになっている。
CDよりレコードが断然良いとしたら、僕はジャケットの大きさだと思う。
レコードは音質について高い評価を得て近年なかなか人気だが、スクラッチ・ノイズは避けられず、プリエコー/ポストエコーが気になるものも少なくない。上述した「アウト・トゥ・ランチ」が楽しめなかったのは、突然大きな音が出る前に同じ音が先に小さく聞こえ興醒めしたということもあると思う。ビートルズの「アビイ・ロード」ではポストエコーが気になるところがあった。
マスキングされて耳に聞えないだけでそうしたエコーが常時本当の音にかぶさっているわけで、それが音の良さとして聞こえているとしたら問題である。それと良いプレーヤーとカートリッジが必要で、特に程度の低いカートリッジで聞いても全く良い音がしない。コストも手間もかかるのだ。
我が家も幾つもカートリッジを買ったが、断然素晴らしかったのはビクターのX-1である。当時兄貴の月給の半分くらいの値段だったが、それ以上の価値はあったと思う。オートバイ雑誌に付いていたソノシートのバイクの音がまるで本物に聞えた。その代わり針が繊細過ぎてホコリに弱く、アルバムの片面を聞くたびに熱で固着したホコリを薬剤で落としていた。それが面倒で、やがて多少落ちるが、オーディオテクニカやシュアのカートリッジで聴くようになったのだった。
この記事へのコメント
ブルーノートだけがジャズではないとは言うものの、やっぱりカッコいいですね! あのジャケットの写真は日常のリハーサルやなんかのスナップ写真を上手に利用していたんですね。いや〜知りませんでしたが、すごいですね。言われてみればコルトレーン なんか自然体だけれど現場の緊張感を漂わせていますね。
モンク好きとしてはセロニアスモンクの初期の映像が観られたのも儲け物でした。
ちなみにモカ家では何故かコルトレーン よりドルフィーが良いといのが通説になっております。今の所私は両方とも聞き込んでいないので、夫唱婦随?なんですが、そろそろ聴き込む時期になってきました。オーディオって機材の良し悪しは勿論大事ですが部屋の環境がかなり左右しますね。最近部屋を変えたら音響効果が驚くほど向上しまして、ジャズなんぞかけたら「ここはジャズ喫茶か?」状態です。やっぱり良い音で聴くとジャズは良いです。l
Out to lunch 真面目に1回半聴きました。おっしゃるようなエコーは聞きとれませんでしたがこのレコードの聴きにくさはエコー云々の問題ではないように思います。
うちにあるレコードは70年代の再発US盤です。
続きにドルフィーの At. The five spot を聴き出して3分後に邪魔が入り中断したままですが、これは良いです。万年初心者で50年たった私向きです。ジャズしてます。
ところでブラックレコードって何ですか?
ではドルフィーの続きを(本じゃあるまいし初めから聞き直しですが)聴くことにします。
先生もお持ちなら感想お聞かせ下さい。
>スナップ写真
センスの良い方が取るとスナップ写真も格好良いんですよね。リード・マイルズがそれを上手くトリミングして芸術にまでした、そんな感じ。
>モカ家では何故かコルトレーン よりドルフィーが良いといのが通説
ドルフィーは最初に聴いたのが「アウト・トゥ・ランチ」なので、コルトレーンのほうが好きですが、コルトレーンも「至上の愛」になるとピンと来ないです。
逆に、ドルフィーも「アウト・トゥ・ランチ」より前は多少大分聴きやすい。
聴く順番というのは大事ですね。
>オーディオって機材の良し悪しは勿論大事ですが部屋の環境がかなり左右しますね。
そうですねえ。
我がオーディオ・ルームは、フラッターエコーは出ないですが、総合すれば平均的な感じですかね。
>やっぱり良い音で聴くとジャズは良いです。
そう思います。バップ、ハード・バップは元来録音時の音が良いものが多いデスね。ドルフィーもかなり良い。
>レコードの聴きにくさはエコー云々の問題ではないように思います。
それ自体は解っておるのですが~(笑)
ただ、あのプリエコーが僕の聴く気を殺いだという事実があるんですよ。あのレコードはひどかったなあ。
>At. The five spot
>先生もお持ちなら感想お聞かせ下さい。
ドルフィーは「アウト」から始まるのは全部持っているのですが、これは持っておらんです。
YouTubeを使ってCDを作りコンポで聴こうと思いますが、相当バタバタしていてすぐには実行できない模様。ジャズはちゃんとしたシステムできちんと聴かんと評価できませんからねえ。お待ちください。
>ところでブラックレコードって何ですか?
あはは。間違えました^^;
わが業界では、CDが出来た時に従来のレコードをブラック・ディスクと呼ぶようになったわけですが、今日記事を書く時に、レコードにしようかブラック・ディスクにしようかと思っているうちに、その中間のブラック・レコードになってしまいました。
こっそり訂正しておきます(笑)
★ブラックレコード★
ただのレコードの事でしたか。そういえば初期ビートルズの日本盤は赤いレコードがありましたね。東芝は赤いレコードが多かったような… あれはセルロイドですか?
ジェファーソンエアプレインでカラーレコードっていうのがありますよ。綺麗なので娘が押しピンで壁に留めてました。(ヤフオクで10,000以上するみたいなので今は大事に保管しています)
ブルーノートのジャケデザインのカッコ良さこそがアメリカ的だとずっと思ってましたが、実はドイツ由来だったという… ある時、バウハウスのポスターを買って眺めていたらブルーノートのデザインのルーツはこれだと確信しました。
>東芝は赤いレコードが多かったような
ビートルズのは知らないですが、東芝の赤いレコードは記憶にあります。
近所にレコードを売りに来た輩から買ったのが、東芝が歌謡曲をインストルメンタル化した赤いLPでした。父親は、(例えばレコード会社に勤めるなどしていた人間が)ネコババしたレコードを売りに来たんだろうと推測していました(また来ると言って二度と来なかったので)。
>ブルーノートのジャケデザインのカッコ良さこそがアメリカ的だと
>ずっと思ってましたが、実はドイツ由来だったという…
ブルーノートのジャケット・デザインは硬質な印象を受けないでもないので、ドイツ的硬質なのかなとも思ったりします。
>バウハウスのポスター
ロック・バンドにバウハウスというのがいますよ。
ドイツのバウハウスから名前を戴いたみたいです。
薬売りならぬレコード売りがやってきたなんて面白いですね!
家のレコード棚を引っかき回してみましたが、意外とブルーノートが少なかったです。 verveのジャケットによく描いていたデヴィッド ストーン マーチンのイラストも好きで、こちらはチャーリーパーカーやら何やらで結構ありました。
ジャケットが良いと中身も1割増? でもウェイン ショーターのspeak no evilのようにデザインはいいんだけれど手に取ってもレコード盤を出す気にならない物もあって…
あの写真がちょっと不気味です。
アマゾンでドルフィーを検索していて面白いレビューに出会いました。
live at the five spot vol.1 で渋谷氏の「天才は早死にする」というタイトルです。
前衛ジャズへの言及なんですが、アルバートアイラーなんて誉めてるのか貶してるのか分かりませんが「言えてる〜」と大笑い。コルトレーン の事も我が家の低レベルな会話でよく出てくるコルトレーン 観と同じでこれまた大笑いでした。
アマゾンついでに読んでみて下さい。
>デヴィッド ストーン マーチン
初めて聞くお名前。勉強になります。ジャズのジャケットは本当に楽しいですね。
ロックのジャケットは「ラバー・ソウル」くらいから面白くなってきましたか? もっと前にも良いものはありますが、概ね平凡。
>ウェイン ショーターのspeak no evil
ジャケットは気持ち悪いですね、日本のホラー映画「リング」みたい(笑)
今YouTubeで聴きながら書いていますが、ウェザー・リポートよりはピンと来ます。何枚ももっていながらこんなことを言うのは何ですが、僕にはウェザー・リポートはさっぱり解りましぇん。
>アルバートアイラー
読みましたよ。
自由自在に生み出しているという表現は、実際にYouTubeで彼の代表作を聴いたところ、解るような気もしました。
ただ、アヴァンギャルドすぎて音楽自体はよく解りませんが。