映画評「ミッドナイトスワン」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・内田英治
ネタバレあり
トランスジェンダーと性同一性障害は別物らしいが、僕にはよくその違いが解らない。本作にはどちらの単語も出て来ないが、映画サイトでの紹介では主人公はトランスジェンダーとあり、本編を見ると本人は性同一性障害に苦しんでいる。本作は区別していないということになろうか?
東京のゲイクラブに勤めている主人公(草彅剛)は源氏名を凪沙というが、ある時、中学生になる従妹(水川あさみ)の娘・一果(服部樹咲)の世話をすることになる。従妹が水商売にかまけて娘の世話を放置したからである。
広島からやって来た少女は、女装の伯父さん(厳密には伯父ではないけれど)を胡散臭そうな目で眺める。伯父さんのほうも無口で感情を表に出さない少女に好感を持たず、相性の悪さは抜群である。
しかし、少女が風俗的なバイトをしてまで稼いだ金を注いだバレエの才能に恵まれていることを知り、凪沙は昼間運送業の務めを始めて資金を稼ごうとする。彼もしくは彼女が気持ちとして彼女に急接近をするのは、クラブでその踊りを観てからである。
個人的にはこの一エピソードだけで終わらせたのは物足らず、もう一つか二つエピソードを重ねて接近の経緯をはっきりさせたほうが良かったと思う。
親友となったバレエ仲間の同級生りんの悲劇に並行して、一果がコンクールで失敗するシークエンスが描かれる。ここで登場した母親が結局娘を広島に連れ帰るが、非行少年たちと付き合わせるなどやはり娘に碌な生活を送らせない。凪沙はそのままの姿で実家に現れるが、一果を連れ帰ることはできない。
中学を卒業した少女は今では慕っている凪沙を訪れるが、彼・彼女は寝込んでいる。
この映画の不満その2はここである。タイで性転換手術をした後体をケアをしなかったからこうなったのだという説明があるが、どうもピンと来ない。あの手の手術自体にこうした危険性があるということか(あるだろうが)?
リンのその後も解らない。あれは心象風景だったのか、現実だったのか?
少女はその願いを聞いて凪沙を海に連れて行く。「真夜中のカーボーイ」(1969年)の果敢なさを感じさせたままに彼はヴェニスではないどこかの海辺に死んでしまう。
頗る美しい場面ではあるが、彼を死なせて、最終シークエンスに入っていくのが気に入らない。彼を死なせるなら、そこでジ・エンドのほうが映画的に締まる。少女がアメリカのコンクールに出て終るが、ならば凪沙を何とか身体的に生かす手を考えて欲しかった。脚本も書いた内田英治監督がそれで良いと思ったのであり、残念ながら僕の感性との間に差があるということだ。
全体に漂う悲劇的なトーンは統一感があって良いし、映画全体が通俗的にならない美しさに満ちているが、どうも陰鬱にすぎてしゅんとしてしまう。
草彅剛の好演に加え、新人の服部樹咲のぶっきらぼうさがなかなか印象深い。
海外にはバレエ絡みの映画が少なくないが、日本ではさほど作られない。バレエ文化の差ですかな?
2020年日本映画 監督・内田英治
ネタバレあり
トランスジェンダーと性同一性障害は別物らしいが、僕にはよくその違いが解らない。本作にはどちらの単語も出て来ないが、映画サイトでの紹介では主人公はトランスジェンダーとあり、本編を見ると本人は性同一性障害に苦しんでいる。本作は区別していないということになろうか?
東京のゲイクラブに勤めている主人公(草彅剛)は源氏名を凪沙というが、ある時、中学生になる従妹(水川あさみ)の娘・一果(服部樹咲)の世話をすることになる。従妹が水商売にかまけて娘の世話を放置したからである。
広島からやって来た少女は、女装の伯父さん(厳密には伯父ではないけれど)を胡散臭そうな目で眺める。伯父さんのほうも無口で感情を表に出さない少女に好感を持たず、相性の悪さは抜群である。
しかし、少女が風俗的なバイトをしてまで稼いだ金を注いだバレエの才能に恵まれていることを知り、凪沙は昼間運送業の務めを始めて資金を稼ごうとする。彼もしくは彼女が気持ちとして彼女に急接近をするのは、クラブでその踊りを観てからである。
個人的にはこの一エピソードだけで終わらせたのは物足らず、もう一つか二つエピソードを重ねて接近の経緯をはっきりさせたほうが良かったと思う。
親友となったバレエ仲間の同級生りんの悲劇に並行して、一果がコンクールで失敗するシークエンスが描かれる。ここで登場した母親が結局娘を広島に連れ帰るが、非行少年たちと付き合わせるなどやはり娘に碌な生活を送らせない。凪沙はそのままの姿で実家に現れるが、一果を連れ帰ることはできない。
中学を卒業した少女は今では慕っている凪沙を訪れるが、彼・彼女は寝込んでいる。
この映画の不満その2はここである。タイで性転換手術をした後体をケアをしなかったからこうなったのだという説明があるが、どうもピンと来ない。あの手の手術自体にこうした危険性があるということか(あるだろうが)?
リンのその後も解らない。あれは心象風景だったのか、現実だったのか?
少女はその願いを聞いて凪沙を海に連れて行く。「真夜中のカーボーイ」(1969年)の果敢なさを感じさせたままに彼はヴェニスではないどこかの海辺に死んでしまう。
頗る美しい場面ではあるが、彼を死なせて、最終シークエンスに入っていくのが気に入らない。彼を死なせるなら、そこでジ・エンドのほうが映画的に締まる。少女がアメリカのコンクールに出て終るが、ならば凪沙を何とか身体的に生かす手を考えて欲しかった。脚本も書いた内田英治監督がそれで良いと思ったのであり、残念ながら僕の感性との間に差があるということだ。
全体に漂う悲劇的なトーンは統一感があって良いし、映画全体が通俗的にならない美しさに満ちているが、どうも陰鬱にすぎてしゅんとしてしまう。
草彅剛の好演に加え、新人の服部樹咲のぶっきらぼうさがなかなか印象深い。
海外にはバレエ絡みの映画が少なくないが、日本ではさほど作られない。バレエ文化の差ですかな?
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