映画評「デ・パルマ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督ノア・バウムバック、ジェイク・パルトロー
ネタバレあり

映画監督をめぐるドキュメンタリーは近年なかなかに隆盛しているが、本作は映画のインタビュー・ドキュメンタリーとしては変わり種と言っても良いのかもしれない。
 と言うのも、通常は他人が監督についてあれこれと語るのだが、本作ではブライアン・デ・パルマが出自のことから簡単に始めて、インディ時代から「パッション」までの脚本・監督作全作について延々と語るからである。一人しか出て来ないのだ。TVの1時間未満のものならこれに近い形式のものはあるかもしれないが、一人しか語り手が出て来ないのはまずないであろう。

デ・パルマよりヌーヴェルヴァーグに近い感じのあるノア・バウムバックがジェイク・パルトロー(グウィネスの弟)と共同で監督をしているので、気分的にフランソワ・トリュフォーのアルフレッド・ヒッチコックへのインタビューに近いのかもしれない。

さて、メジャー・デビュー以来どちらかと言えば気になる監督であったデ・パルマが自作について色々と語るのは相当興味深く、フィルモグラフィーのおさらいになり、裏話の類が聞けるのも楽しい。デ・パルマがお好きな方は、言われるまでもなく観るであろうが、ぜひ観るべし。

以下、僕のちょっとしたデ・パルマ歴。
 個人的には「ボディ・ダブル」(1984年)までのデ・パルマがヒッチコックへの傾倒ぶりがはっきり解るので好きだ。
 この作と「ミッドナイト・クロス」(1982年)とに挟まれる形で「スカーフェイス」(1983年)を作ったのが僕にとってはケチのつき始め。そして、「アンタッチャブル」と続き、ハリウッド大作監督のようになったのが気に入らなかった。
 彼自身認めるように好みの暴力は大量にあるし、古い映画へのオマージュも多く投入して大向こうを唸らせるところはあるが、こういういかにもお金のかかった映画は他の監督に任せれば良かったと今でも思う。彼はB級(低予算)映画的な作品を作っている時が好き勝手し放題という印象を醸成し、楽しいのだ。

しかし、かくも長き不在?の後「レイジング・ケイン」(1992年)で初期の内容・スタイルに戻ったのを見てもかつてほどワクワクしない自分に気づいた。「スネーク・アイズ」(1996年)も同様。寧ろ評判の悪い頼まれ仕事「ミッション・トゥ・マーズ」(2000年)は結構楽しんだ。意外と純度が高かったような気がする。

映画監督は30代から50代までが充実する時期とデ・パルマは言う。大体そんなところかもしれないが、ヒッチコックが60代で作った「」、70代で作った「フレンジー」は見事な作品と思う。

この記事へのコメント

浅野佑都
2021年08月31日 08:03
>B級(低予算)映画的な作品を作っている時が好き勝手し放題という印象を醸成し、楽しいのだ。

そうそう!僕が初めて劇場でデ・パルマ作品と認識して観た「愛のメモリー」などは、ヒッチコックの「めまい」をオマージュしながら、縦横無尽に自分の世界を打ちだした傑作と思いますし、「悪魔のシスター」や「ファントム・オブ・パラダイス」なんかは、かなりぶっ飛んだ(笑)感じですが好きな作品です・・・。

お師匠のヒッチコックが、女優達を美しく撮りながらも、その内面にまで踏み込むことはなかった(踏み込ませなかった)のに対し、デ・パルマはむしろ女の立場から描ききっていて、その意味では一連の彼の作品は、形を変えたフェミニズム映画と言えないこともなく、過去作品をもっと評価されても良いと思いますね。

彼を一躍、世界的な監督にした「キャリー」はともかく、アル・パチーノ、ケビン・コスナーのビッグネームを主役にした「スカーフェイス」「アンタッチャブル」などは、明らかに加減をしながら撮っていて、隔靴搔痒のジレンマを僕なんか感じてしまいましたよ (笑)
オカピー
2021年08月31日 21:51
野佑都さん、こんにちは。

>「愛のメモリー」
>ヒッチコックの「めまい」をオマージュし

デ・パルマは「ボディ・ダブル」でも「めまい」をやっていますし、本当に好きなんだなあと思いますね。
「裏窓」も彼好みでしょう。

>その意味では一連の彼の作品は、形を変えたフェミニズム映画と言えないこともなく

女性の殺し方が残忍すぎると批判されたようですが、こういう批判をする方は表面しか見ていないのでしょうね。

>「スカーフェイス」「アンタッチャブル」
>隔靴搔痒

マーティン・スコセッシあたりがふさわしかったでしょう。

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