映画評「さくら」(2020年)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・矢崎仁司
ネタバレあり

西加奈子の同名小説を矢崎仁司が映画化。家族の物語だが、予想された犬が絡むファミリー映画(家族向けに作られた映画のこと)ではなく、途中からかなりエキセントリックになる。

夫婦(永瀬正敏、寺島しのぶ)と三人姉弟が一匹の雌犬にさくらと名付け、さくらと共に変遷するおよそ10年の家族史を描く内容である。
 映画は、三人の子供の真ん中で次男の薫(北村匠海)が大学から戻って来るところから始まり、随時過去が挿入され、やがて過去がメインとなり、再び現在に戻るという形で構成されている。

長男の一(はじめ=吉沢亮)は高校野球のエースで女子高生に大人気で、ある時かおるという恋人を連れて来る。つっけんどんだった彼女はやがてさくらを始め一家と触れるうちに柔らかい態度を見せるようになり、二人は将来結婚しようと心に誓う。
 ところが、シングルマザーの都合で引っ越した彼女から突然手紙が届かなくなり、引越し先の九州へ確認に行く旅費を稼ぐ為にバイトを始めた矢先に交通事故に遭って顔と脚に重傷を負い下半身不随となる。これに絶望して彼は縊死する。
 実はこれには妹・美貴(小松菜奈)が手紙を隠していたという裏があり、薫は結果的に兄を死なしめた美貴を怒りの余り打擲する。

というのがメインとなるお話で、薫の童貞喪失物語や、美貴のレズ疑惑をめぐる挿話もあるが、それらは傍流である。とは言え、一家をかき回すのは幼少時代から甘やかされて育った美貴で、そのエキセントリックさがその傍流の物語において伏線的に扱われ、やがて主流のお話の中で、兄の死後における遺灰を食べるといった行為として明確になっていく。
 彼女は長兄を精神的近親相姦的に愛していたということが発覚すると、それ以前の行動の謎が解ける辺りちょっとしたミステリー扱いで、なかなかよろし。構成になかなかの妙がある。

息子の死と家族関係の歪みに耐え切れなくなった父親が行先不明の出稼ぎに出てしまい、その父親の帰還と併せて薫が年末年始に戻って来るのが現在である。
 事件から3年くらいは経っているのだろうけれど、薫と美貴は元通りの仲の良い兄妹になっている。さくらという犬の効果と言えばそれまでだが、ちょっと呆気ない気はする。
 ただ、観ながら感じていたように、これも先日の「ホテルローヤル」と同じく愛の物語であり、それも神のそれまで含んでいるものなので、この落着が作者にとって不可欠だったのであろうとは思う。

因みに、野球用語“悪送球”を投手に使うのは間違っている。 ”送球” は投手を含め打球処理の場合にのみ使う。投手が打者に投げることは”投球”と言い、 “投球” と “送球” の間には明確な区別があるのだ。しかし、野球の解説者でも、悪送球を暴投と言う人もいるので、仕方がない。

解説者の半分近くが、バントをバンドと言う。これも困ったものだねえ。

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