映画評「騙し絵の牙」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・吉田大八
ネタバレあり
新聞社を扱った映画は結構多いが、出版社の内幕を描く作品は殆ど観た記憶がない。作家を中心にしたものなら洋画で幾つかあるが。
本作は、塩田武士の小説を吉田大八監督が映画化した出版社内幕サスペンス。
出版社の大手・薫風社の社長が急死し、保守派と革新派による後継者争いに勝つのは革新派の専務・佐藤浩市である。彼は110年の伝統のある月刊文芸誌【薫風】を季刊に変える。
また廃刊の可能性のあったカルチャー誌【Trinity】を立て直しているのは渡り鳥の大泉洋で、ベテラン人気作家・國村隼を批判した挙句に【薫風】編集長・木村佳乃の命に反して自ら移籍した若手編集員・松岡茉優が積極的に案を出す。彼女は、自ら発見したものの【薫風】に無視された有望作家・宮沢氷魚の連載を打ち出し、あるいは20年前に消えた人気作家の行方を追う。大泉はモデルで銃マニアの池田エライザの文才に目をつけていてその連載を決め、宮沢と彼女の接近ぶりを故意に週刊誌に撮らせたりする。
恐らくこの “スクープ” が原因でエライザが熱狂的ファンに襲われて自作の銃で反撃したことから、銃刀法違反で逮捕されてしまう。その後も【Trinity】に色々と無理をやらせられるのを嫌った宮沢を【薫風】が引き抜くが、その記者会見で彼が自分は偽作家であると告白したものだから保守派の常務・佐野史郎は辞任を余儀なくされる。
かくして社長が常務が注力していた【薫風】を廃刊にした為木村佳乃も居場所を失う。
偽作家をめぐる騒動辺りから色々とどんでん返しがあり、社を牛耳っていたと思われた社長までももっと新機軸を狙っていたある人物により踊らされていたことが判明する。会社の新体制の下、松岡茉優は退社、父親の本屋を出版もする書店として起業して、かつての上司・木村佳乃を引き抜く。大泉は服役中のエライザに新連載の話を持ち込む。
幕切れまで書いてしまったが、終盤の肝要なところは記さず若しくはぼかしておいたので、ご理解たまわりたく。
経営陣や現場におけるそれぞれの保守派と革新派の対立を見せる作品と思わせておいて、そう単純ではなく、後継者争いと経営方針に現場が直に絡んでいたという辺りがキモになっていて、一種のどんでん返しと言うかコン・ゲームの要素がここにある。言わば、前半は一見賑やかながら実は静かに潜行している内容で、後半の記者会見でそれまで伏せていた暗闘が一気に顕在化する辺りなかなか面白く出来ているわけである。
しかし、傑作とまで言わすには、前半においてその暗闘の伏線が幾つか置かれている必要があったと思われる。前後半で整合しないわけではないが、隠し過ぎて唐突の感が否めないということだ。
事実上二人が主役の作品で、その二人の最後の姿を見ていると、こういう人が本当に才能がある人物と言いたくなる。彼らは、務める会社がどうなろうと、きっと生き抜く力がある。この映画に感動させるものがあるとすれば、彼らが最後に見せる真の才能である。
最後に、特定のモデルとなる出版社はないようだが、戦前からの文芸雑誌を未だに持つ文藝春秋が一番近いと思う。
狐のいないコン・ゲームでした。何のこっちゃ。
2020年日本映画 監督・吉田大八
ネタバレあり
新聞社を扱った映画は結構多いが、出版社の内幕を描く作品は殆ど観た記憶がない。作家を中心にしたものなら洋画で幾つかあるが。
本作は、塩田武士の小説を吉田大八監督が映画化した出版社内幕サスペンス。
出版社の大手・薫風社の社長が急死し、保守派と革新派による後継者争いに勝つのは革新派の専務・佐藤浩市である。彼は110年の伝統のある月刊文芸誌【薫風】を季刊に変える。
また廃刊の可能性のあったカルチャー誌【Trinity】を立て直しているのは渡り鳥の大泉洋で、ベテラン人気作家・國村隼を批判した挙句に【薫風】編集長・木村佳乃の命に反して自ら移籍した若手編集員・松岡茉優が積極的に案を出す。彼女は、自ら発見したものの【薫風】に無視された有望作家・宮沢氷魚の連載を打ち出し、あるいは20年前に消えた人気作家の行方を追う。大泉はモデルで銃マニアの池田エライザの文才に目をつけていてその連載を決め、宮沢と彼女の接近ぶりを故意に週刊誌に撮らせたりする。
恐らくこの “スクープ” が原因でエライザが熱狂的ファンに襲われて自作の銃で反撃したことから、銃刀法違反で逮捕されてしまう。その後も【Trinity】に色々と無理をやらせられるのを嫌った宮沢を【薫風】が引き抜くが、その記者会見で彼が自分は偽作家であると告白したものだから保守派の常務・佐野史郎は辞任を余儀なくされる。
かくして社長が常務が注力していた【薫風】を廃刊にした為木村佳乃も居場所を失う。
偽作家をめぐる騒動辺りから色々とどんでん返しがあり、社を牛耳っていたと思われた社長までももっと新機軸を狙っていたある人物により踊らされていたことが判明する。会社の新体制の下、松岡茉優は退社、父親の本屋を出版もする書店として起業して、かつての上司・木村佳乃を引き抜く。大泉は服役中のエライザに新連載の話を持ち込む。
幕切れまで書いてしまったが、終盤の肝要なところは記さず若しくはぼかしておいたので、ご理解たまわりたく。
経営陣や現場におけるそれぞれの保守派と革新派の対立を見せる作品と思わせておいて、そう単純ではなく、後継者争いと経営方針に現場が直に絡んでいたという辺りがキモになっていて、一種のどんでん返しと言うかコン・ゲームの要素がここにある。言わば、前半は一見賑やかながら実は静かに潜行している内容で、後半の記者会見でそれまで伏せていた暗闘が一気に顕在化する辺りなかなか面白く出来ているわけである。
しかし、傑作とまで言わすには、前半においてその暗闘の伏線が幾つか置かれている必要があったと思われる。前後半で整合しないわけではないが、隠し過ぎて唐突の感が否めないということだ。
事実上二人が主役の作品で、その二人の最後の姿を見ていると、こういう人が本当に才能がある人物と言いたくなる。彼らは、務める会社がどうなろうと、きっと生き抜く力がある。この映画に感動させるものがあるとすれば、彼らが最後に見せる真の才能である。
最後に、特定のモデルとなる出版社はないようだが、戦前からの文芸雑誌を未だに持つ文藝春秋が一番近いと思う。
狐のいないコン・ゲームでした。何のこっちゃ。
この記事へのコメント
3Dプリンタとか、また、個人出版社がネットで発信など、インターネットの普及による変化が織り込まれたドラマでした。
>原作が『罪の声』を書いた塩田武士なんですね。映画「罪の声」もよかったですよね。
「罪の声」は昔のミステリーを彷彿として、実に良かったです。
うかつにも減殺者が同じとは気付きませんでした。この作者は要注目ですね。
生き抜くためには、どの業界も色々と工夫が必要です。大泉洋が出るとコメディーと思い込みがちで、ちょっと損をしているところがないでもないですが、楽しめる作品でした。