映画評「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年フランス=ベルギー合作映画 監督アレクシス・ミシャリク
ネタバレあり

読み始めたものはどんなに難解あるいは退屈でも最後まで読むというポリシーでずっとやってきた僕が、記憶している限り唯一高校時代に、読め始めて早々に放り投げたのがエドモン・ロスタンの有名戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」である。退屈で仕方がなかったのだと思う。しかし、この作品も50歳を過ぎて完読したから、読み始めて完読していない作品は皆無となった。少なくとも自分の意志で読み始めたものについてはそうである。

本作は、成功作のない韻文劇作家のロスタン(トマ・ソリヴェレ)が、大女優サラ・ベルナール(クレマンティーヌ・セラリエ)に紹介された男優コンスタン・コクラン(オリヴィエ・グルメ)の為に急遽作品を作ることになって大弱り。飲食店の黒人オーナーのアドバイスで17世紀に実在した剣豪詩人シラノ・ド・ベルジュラックを扱うことにするが、アイデアが出て来ない。
 ところが、友人の男優レオ(トム・レーブ)の代わりに衣装係ジャンヌ(リュシー・ブジュナー)への愛の告白をしたのをヒントになって、このアイデアを膨らませていく。
 コクランは借金や劇場の貸与の関係で上演を急ぐ必要があり、その期限まで僅か3週間。しかも、出資者たちからヒロインのロクサーヌ役に年増女優マリア・レゴー(マティルド・セニエ)を押し付けられ、剣劇要素を入れる為にさらに二幕追加する羽目になる。

フランス演劇史に名を遺す「シラノ・ド・ベルジュラック」誕生秘話という体裁で、経緯は確かにこんな感じだったようだが、喜劇仕立てにするため当然創作が加わっていると思われる。例えば、マリア・レゴーとジャンヌの入れ替えなど現実には到底あり得ない。

ロスタンのジャンヌへの手紙代作と、シラノのロクサーヌへの手紙代作とオーヴァーラップさせる核の部分は、底が浅くともそこそこ楽しめるが、契約関係の解りにくさに加え、個人的にはお笑いが垢抜け切らず退屈、半世紀近く前に戯曲を読んだ時のことを思い出してしまった。

作劇に関しては自分の原作戯曲を脚色し監督までしたアレクシス・ミシャリクなる人物のワンマン・ショー、その意味で、誰かが仰るように、三谷幸喜の映画に似ているかもしれない。

エンディング・クレジットで「シラノ・ド・ベルジュラック」の映画化作品が何本も紹介される。そのうち本当のコンスタン・コクランが主演したサイレント映画が出て来る。サイレントなのにご本人の声が聞こえるが、恐らくは舞台を録音したレコードと重ねて見せているのだろう。二番目に紹介されるピエトロ・マニエのバージョンも同様と推測する。

120年前を舞台に黒人店主をインテリにしてさりげなく人種問題を扱う。アメリカよりは黒人の地位が相対的に高かったと思われるフランスだけに歴史改竄とまでは言いにくいが、これも時代ですかね。

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