映画評「ヒトラーに盗られたうさぎ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年ドイツ=スイス=イタリア合作映画 監督カロリーネ・リンク
ネタバレあり

ジュディス・カーというドイツ出身の児童文学者(絵本作家)の少女時代を描いた伝記もの。彼女自身の自伝的小説が原作だが、姓名が変えられている。原作由来か映画における改変かは不明。

1933年のベルリン。ナチスを批判してきたユダヤ人の演劇批評家アルトゥア(オリヴァー・マスッチ)は選挙の動向次第で自身と一家に危険が及ぶと察知、ナチス勝利という選挙結果を受け、事前に逃避していたスイスに妻ドロテア(カーラ・ユーリ)、息子マックス(マリヌス・ホーマン)、娘アンナ(リーヴァ・クリマロフスキ)を呼び寄せる。この娘が即ち後のジュディス・カー(本名アンナ・ユーディット(ジュディス)・ゲルトルート・ヘレネ・カー)。
 安全性が一番高いのは中立国スイスであるが、一家は収入を求めて、父親の執筆業がナチスを警戒するスイスより出来るフランスはパリへと向かう。しかし、仕事は得たものの思ったより収入にならないアルトゥアがナポレオンを題材に脚本を書いたところ、英国の製作者に買ってもらうことになり、かくして一家は英国へ向かう。

一家はそのまま英国に住み着きアンナは英国の児童文学者として世に出たわけだが、本作の見どころはそうした経緯より、ドイツにおける、あるいはスイスにおける、あるいはフランスにおけるヒロインの学校生活や友情関係である。
 ローティーンにもならない彼女の、大好きな大人や友人たちの別れは悲しくもあっただろうが、フランス小学校時代の父親との旅を綴った作文が表彰されたように、彼女の人生の糧となったと思う。

ナチス絡みはどうしても悲惨すぎて胸が苦しくなるものが多い中、父親の職業故にナチスの追及を二度も先んじて逃れることができたという、寧ろハッピーな内容なのが好もしい。児童ものらしく、変に高尚ぶらず、伸び伸びとしたタッチであるのも良い。

監督をしたカロリーネ・リンクはかつてケストナー「点子ちゃんとアントン」を映画化している。奇しくも今日、予約していたこの本を図書館から借りて来る。

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