映画評「MOTHER マザー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・大森立嗣
ネタバレあり

是枝裕和監督の秀作「誰も知らない」(2004年)と似たところがあるが、かの作品と違って、本作は所謂社会派映画ではなく、興味の対象は心理学の側面である。

シングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、画面に登場して以降パチンコをするだけで全く働かず、呆れた家族から総スカンを喰らうと、息子・周平(幼少時:郡司翔、ティーンエイジャー時:奥平大兼)を使って、追い払われた家族や前夫からお金を得ようとするが、はした金を得ただけで完全に縁を切られる。そんな時ゲームセンターでホスト遼(阿部サダヲ)と意気投合して同棲もどきを始めて遂には妊娠するが、似た者同士の阿部は姿を消す。
 4年後、生まれた娘・冬華(浅田芭路)を連れて彷徨している時に福祉関係の亜矢(夏帆)らに発見されて一通りの生活ができるようになり、周平もフリースクールで持ち前の向上心を満足させかけるが、そこへ遼が現れてサラ金に頼ったことから元の木阿弥。親切に使ってくれる人も出て来ても甘い考えを起して居続けることができず、遂には逃げ回っている遼を思いを断てない秋子の教唆により周平は祖父母を殺してお金を奪うが、逮捕される。

欧米には多い心理学的な内容で、終盤弁護士が放つ “共依存” の母子の姿を徹底して見せている。
 少年側からしてみれば、母親が頼って来るのを愛情と思い込み、彼女の為に何でもしてやる気になっている。それが刑務所で少年が亜矢に語る“今でも母が好きです”という言葉の意味である。
 だから、彼は母親の殺人教唆を全く語らず、全てを自分の責任とする。こうした症状を見せる人は自己を持たないらしい。実際この少年も自分のことは大して考えず、母の言葉に唯々諾々と従う。途中まで何故この少年は母親に反抗しないのだと疑問に思うが、弁護士の言葉で納得させられる次第。

しかし、そうした心理学的要素を別にすると、ヒロインは邦画史上でも稀に見るひどい母親であると呆れかえる。欲しいものをひたすら欲しがり、子供を所有物と考える様子はまるで子供、かつて日本広告機構が流していた“子供が子供を育てている”状態であり、生活力はゼロ。この息子なしに彼女は生きていけまい。息子に罪を着せる代わりに服役したほうが余程良かっただろうに。

監督は大森立嗣。彼の作品は画面が力強く、お話に些か抵抗がある場合でも見応えを感じる。本作は、物語にもアピールするものがあるから益々素晴らしい。

途中までは母子の(心理学的な意味での)恋愛を描いている映画ではないかと思っていたが、“共依存”の一言によりひっくり返された。

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