映画評「らせん階段」(1946年版)

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1946年アメリカ映画 監督ロバート・シオドマーク
ネタバレあり

英国の女性ミステリー作家エセル・リナ・ホワイトのミステリー・サスペンス小説 "Some Must Watch" の最初の映画化。6日前に観た「大いなる罪びと」を撮ったロバート・シオドマークの代表作で、彼はやはりこの手のサスペンスを作らせるとうまい。
 1980年代に地上波放映で見ているが、その時以来の再鑑賞。その時の録画が今でも見られるが、多少なりとも良い状態で見たいものだと思っていたら、アマゾン・プライムにあった。嬉しいです。

1910年代のニュー・イングランドの一地方。心因性の唖であるヒロイン、ドロシー・マクガイアが手回しの映画(D・W・グリフィスの短編二作)を見ている。画面がディゾルブすると、ホテルを成すその二階で足の悪い女性が絞殺される。犯人はその直前に目だけ捉えられた人物である。
 ここまでの一連の見せ方はさほど華美ではないが簡潔にして強烈

さて、ドロシーに好意を寄せている若い医師ケント・スミスに送られた後彼女は雨が降り出す中、病床に伏せている老婦人エセル・バリモアの小間使いとして雇われている豪邸に駆け込む。怪しい人物が後をつけている。
 以降、カメラはこの豪邸から出ることがない。このアイデアが頗るよろしく、欧米の映画に多い家を小道具にした映画と言うべし

豪邸の実質上の主人は教授ジョージ・ブレント。彼は亡父の前妻の子供で、エセルが産んだ息子ゴードン・オリヴァーが折しも欧州から帰って来ている。ブレントの秘書で、現在はオリヴァーと良い仲になっているロンダ・フレミング、酒飲みの女中とその夫、老女に嫌われている看護婦がいる。
 こうした人々がいる中で、屋敷では老婦人の気付け薬のエーテルがなくなるなど不審な小事件が相次ぐ。障碍者を狙った殺人が連続していることを知る老婦人はドロシーにすぐにスミス医師に家から連れ出してもらうようにしきりに言う。つまり、家の中にその犯人がいると思っているわけである。

幾つかある布石の中で特に重要なのが、兄弟が交わす優性思想を持つ父親が軟弱な兄弟を嫌ったまま死んだという会話である。そして、諸事情が重なって(中には犯人が仕込んだものが複数あり)自由に動ける人物がいない時を狙った犯人とドロシーが対峙する時が、遂に訪れる。

ロンダ・フレミングが地下室で殺されるまでは純然たるミステリーと言っても良いが、彼女が地下で見た犯人に対する反応で犯人が解るので、その後はらせん階段を大いに生かしたサスペンスとなり、簡潔さの中に大いに手に汗を握らせる。
 1940年代流行していたニューロティック・スリラーに、家を大きな小道具とするゴシック・ホラー様式を加えたような内容で、満足度が高い。やはりこういうスリラーは陰影が印象を強めるモノクロが理想的だ。映画ファンなら一度は観ておきたいもの。

原作が発表されたのが奇しくもナチスが実権を握る1933年とは言え、原作者はまだヒトラーやナチスの優性思想の怖さを本格的に知る由もなかったはずである。が、終戦後にこの映画が作られた狙いの一つに反優性思想、反ナチズムがあったのは、この時代に反ナチ映画が幾つも作られたことを考え合わせると、間違いないだろう。

優性思想は大嫌い。日本にも若干その気がある。気を付けたいね。

この記事へのコメント

モカ
2021年11月24日 16:24
こんにちは。
昨夜、ルビッチの「私の殺した男」とこちらを2本立で見まして、奇しくもライオネル祭りになってしまいました。

「暗くなるまで待って」を思い出したりして、面白かったです。 
犯人は目玉の特徴からすぐに予想はつきましたが、いつ本性を表すのかとドキドキしましたよ。モノクロ画面で蝋燭の火がついたり消えたり、だだっ広いお屋敷の外は嵐ときたら怖い映画の定番お約束で、何も起こらない訳がないですよね。
クローゼット、怖いなぁ… うちのは扉がないからいいけど…これは子供の時に見ていたら結構トラウマになったかも…押し入れが開けられなくなったりして。
ちなみにトラウマ映画はクリストファー リーの「吸血鬼ドラキュラ」とスペンサー トレイシーの「ジキル博士とハイド氏」ですが今見ても怖いのか確かめてみたいような、怖いような…(笑)
モカ
2021年11月24日 16:48
訂正が多いですね、すいません。
「ライオネル」じゃなくて「バリモア」祭りでした。
「私の殺した男」よりオゾンの「婚約者の友人」の方が21世紀的掘り下げがあって好きですね。特に若い2人の役者がこっちの方が断然良かったと思います。
オカピー
2021年11月24日 22:30
モカさん、こんにちは。

楽しめたようでホッとしました。

>「暗くなるまで待って」を思い出したりして

確かに「暗くなるまでを待って」も家を小道具にした映画でした。

>犯人は目玉の特徴からすぐに予想はつきました

そういう犯人の特定の仕方も映画ではできますね。僕もそう思いましたが、論理的にロンダ・フレミングの発言で決まりでした。

>ちなみにトラウマ映画はクリストファー リーの「吸血鬼ドラキュラ」とスペンサー トレイシーの「ジキル博士とハイド氏」

子供が見たら怖いですよねえ。
僕は題名は解りませんが、ミイラが出て来る映画が怖かった! 集会場に貼ってあったお岩さんのポスターも嫌だったなあ。
実は中学生の時に観た「サイコ」も結構怖い思いをしましたね。

>「ライオネル」じゃなくて「バリモア」祭りでした。

何のことかと思いました^^
ライオネルが兄で、エセルが妹。

>「私の殺した男」よりオゾンの「婚約者の友人」の方が21世紀的掘り下げがあって好きですね。

昔は観客も素朴ですから、どうしても単純ですよね。
2022年02月16日 17:56
好き度は普通になっちゃいましたが、やっぱり雰囲気はいいですねえ。
ドロシー・マクガイア、なんて聞くだけで、あーハリウッド!と思ってしまう夢の国。もはや過去ですが…。
オカピー
2022年02月17日 14:15
ボーさん、こんにちは。

>好き度は普通になっちゃいました

それはちと厳しい^^
僕は大体ゴシック・ホラー系は好みなので、ちと甘いかもしれませんが。

>ドロシー・マクガイア

画像問題に出したいですが、解る人はいるのかなあ?
モカ
2022年06月21日 00:17
この監督の「殺人者」をアマゾンプライムで観ました。まだレビューは書いておられませんよね? 
バートランカスターは泳ぐ人とか刑務所で小鳥の研究をする囚人とか新興宗教絡みのエキセントリック系のイメージが強かったんですがデビュー当時は当たり前ですが若々しくてハンサムですね!
ヘミングウェイの短編を膨らませたストーリーも面白くて拾い物(ところでこの映画は有名なんですか?)でした。ヘミングウェイの短編は昔読んだはずなんですが全く記憶に無いのが困った事ですが… 柴田元幸の新訳が出ているらしいので再挑戦してみます。
オカピー
2022年06月21日 19:01
モカさん、こんにちは。

>「殺人者」をアマゾンプライムで観ました。
>まだレビューは書いておられませんよね?

昔観ましたが、ブログを始めてからは観ていません。

>ところでこの映画は有名なんですか?

シオドマークの代表作ですね。
他の映画を論ずる時に引用されることが多いです。

>ヘミングウェイの短編

映画とは結構違ったような記憶が。

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