映画評「巴里の気まぐれ娘」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1953年フランス映画 監督マルク・アレグレ
ネタバレあり

フランスにはイヴ・アレグレとマルク・アレグレという監督がいてちょっとこんがらがるが、これはトーキー初期から活躍している後者マルクの小傑作である。上記採点は大傑作にも相当するが、本作のような、映画として騒ぐようなタイプではない軽い作品には、小傑作という表現がふさわしい。

母親の意向(威光かも知れぬ)で父親ほどの年齢の婚約者ベルナール・ランクルと結婚する為にパリに向かった18歳の少女ダニー・ロバンが、同じ列車に乗り合わせた青年弁護士ジャン・マレーが忘れた煙草入れを届ける為に列車が下りたところ戻る前に出発されてしまう。
 当日最後のパリ行きだった為にマレーがホテルを探すが事情があってどこも満室、仕方なく古い自分の屋敷まで連れて帰る。彼女は年の離れた婚約者との結婚に気が進まずそのまま屋敷にいることを決め込む。
 そうとは知らないマレーは、パリからやって来た婚約者ジャンヌ・モローを連れて来たところ、依然少女のいることに気付き、ジャンヌに気付かせまいと悪戦苦闘する。これに昔からの庭師が絡み、相当に複雑なことになる。

という文字通りドタバタの恋愛コメディーで、同時代のオードリー・ヘプバーンが主演しても良いような内容でござる。実際同じくダニーが主演した「アンリエットの巴里祭」(1952年)のリメイク「パリで一緒に」(1963年)に出演しているところを見ると、ダニーの女優としてのキャラクターとオードリーに共通するものがあるのだろう。

ヒロインは少女小説によく出て来る少女のように天真爛漫で想像力が豊か、したこともないキスで婚約者を嫌い、一方のマレーにはそれを要求する。
 この辺りのコミカルな扱いが実に秀逸で、彼女とジャンヌとに挟まれて階段を上り下りするマレーが実に可笑しい。妙に高慢でヒステリックなジャンヌの疑問を解く為に彼が繰り出す言い訳が実に非現実的なのも、ドタバタらしくて楽しめる。古典的で貴族的なジャン・マレーにこのような役をやらせたのもオールド・ファンには、ヒネリとしてプラス・アルファの材料となる。

実はジャンヌとランクルは昵懇の仲というのが事前に示されてい、屋敷での一連の騒動でジャンヌがマレーに嫌気が差し、互いに婚約者を替えるような珍妙なハッピー・エンド。

若いけれど既に実績のあったダニー、新人時代のジャンヌが小悪魔的な魅力を発揮し、「青い麦」のニコール・ベルジェがダニーの妹役として出ているので、フランス映画女優ファンにはなかなか嬉しい配役なのでござる。

ニコール・ベルジェは1967年若くして交通事故で死んでしまった。その二か月後にカトリーヌ・ドヌーヴの姉さんフランソワーズ・ドルレアックも同じく事故で亡くなる。ニコールは32歳、フランソワーズは25歳。フランス映画界にとって呪われた年だったとも言える。昨年の日本で人気芸能人の自殺が相次いだのを思い出させる悲劇の年。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック