映画評「砕け散るところを見せてあげる」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年日本映画 監督SABU
ネタバレあり

竹宮ゆゆこのライト・ノベル(YA小説)をSABUが映画化した作品。ジャンルは何とも言えない。

ヒーローになろうとしている高校3年の男子生徒・濱田清澄(中川大志)は、校内でいじらめているのを目撃した高校1年の女子生徒・玻璃(石井杏奈)の為に立ち上がる。彼女はヒマセン(暇な先輩)と仇名される彼を文字通りヒーローとして崇めるようになるが、UFOを撃ち落とすなどとかなり奇妙なことを言い、彼は当惑することがある。
 そんな彼女が一人で彼女を育てているとされる父親(堤真一)に異様に気を使っているが、それに彼と彼の母親(矢田亜希子)が巻き込まれるようになる。どうも父親は(パラノイアで)妻の祖母を殺し、彼の嘘に気付いた母子を殺そうとするだろうと、父親に殴られた跡も歴然の彼女が言うのである。
 彼は警察に連絡しようとするが、その前に現れた父親のゴルフ・アイアンに倒され、娘共々家ごと焼き殺そうとするが、蘇生した彼女が逆襲する。

というお話が回想的に展開する。
 息子(北村匠海)から見る、救助中に溺死した父親の人生という扱いで、現在の玻璃(原田知世)は時期が来たら “(ヒーローの成り方を)教えようかな” と言ったりもする。

前半はいじめを契機とした青春ロマンスと思われるが、途中かなり喜劇的になった後、父親が出てきた後はホラー映画モードに突入する。というように作品の性格がはっきりせず、一つのジャンルにはめにくい。僕はこういうタイプは余り好まないが、韓国流のトーンを意図的に変えるのとも少し違い、抵抗感はそこまでは大きくない。途中のコミカルな部分も監督が喜劇映画的に扱っていないからである。

しかるに、終盤のホラー場面に大きな疑問がある。玻璃から祖母の殺害を聞かされた清澄は、死体を沈めた沼に行く代わりに最初から警察に行くべきだったのである。現場に行ってさらに彼女の家に戻った後警察に行こうとするから、父親にやられてしまうのである。
 警察に任せれば良い(という以上に任せなければならない)死体回収を自分でやるなど甚だ馬鹿馬鹿しく、このシークエンスは常識のある人間の行動原理としてありえない。いくらヒーローを目指しているとは言っても、現実と夢想を区別できないのでは単なる馬鹿に過ぎない。お話の為のお話であり、甚だ興ざめると言うべし。

先が予想できないのが良い映画というのは大いなる誤解だが、本作の場合それがある程度の面白味に寄与している。かなりデタラメながら、そこを買って★一つ分おまけする。

この映画にはUFOが幻影的に出て来るが、この間の「惡の華」には巨大な目が若者たちを見張るように出て来た。若者はこの手の強迫観念的なものが好きらしい。そうした若い人の感想を読んだが、台詞ではっきり言われていることも理解していない人が結構いる(特に人物関係)。やれやれ。僕も相当いい加減で、時に大きな勘違いをすることもありますけどね。

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