映画評「いのちの停車場」

☆☆★(5点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・成島出
ネタバレあり

成島出は大衆的という意味で見やすい作品を担当し、割合好きな監督であるが、本作は途中からカメラが気になり出した。

大病院のベテラン救急医師・白石咲和子(吉永小百合)62歳は、医師免許取得に三度も失敗している事務員・野呂聖二(松坂桃李)が勝手に医療行為をした責任を取って辞任、実家にある金沢に戻って、そこの在宅医療クリニック“まほろば診療所”に勤務する。
 患者はたった5人である。末期の肺癌を病む芸者(小池栄子)、夫(泉谷しげる)が面倒を見るパーキンソン病の老婦人(松金よね子)、小児癌の少女・若林萌(佐々木みゆ)、脊髄損傷で全身不随となったIT会社の青年社長(伊勢谷友介)、膵臓癌で地元に帰って来た高級官僚(柳葉敏郎)。その間に少女時代に知っている彼女を頼ってやって来るのが美人女性棋士・中川朋子(石田ゆり子)。
 他方、診療所のメンバーは、亡き姉の息子を育てている訪問看護婦・星野麻世(広瀬すず)。これに白石医師を追って野呂君がやって来て、色々と便利に使われるうちに、少女の信頼を勝ち得る。白石医師も先進医療の治療を希望する青年社長の信頼を得る。が、自身の父親が転倒による骨折の後堪えがたい痛みを勘違いで感じさせる脳の病気を患う。その様子を見るうち彼女は安楽死という選択を視野に入れざるを得ない。

大雑把に言うと、三分の二くらいは白石医師を狂言回しとして展開する患者とその家族をめぐる群像劇のような内容で、残りは白石医師の父親をめぐる安楽死問題の提示という構成になっている。完全に水と油のように分裂しているとは言えないまでも、やや極端に分割されている作り方は見ていてどうも落ち着かない。山田洋次監督との協力でなかなか良い仕事をしている脚本家・平松恵美子の仕事ぶりとしては不満である。

カメラでオヤッと思ったのは、麻世と子供を招いて女性医師が料理を振舞おうとし、外に出た父親が倒れるというシークエンスで、カメラがハンディカメラらしいやや解像度の低そうな映像になったことである。ここからカメラを気になり出すと、カメラを動かし過ぎる傾向が見出されて気が散った。死病ばかり出て来て陰鬱な気分になりがちな内容なので、気持ちが落ち着くような、もっとしっとりしたカメラが良かったのではないか。

最後は安楽死の問題が提示されるが、現状の日本で積極的に安楽死を認める方針は打ち出せなかったようで、提示だけで終わる。鑑賞者に考えさせようという意味では悪くないとは思うものの、すっきりしない気持ちも禁じ得ない。

50年くらい前にヒットした「夜明けの停車場」という歌を思い出させる題名。

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