映画評「鳩の撃退法」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年日本映画 監督・タカハタ秀太
ネタバレあり

作者とくに原作者(佐藤正午)が何をやりたかったかよく解る。それが上手く行っているかどうかを別にして、そういう作品は好きだ。

富山県で両親と娘が失踪する事件が起きる。近くで偽札事件も起こる。この両方に絡んでいるのが3年間作品を発表せず今は東京でバーテンをして食いつないでいる直木賞作家・藤原竜也で、新作としてこの二つを取り上げるノンフィクション小説じみたものを書き、それを編集者・土屋太鳳に読ませている。
 喫茶店で孤独そうに本を読んでいる青年・風間俊介に、「ピーター・パンとウェンディ」という本を持った作家が近づく。この青年が妻と自分の子ではない娘と失踪した青年である。作家は彼を𠮟咤激励する古書店の主人ミッキー・カーティスが残した3003万円を受け取り、余分の3枚のうち一枚をリリー・フランキーの床屋で使う。これが巡り巡って偽札と判明するのである。
 この二つの両方に絡んでいるのが暴力団のボス豊川悦司で、失踪した青年はボスがオーナーである酒場でマスターを務める彼の弟分である。
 太鳳嬢は、実話であると裁判やら何やらで困ると念を押しながら原稿を受け取り続ける。

どこが事実でどこが作り物なのか全く解らないまま進むというのが一応の面白味になっているが、それだけならここ四半世紀くらいで色々作られて来たわけで、さほどのものとは思えない。
 僕が面白いと思ったのは、そこにメタフィクションの趣向を大々的に追加したことである。つまり、この作品は、作家は神であるという小説家の立場を前面に押し出したところにこそ面白味があるのである。特に終盤はそれが顕著で、前半で燃やした筈の3002万円は燃やされずに豊川を通して(偽札の2万円を別にして)児童福祉園に送られているし、劇中の作家は一家を殺しては可哀想と「ピーター・パン」の拍手の趣向を取り入れてハッピーエンドにするのである。
 小説の外(そと)に実際に直木賞を受賞している佐藤正午という作家がいるわけで、メタフィクションとしての趣向を強調したが故に、いわば三重構造の作品として理解したくなるところが楽しい。

ミステリーとしての構図が女性や暴力団が色々と絡むハードボイルド小説っぽいのもよろしい。但し、相当生温いが。

「ピーター・パン」の最後の拍手は本来戯曲のみにあったと記憶する。僕は今は読むのが難しくなった戯曲版をやっと捜し出して読んだ。戦前に発行された本である。それを探している時に久しぶりに戯曲の新訳が出るとも聞いたが、どうなっているのかな?

この記事へのコメント

2023年05月06日 15:11
これはおもしろかったですよ。
悲劇に終わらせない形で、いい気分で映画が終わったのもよかった。
じつはミステリとかほとんど読まないんですが、おもしろい作品がいっぱいあるんだなと映画観て知らされますね。
オカピー
2023年05月06日 21:51
nesskoさん、こんにちは。

>ミステリとかほとんど読まないんですが、おもしろい作品がいっぱいあるんだなと映画観て知らされますね。

そうなんですよ。
 僕も最近ようやく余裕が出て来て、近年のミステリーも読めるようになったのですが、昔の本格ミステリーより読み物としては今の作品のほうが面白いと思います。韓国で映画化された乃南アサのミステリー「凍えた牙」もなかなかでした。

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