映画評「少佐と少女」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1942年アメリカ映画 監督ビリー・ワイルダー
ネタバレあり

ビリー・ワイルダーの渡米後監督第一作は、日本未公開に終わった。
 ワイルダーはこの後戦中においてサスペンス系列の作品を数本作るが、本作は戦後のワイルダー同様に純然たるコメディーである。ワイルダーやチャールズ・ブラケットのオリジナル・アイデアではないものの、誠にワイルダーらしいアイデアだ。

四半世紀半くらい前にWOWOWで観た記憶があり、今回は例によってプライムビデオ。

ニューヨークで頭皮マッサージ師として働くジンジャー・ロジャーズが、中年の客ロバート・ベンチュリーに迫られたのに嫌気が差して、退職して故郷の田舎町に戻る決心をする。ところが、故郷に戻る列車賃が値上げで足りず、12歳の子供になりすまして乗車する。車掌にばれるが、少佐レイ・ミランドのコンパートメントに逃げ込んで難を逃れる。ミランドは彼女の嘘を見破れない。
 列車が不調で停まると、婚約者リタ・ジョンスンが父親の大佐エドワード・フィールディングとやって来る。ここでジンジャーを発見してプンプンして帰ってしまうが、少佐は彼らのいる兵学校にジンジャーを連れて行き彼女が12歳の少女であると言って、難を逃れる。
 大佐の妹娘ダイアナ・リンはジンジャーが成人であることを見抜くが、姉の婚約者を現場に送りたいダイアナは嘘を伏せる代わりに味方につける。兵学校では300人の兵士に追い掛け回されるジンジャーに、ミランドも心動かされるものがあり、彼女自身も追いかけて来る思春期少年よりミランドに惹かれる。
 が、彼女の嘘が遂にばれる時が訪れ、こっそり帰郷する。そうとも知らずミランドが出征前に実家にジンジャーを訪れる。彼の婚約が破談に終わったことを知ったジンジャーは正体を現し、結ばれる。

何と言っても当時31歳のジンジャー・ロジャーズが12歳の少女に成りすますというナンセンスぶりの可笑しさに尽きよう。もっと若くて童顔の女優にすればもっとこの設定に説得力(真実味)が出るが、逆にその不自然さが設定のナンセンスさを強調するのだから、これで良いわけである。彼女は最後に半白髪の母親役も演じ、時間的に無理であろうという観客の突っ込みも無視してワイルダーは突っ走る。

その無理な設定を通すほどに周囲の人間特にミランドのお惚けぶりも非常識であり、傑作である。傑作は、マスターピースの傑作ではなく、国語辞典の二番目の意味に近いが、褒め言葉でもあるので厳密には否定的なニュアンスの強いそれとも少し違う。

演技力を付けて来たミュージカル女優ジンジャーが得意のタップを少しだけ披露するのが、ミュージカル・ファンには嬉しい。

ナンセンスさというオブラートにくるまれているが、1942年という時代を考えれば、この映画の狙いは遠回しの戦意高揚である。冷静に考えれば、婚約者を戦場に行かせないように画策している姉の方がまともなのだが。

当時の日本も、現在のロシア同様に言論統制下にあり、戦争反対などと言うものなら投獄の憂き目にあったが、帝国主義国では程度の差こそあれ似たようなものであっただろう。しかし、世界的に民度が進んだ現在、それをやったら叩かれるのは当然である。ウクライナの平和安全を嘘八百で侵したロシアは、世界経済も破壊し続けている。ロシアの論理はヤクザのそれにも劣る。中国がそっぽを向いたら現在のロシアはひとたまりもないと思うが、専制主義国同士の親和性があるという以上に、終息後にロシアの弱みを握って精神的に支配する魂胆がある。

この記事へのコメント

2022年04月30日 14:42
まさに、大人の女性が12歳の少女のふりをするのが主眼ですよね。
ジンジャーさんのお顔では、バレないわけがない気がしますが、そこを敢えてやるナンセンス味。
お母さん役は、ジンジャーさんの本当のお母さんだと、なにかで読みました。
IMDbで調べても、レラ(Lela)・ロジャースという名前です。
オカピー
2022年04月30日 22:15
ボーさん、こんにちは。

>大人の女性が12歳の少女のふりをするのが主眼

ワイルダーの中でもトップ・クラスのナンセンス度!

>お母さん役は、ジンジャーさんの本当のお母さんだと、なにかで読みました

Allcinemaのコメント欄に書いている人がいましたよ。

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