映画評「白き処女地」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1934年フランス映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり

フランスの作家ルイ・エモンが残した人気小説「マリア・シャプドレーヌ」の最初の映画化で、昨年4度目の映画化が行われたようである(IMDbでのチェック)。日本でも幾つか和訳されて、映画と同じ「白き処女地」の邦題で岩波新潮文庫で出ていた。

僕は左脳派だが、感性において結構古い人間なので、ジュリアン・デュヴィヴィエによるこの作品の詩情に痺れてしまう。そういうところは寧ろ感覚的なのだと思う。
 映画批評誌 “カイエ・デュ・シネマ“ の連中が批判的であった為、デュヴィヴィエの評価は祖国フランスは勿論世界的に落ちてしまった。本作もどこの映画サイトの平均点も実力に見合った評価がされていないように思う。

また、若い人と話すと、どうも省略という観念を理解していない人が多いように感じる。省略(による効果)という観念をきちんと理解していないと本作では疑問を覚えてしまうであろうと思われるところ(断ち切るように終わる幕切れや雪上での馬ぞりの立ち往生)も多く、そうしたことも足を引っ張っているかもしれない。

フランス映画だが舞台はカナダのケベック州でも北部の厳しい土地で、そこに両親と妹と暮らす可愛らしい娘マリア(マドレーヌ・ルノー)がヒロインである。
 硬い大地を開墾する農家の娘で、両親や妹・弟と暮らしている。冬が終わり、以前知り合いになった毛皮を原住民から買い取っては流通している若者フランソワ(ジャン・ギャバン)が再びやって来、村の祭で一緒に踊ってから彼女の気持ちを揺り動かす。彼女には、村の働き者ユトロプ(アレクサンドル・リニョー)や町からやって来た同世代の若者ロランゾ(ジャン=ピエール・オーモン)も懸想しているが、彼女の心は、およそ一年後の春に戻って来ると誓ったフランソワに固まっている。彼の思いも強い。
 その帰還を強く待ち望む彼女の前に、予定より早く帰ろうとする彼の想いが感応して、生霊が降り立ったようにさえ見えるショットがあるが、実際の彼はその後遭難死してしまう。その死をなかなか諦め切れないマリアも、母親が亡くなった後、カトリック神父の教えに基づき、母親が愛した土地に住み続けることを決意、残された二人のうちロランゾとの結婚を選ぶ。

というお話で、何といってもハイライトは、厳寒の中帰りを急ぐフランソワと帰りを待って祈り続けるマリアの様子をカット・バックで捉える一連の場面で、それが合わさるのが上記の生霊的なショットである。
 三人それぞれと踊る場面で各々の立場がその背景にスクリーン・プロセスとして映し出されるという極めて映画的な表現も素敵だ。デュヴィヴィエが「望郷」(1937年)でも面白いスクリーン・プロセスの使い方をしていたのを思い出す。

ケベックの厳しい風景の捉え方が鮮やかで、風物詩・映像詩的な観点で極めて満足度が高い。僕は十二分に堪能した。

マドレーヌ・ルノーという女優は当時34歳くらいで、ギャバンより年上だが、アニェス・ヴァルダ監督「幸福」(1965年)に出たマリー=フランス・ボワイエのように柔らかい雰囲気を持って可愛らしい。

同じように毛皮が扱われる昨日の「果てしなき蒼空」では西部劇らしくインディアンと字幕になっていた。本作ではインディアンと先住民と両方の言葉が出てくる。恐らく、ケベックは広大で先住民としてインディアンとイヌイットのいずれもがいたからだろう。こうした訳は原語に対して非常に正確で嬉しい。日本において使用禁止用語ではないIndianを“先住民”と訳すような過剰対応をしていず立派。

この記事へのコメント

モカ
2022年05月22日 09:49
こんにちは。

こんな映画があったんですね。中学の頃に確か偕成社のジュニア世界文学全集?
で読んだ記憶があります。作者名が「類右衛門」みたいだと思って手に取ったような思い出が… 恥ずかしながら私が本を手に取る動機はこう言うのが多いです。

細かい事ですがこれって岩波から出てましたかね? ツルゲーネフの「処女地」なら岩波から出ていましたが…
こちらは平成6年頃、新潮文庫が出した復刻版シリーズの中にあったので思い出した次第です。 その復刻版も今やほぼ絶版なんでしょうね。 最初から重版なしの復刻版かもしれませんが。
まぁそんなことはどうでもいい事で、懐かしいので映画は是非観たいです。
オカピー
2022年05月22日 20:10
モカさん、こんにちは。

>類右衛門

そういうアプローチで読むのも良いでしょう!

>細かい事ですがこれって岩波から出てましたかね?

モカさんの仰る通り、新潮文庫ですね。こっそり訂正してしまおうと思いましたが、岩波に棒線を引いて正しい“新潮”を書き足すことにしましたm(__)m

>懐かしいので映画は是非観たいです。

プライム・ビデオにありますので、是非どうぞ。
僕はお話より映像詩として非常に気に入りましたが、物語として見ると、呆気ない印象を受けるかもしれません。
当方は、逆に、図書館にあった本もいずれ読もうかと思います。
モカ
2022年05月24日 17:30
こんにちは。

早速観ました。
原作本をかつて読んだのは確かなのですが、何せ半世紀以上前の事でして…多分あんまり面白くなかったか、理解不足だったか…

フィンランドのノーベル賞作家シランパーの「若くして逝きしもの」を子供向けにリライトした「少女シリアの死」とスリーグレイセスの「山の娘ロザリア」と本作の原作とが記憶の中で「北国の薄幸の少女」のイメージで渾然一体となっていたようです。
そこへもってフランス系カナダという事でザバンドの「canadian driftwood」を思い出し、頭で音楽が鳴り出してしまって画面に集中できませんでした。

ヴィゴ モーテンセンの「フォーリング」と続けて観たのも組合わせ的によくなかったかもしれません。食べ合わせにも気をつけないといせませんね。
モカ
2022年05月24日 19:26
訂正です。

ザ・バンドのナンバーは「Acadian driftwood」でした。
オカピー
2022年05月24日 20:27
モカさん、こんにちは。

>フィンランドのノーベル賞作家シランパーの「若くして逝きしもの」を子供向けにリライトした「少女シリアの死」

知らんぺ(笑)

>スリーグレイセスの「山の娘ロザリア」

スリーグレイセスのバージョンは知らなかったなあ。数歳の差のせいです。
 個人的に中学で習って以来好きな曲ですが、今でも日常的に頭の中でメロディーが流れており、たまには実際に口ずさみます。多分今月も一回くらい口ずさんでいる筈です。

>ザ・バンドのナンバーは「Acadian driftwood」でした。

アカディアにはカナダも入るので、この歌が頭に浮かぶのは間違いではないですね。
 もっと南のフランス系アメリカ人はケイジャンと言いましたね。ドゥービー・ブラザーズの Dark Eyed Cajun Womanという曲で憶えました。
モカ
2022年05月24日 22:28
>知らんぺ(笑)
やっぱりね〜 予想通り、想定内の反応です。
フィンランドの名前は面白い。昔探偵ナイトスクープで調査してましたよ。
アホネンとかパーネンとかあったかな
 あほちゃいまんねん、パーでんねん ^_^

次回からはもっと真面目にコメントしますね。すいませんです。
2022年05月24日 22:42
P.S.

本筋から離れてしまいますがacadian がアメリカで訛ってケイジャンになったようです。
こちらに詳しく出ています。
   ↓
   ↓
http://d130f.blogspot.com/2016/02/20-acadian.html
オカピー
2022年05月25日 22:40
モカさん、こんにちは。

>>知らんぺ(笑)
>やっぱりね〜 予想通り、想定内の反応です。

えへへ。

>フィンランドの名前は面白い。

スキージャンプに強い選手は殆ど~ネンです。ニッカネン、ニエミネン、アホネン・・・。ネンは~出身といった意味らしいですね。
ファースト・ネームも面白く、カウリスマキ兄弟のミカとアキとかまるで日本の女性のよう。フィンランドでは男性名のようですが。

>acadian がアメリカで訛ってケイジャンになったようです。

綴り・発音から言ってそんな感じがしていました。
この映画の前日に観た「果てしなき蒼空」にケイジャンが出ていました。全く偶然なのですが、北米のフランス人が絡む映画を二本続けて見ることになりましたよ。

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